表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/41

18-1 ゴゴメール

「コビット族の戦士と刃を交えられるとは、こんなつまらない村でも、来た甲斐があった。」


 帝国兵が、ダルトンとの間合いをはかりながら、ゆっくりと歩く。ダルトンから一切目を離さずに、刀の刃を向ける。

 ダルトンは、そんな帝国兵を見てはいるが、腕を脱力した様に垂らし、斧を地面につけている。まるで戦う素振りがない様にして立ち尽くす。


「そう思って貰えるのは光栄だが、おまえさんは、まだ若い。こんな所で命を散らさなくても良いのではないか?」


「同情ですか?ここで逃げ帰れば死刑ですよ。我らが帝国は、弱肉強食。生き残るは、強者のみ。それに私は、死ぬのならば、()()()()死にたいのでね。」


 帝国兵は、ちらりと、ゴブリンの死体を見た。

 それをダルトンは、察した様だ。


「なるほどのう。悲しいが……やるしかなさそうだな。」


 帝国兵は、足を跳ね上げ飛び掛かり、一太刀、二太刀と、ダルトンに斬りかかった。ダルトンは、斧で綺麗に受けきって、間合いを取る。

 次は、ダルトンが帝国兵に飛び掛かり、斧を縦に振る。帝国兵は、それを受け止めて、ジリジリと刃を交えて弾き飛ばし、後方に飛び退いた。


 ダルトンは、どうも負ける気がしなかった。

 それには、理由がある。武器の質の違いだ。

 コビット特製のダルトンの斧は、硬くて丈夫な上に、重量もある。そして、ダルトンは、この斧だけは、火の国や桃源郷の鍛治師にも負けないと、自信と信頼を置いていた。実際の所は、そんな名匠の武具に勝てる訳がないが……。


 対して相手は、普通の刀だ。名刀という訳でもない。それなりの逸品だろうが、刀と言う物は、切れ味が良い反面折れ易い。

 ダルトンの斧と対峙するには、余程の腕がない限り、あの刀は、直ぐに折れてしまうだろう。それが、初めの打ち合いで、ダルトンには感じ取れた。


 しかし、油断は、決して良くない。ダルトンは、コビットの中でも名の知れた戦士だ。情けや手加減が死に繋がる事を、よく知っている。


 ダルトンは、闘気を発して、帝国兵に向かって駆ける。蒸気の様な白い煙を体に纏い、風で煙が揺らめく。

 帝国兵に近づくと、また上段から縦に斧を振り下ろした。


『 鎧砕き 』


 ()()()と、斧が闘気ごと揺れる。帝国兵も、刀に闘気を纏わせて防ごうとするが、それは敵わない。

 帝国兵の刀があっさり砕かれる。斧の刃は、刀を折ると、そのまま帝国兵の体を斬り裂いた。

 それからダルトンは、下げた斧を再び振り上げて、兵士の体を、もう一度斬り裂いた。


 それは、瞬く間の二連撃だった――。


 帝国兵は、仰向けになって倒れた。既に息は無い。

 ダルトンは、斧を振り、刃に付いた血を飛ばす。


「若者よ。ゆっくり眠るといい。」


 ダルトンがナイツを振り返ると、丁度、ナイツが龍人化した所だった。


「そう言えば、あの龍人族(ドラゴニュート)も若そうだったが、大丈夫か?女の方は、ビビアンだったか?姿が見えんが……。」


 ダルトンが心配していると、破壊された民家の中から、ビビアンを担いだ勇希が出てきた。


「勇希は、上手くやっておるようだな。しかし、サイナスからの救援はまだか?」


 ダルトンは、村の入り口の方を向いて考えた。村のあちこちに、死体が転がる様を見て、自身の考えが甘い事を思い知る。


「しまった!わしとした事が……サイナスや他でも、何か起きている可能性を考えてなかった!」


 ダルトンは、闘気をぶつけ合っている二人の方を見る。


「悠長にしている場合じゃないか。早く終わらせねばならん。」


+


 ゴゴメールは、太った大きな体の割に機敏な動きをする。強大な闘気に頼り切っただけの大男かと思っていたが、そういう訳ではないようだ。

 ゴゴメールは、ナイツに向かって連続で突きを繰り出す。


「龍人化しといて、そんなものかね?」


 ナイツは、鋭いハルバードの突きに圧されながらも、技を繰り出す。


昇竜瀧(しょうりゅうそう) (えい)


 銛を回転させながら、ゴゴメールを水流で突き刺す。


刺凱閃(ウルトラバイオレット)!! 』


 ゴゴメールも、対抗してハルバードを突き出す。


 再び、青と紫の二つのオーラがぶつかり合う――。


裏・(うら・)昇竜瀧(しょうりゅうそう) (えい)


 そこで、銛を突くナイツの姿が、水流となって消えて行く。すると、次の瞬間、地面の影から水流が渦巻きながら現れた。


「――大技の後は、何て言ったっけ!?」


 ナイツが銛をゴゴメールの胸へと突き刺す。


「なにをおおおお!」


 ゴゴメールは、目一杯の闘気を体から発しながら、体を反らす。

 ナイツの回転する銛が、ゴゴメールの鎧のプレートを削り、大量の火花が散る。

 紫の闘気によって、なんとか貫かれず形成を保っているプレートは、熱を持ち赤く変色する。ゴゴメールは、片足を後ろに下げ、必死に体を反らした。


「――うおおおおお!」


 両者が雄叫びを上げる中、ナイツの銛が、ゴゴメールの胸のプレートを弾き飛ばした。

 ナイツは、銛を突き出して、ゴゴメールの胸の前を通り過ぎる。


「ちっ。浅かったか!」


 ゴゴメールを振り返りながら悔しがった。


「――くぐっ。」


 ゴゴメールは、歯を食い縛り、胸を押さえながら体勢を崩す。露出した胸は、赤く爛れている。

 その時、ゴゴメールの鎧の隙間から、四角い小さな箱が地面に転がり落ちた。


「はぁ……。今のは、危なかった。フェイントとは、汚い奴だな。」


 ゴゴメールは、胸の傷を確かめた後、地面に落ちた箱を拾い上げる。ゴゴメールが箱を拾い上げると、箱がピーピーと、電子音を鳴らし始めた。


「何だ?壊れてしまったか?」


 ゴゴメールは、箱を調べながら携帯の電波を探す様に、箱を左右に翳した。すると、何故か勇希に向けると、電子音が鳴る。


「はっ!まさか、君!さっきの力は……。そういう事か!?」


 ゴゴメールは、何かに気づいた様子で、箱を見るのを止めて、勇希をじっと見ている。傷の痛みなど忘れて、垂れた頬の肉を、にっと引き上げ笑みを溢す。

 ゴゴメールは、箱を懐にしまい、太い足を一歩ずつ勇希の方に進めて行く。


 ビビアンを民家の壁にもたれ掛けさせて、彼女の様子を見ていた勇希は、ゴゴメールの接近に気づいていない。


「おい!何処へ行く!」


 ナイツが銛を突き出して近づくと、ゴゴメールがハルバードで薙ぎ払った。


「邪魔するんじゃない!!」


 ゴゴメールの笑顔が一変して怒り出す。


「そういう訳にはいかないだろう。大人しく投降するか、斬られるか選べ。」


 ダルトンがゴゴメールの前に立ちはだかった。


「何だと!?誰に口を聞いている!実験動物の分際で!ぐぬぬぬぬー!」


 ゴゴメールの怒りのボルテージが、最高潮に達しようとしていた。ブヨブヨとした皮膚は、赤みを増し血管が浮き上がる。

 これでもかと言うほどの闘気を放出し、紫の炎が天へと昇った。


「うおおおー!!!」


 闘気の波が辺りに押し寄せ、ダルトンは、身を守る様に手を翳す。


「凄い量の闘気だな。」


「私は、mにj!!」


 言葉にならない程の怒り。その紫色の荒れ狂う闘気を放ったまま、ハルバードを両手で構えて、ダルトンに突っ込んで来た。

 その怒り狂う巨体は、まるで闘牛の様だ。雄牛の如く目は血走り、鼻から熱気のある息を噴く。角は、ハルバードの切先だ。


「散れえええええいっ!!」


 怒涛の叫び声で、ダルトンを飲み込む。

 ゴゴメールとの体格差によって、ダルトンがより一層小さく見える。牛に立ち向かう蟻の子なんて、いとも簡単に押し潰されてしまうだろう。


 ダルトンの表情は、いつも通りだった。ビビっている素振りなど、一つもない。顔を隠す髭の所為で分からないだけかもしれないが、持ち上げた太い腕で落ち着いた様に、斧の握りを確かめる。


「まるで、魔獣だな。」


 荒れ狂ったゴゴメールを見て、ダルトンは、残念そうに息を吐いた。それから、流れるような軽い足取りを、前に踏み出した。

 沸かしたお湯の蒸気が、人の手で掴み取れないように。ダルトンは、紫色の闇の中を、白い湯気が漂う如く通り過ぎる。

 ゴゴメールの突き出したハルバードが、どれだけ荒れ狂っていようが、ダルトンには関係が無かった。


 ダルトンを突き抜けて立ち止まったゴゴメールは、体中から血を噴き出し始めた。倒れそうになるも、ハルバードの柄を地面に突き立て耐える。


「なんだと……。私がこんな小鬼に斬られた?ありえん!君……ただの小鬼じゃないな。」


「小鬼ではないわい!っふん。怒りに身を任せた闘気など、魔獣とそう変わりない。」


「これは、私の手に負える相手ではないね。っき!」


 ゴゴメールが勇希を睨む。


「ええ!?」


 なぜ睨まれたのか分からない勇希は、動揺した。


「仕方ない。情報だけでも持ち帰る事を優先するか。無謀な戦いをするほど、私も馬鹿じゃないんでね。」


 ゴゴメールは、小刻みに震えながらも、ハルバードに体を預けて立ち上がる。

 そして、捨て台詞を吐いて逃げ出そうと、口を開いたその時だった――。


「ここは、引かせてもらっうぅ!?」


 ドクンッ!


 ゴゴメールは、急に腹を押さえて苦しみ始めた。


 ドクンッ!


 それは、まるで、大きい方を限界まで我慢している様に――。


 ドクンッ!


「こっこれは……。」


 ゴゴメールの苦い顔に、大量の汗が滲み出る。


「……ヤタゼイめっ。くそ!この私をも実験動物に仕立て上げたなっ!くっくそぅ……。」


 ゴゴメールは、腹を抱えてその場に蹲る。


 ドクンッ!


 ダルトンとナイツは、急に苦しみ始めたゴゴメールを、敵ながらも心配そうに眺める。


「なんだ?おっさん、何したんだ?」


「知るか!致命傷までは、与えられてないはずだぞ!?」


 すると、ゴゴメールが大きく手を広げて胸を張り、醜い大きな口を開いて、天へと叫び狂った。


「ぐわあああああああ――。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ