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あらかた掻き込み、オレの食べるスピードが落ち着いてきた頃、流が話し出した。
「そうそう、西岡がずいぶん心配してたよ」
「西岡が? ……あ、」
そうだった。オレを助けてくれたの彼だっけ。
ドアの向こうの人物が去ってから、しばらくして春紀さんも出て行った。一人残されたトイレでノロノロと身支度を整えてたら、やって来たのが西岡だった。
反射的に流の所へと頼んで気付いたんだ。彼の声とトイレのドア越しに聞いた声は同じだって。
「西岡には言わなかったけど、相手って彼氏だよな?」
「うん。春紀さんとデートだった」
はあっと溜め息をつく流。
やっぱり呆れるよね。ここの所、春紀さんと会った後は生傷が絶えなかったし。
「そっか。あ、西岡って連れとか居た?」
「他には誰も見てないけど。どうかした?」
騒ぎ立てられるのは嫌だからトイレから連れ出された時ちゃんと周りを見渡した。
公園を出た辺りから記憶がないけど、少なくともそれまでは西岡以外の人間をオレは見ていない。
「いや、一人で意識の無い人間を運ぶのって大変だったろうなって。礼を言わないとな」
「うん。お礼を言いに行きたいな。彼の都合のいい日が知りたい。聞いてもらっていい?」
コクリと頷く流。携帯を取り出し耳に当てる。
あの時は自分の事に精一杯でろくに礼も言えなかった。オレが今ここに居るのも全ては彼のおかげなんだ。ちゃんと感謝の気持ちを伝えたい。
もしも彼がいなかったら。もしくは彼以外の人だったら。
最悪、警察沙汰になっていたかもしれないし、少なくとも、苦しいだけの時間がもっと長く続いていたはずだ。
そう思ったらいまさら体が震えてきた。
きゅっと手を握られる。相手は言わずもがな、目の前で電話の相手と話す幼馴染みだ。
繋がれた手から伝わる体温が大丈夫だと言っているようだった。
※ ※ ※ ※ ※
西岡はすぐにやって来た。
目の下にはうっすらと隈が浮かび、その表情は暗い。事が事なだけに、巻き込まれた彼が受けたショックはオレが思うよりも大きいのかもしれない。
「来てくれてありがとう! どうしても直接お礼が言いたくて」
精一杯の笑顔で言う。
謝ったりはしない。笑顔で何て事はないのだと伝えたいから。
向かい合う彼の両手を取り、しっかりと目を合わせた。
「イロイロと、本当にありがとう」
「あ、ああ。寝てなくていいのか? その……怪我は」
「大丈夫。我慢できない程じゃないよ。道場でシゴかれた後の方がキツイくらいだから」
オレは笑顔をキープして言った。
額には冷却シートが貼ったままだから間抜けに見えてるかもしれない。
「道場?」
「うん。これでも結構、強いんだよ。師範以外には負けたりしない」
西岡は明らかにうろたえだした。
うん、あなたが何を言いたいか判るよ。オレが暴行されたって思ってたんだよね? 一方的な暴力を受けたんだって。
でも違うんだ。誤解してるだろうからはっきり言うよ。
優しい人。眠れないほどショックを受けたのに。なのに電話一本でわざわざ駆け付けてくれた。
「昨夜のあの人はね、彼氏、なんだ。デートだったの」
だからね、あなたが傷付く必要は何処にもないんだよ。
次話から閑話になります。




