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「だから! 二人の世界作るなっての!」
西岡は怒鳴ると同時にベシっと流の手を叩き落とした。
その瞬間、流の目にギラリと剣呑な光が走ったような気がした。オレに向けられていた微笑みが瞬時に西岡への冷笑に切り替わる。
マズイ。これは本気で怒ってる。
「流。問題も片付いたし、もう大丈夫だから。こっちの事は心配いらないからさ。ね?」
背中にヒヤリとしたものを感じて思わず口を開いていた。とにかく流の気を逸らしたい一心だったオレは、気が付けば流の帰省を促していた。
付き合いは長いが、今だに幼馴染みの怒りポイントが掴めない。
先ほどのやり取りの何処に怒れる要素があったのだろうか、と内心で首を傾げた。
こちらに向き直った流の目にまだ怒気が込められているのを確認したオレは、再度帰省を促すために口を開く。
「おばさん達にも何ヶ月も会ってないだろ。きっと淋しがってるぞ」
「遊貴?」
ジッと見詰める流を見詰め返して、オレはへらっと笑顔を浮かべる。
流が訝しむのも当然だ。いつもならこのまま部屋に泊まり込んで徹夜で愚痴祭になるはずなんだから。
彼はいつも律儀に付き合う。当然、今回もそのつもりだったんだろう。
オレもそうだった。しかし、一度口から出た言葉はなかった事には出来ない。
「代わりに愚痴に付き合ってくれる人もいるし。ね? 切人?」
あえて名前で呼んだ。西岡の下の名前を呼ぶことで、オレは彼に対して気を許しているのだと流にアピールする。
別に不自然じゃないはずだ。前から切人本人に名前で呼んでほしいと言われていたし。流を差し置いて先に呼ぶ気にはなれなかったけど、彼が呼ぶようになったのなら構わない。
流が嫉妬するとは思っていない。以前からオレの交友関係を心配していたから。オレが心から頼れる相手がせめてもう一人くらい出来れば、と。
今のところ、オレ自らゲイである事を打ち明けれた友人は流しかいない。流以外の友人達には秘密にしているし、切人にカミングアウトしたのはオレじゃなくて流だ。
だからオレと切人が親しげにしてても、喜びこそすれ嫉妬のあまりオレ達の仲を邪推する、なんて事態にはならないはずなんだ。
オレから唐突に話を振られた切人はちょっと慌てる。
「あ、おお?」
「何で疑問形? 付き合ってくれないの?」
クスクスと笑いながら聞く。
切人の予定を先に確認するべきだったかもしれない。
でも、わざわざオレを心配して朝から駆け付けてくれていたんだ。今日の予定はキャンセルしているだろう。たぶん。
「俺でよければいくらでも」
「ありがとう、切人」
どこか嬉しそうに言った切人にオレは満面の笑みで答えた。
よかった。断られたらどうしようかと思った。
とっさに口から出た思い付きだけど、これはいい機会かもしれない。
オレは流に依存し過ぎている。自分でもいつかどうにかしなくてはと思っていた。
オレと切人のやり取りを見守っていた流に向き直る。覗き込んだ彼の目にはもう怒りは見られない。
「オレの為に今日までこっちに居てくれてるのは知ってる。でも流にばかり色々と我慢させたくないんだ。オレだって少しくらい流の為に何かしたい」
流はオレを少し見詰めてふっと笑う。その穏やかな笑顔は最上級に機嫌がいい時の顔だとオレは知っている。
「男前な発言だな。惚れちゃいそうだ」
「いくらでも惚れて。どんと来い!」
ヘラリとオレも笑った。
第一目標は甘え癖を治す事。そのためにとりあえず、今、思い付くのは寂しいのを我慢することだ。
ささやか過ぎて情けない気もするけど、一足飛びには無理なのは判ってるから少しずつ、ね。
次話から11月になります。本編(流編)と同じ内容です。
~謝罪~
8月後編、ラブ有Ver.を書き上げることが出来ませんでした(土下座)
この後の三人ですが、昼食を取った後に流が実家へと帰り、残った二人は遊貴が本文で言っていた通りに愚痴祭(笑)を開催。段々と感情的になっていく遊貴を切人が慰めて、そのままなし崩しにHしてお付き合いスタート。
という流れになってました。
プロットではこの『慰め~お付き合い』辺りが8月後編のメインだったんですが、どうしても書き上げる事が出来なくて断念しました。
なので代わりに春紀との別れのエピソードを追加してみました。
本当はこれ、春紀視点の閑話にしようかと思ってたんですけど。
でも誰得(もちろん岩石得)な話になっていたと思うので、これでよかったのかなと。




