17-2 ゴブリン?
「なんだよ、今の!」
飛ばした闘気が家を抉り、人を吹き飛ばした。初めて見る闘気の使い方に、勇希は、度肝を抜かれた。――あれが闘気なのか。
「私、キールを見て来るわ!ユーキは、ダルトンの援護!」
おれも!っと、言おうとしたが、先にミーファに指示を出されてしまう。勇希が返事をする間もなく、ミーファは、崩れた民家の裏へと走り去ってしまった。
せめて頭上のステラだけでも手渡せば良かった。と、後悔しながらステラを抱き抱え、ステラと顔を突き合わせる。
「援護って言われてもな。おまえを乗せたまま、おれがあんな奴と戦えると思うか?」
「キュッキュ!」
勇希には、ステラが『出来る』と、励ましてくれている様な気がした。
「分かったよ。ステラもいつも通り上手くやれよ?落っこちたって、助けてやれないんだからな。」
ステラが何度も頷く。
勇希は、ステラを頭の上に戻した。
村の中央では、大男がダルトンたちに近寄り品定めを始めた所だ。
「コビットに、漁村の連中か?カストールの変人どもが、こんな所に集まってるとはね!っはっはっは!」
未だに死んだ兵士をぶらぶらさせて、大男が笑っている。
それに対して、赤毛の女性が激怒した。三本に分かれた矛先を大男へと向けて啖呵を切る。
「誰が変人だよ!このっデブ!そっちのが変人じゃないか!こんな化物に村を襲わせやがって!」
「化物?君こそ失礼じゃないか?そいつらは、歴とした人間だぞ?化物呼ばわりするなんて、酷いのじゃないか?」
――このゴブリンが人間!?どう言う事なんだ?
勇希は、耳を疑った。
「人間だと!?」
ダルトンがゴブリンの死体を見て声を荒げた。
「君たち、知らずに戦ってたのかい?良いだろう。見せてやるよ。こいつ、死んじまったかな?んー、微かに息があるか?」
大男が左手に持つ兵士に問い掛けている。
「まあ、やってみれば分かるか。」
開き直った大男が紫色の小さな欠片を取り出し、矢の刺さった兵士の口の中にねじ込んだ。無理やり突っ込んだ太い指を口の中から抜き取る。
すると、死んだ兵士の体がゴキゴキと骨を鳴らして、骨が皮膚を突き上げ変形し始めた。どんどん皮膚が暗い緑色に変色して行く。
「お!お!いいね、いいね。」
大男は、わくわくしながら、その様子を楽しんでいる。
「グギェアアア!!」
矢の刺さった兵士が産声を上げた。帽子から角を突き出し、ゴブリンへと姿を変えて叫び狂う。
「なんて悍ましい事を!」
銛を構えた男性が悲痛な叫びを上げた。
そんな男性に大男が軽蔑した視線を向ける。
「君たちも似た様なものだろ。そう突っかかるなよ。」
「俺たちをこんなのと一緒にするな!こんな非道、許される訳がない!」
そう言い返した男性に同調して、女性が攻撃の意を示す。
「あの世で、女神様の裁きを受けな!」
武器を構え直す二人の体をよく見ると、所々に人の体と違った特徴が見える。
銛を掴む指の爪は、鋭く尖り、指と指の間には、水掻きの様な膜がある。その逞しい腕には、体毛の代わりに鱗が薄っすら生えていたり、少し尖った耳の下には、エラの様な三本の切れ目が入っている。
「君は、そこのコビットをやるんだ。私がこの男の相手をしよう。」
大男は、残った一人の兵士に指示を出した。
「はっ!」
と、兵士は、勢いの良い返事をし、ダルトンに体を向けて刀を抜いた。
奥では、既に女性とゴブリンの戦闘が始まっていた。
「俺は、コメティアの戦士ナイツ。名を聞いておこう。帝国の兵士よ。」
「ふむ。いいだろう。私は、帝国軍魔科学捜査隊小隊長ゴゴメール様だ。私のお眼鏡に適う実力なら、あとで研究素材にしてやろう。まあ、それほどの実力があるように見えないがね。」
「けっ。言ってくれるな。」
こうして、三つの戦いが始まった。
勇希の事は、眼中に無いみたいだ。一騎討ちに横槍を刺していいものなのか。援護しようにも、武器がナイフしかない。――近づくと、邪魔になるよな?
どうしたものかと、勇希は考える。とりあえず、使える物がないか、辺りを探してみる事にした。この際、使えるのなら、彼らの武器でも何でも良かった。
女性の戦士は、モヒカンの襟足から伸びる二本の編まれた髪の毛を揺らしながら、ゴブリンの攻撃を銛で上手く受け流す。
ドーン、ドーン、ドーン!
ゴブリンが斧を豪快に振り下ろす度に、地面がひび割れ砂埃が舞う。――相変わらず、とんでもない怪力ね!
女性は、銛をクルクル回転させてから、左手を前に突き出し、右手で銛を脇に挟んで構えた。荒れ狂う水流を連想させる様な闘気が身体中から流れ始める。
『 昇竜瀧 泳 』
彼女が銛を突き出すと、水流が矛先を追って流れ出す。その矛先は、高速で回転し、三つに分かれた銛先が一本のドリルの様な渦と化す。
勢い良く突き出し、ゴブリンの左肩をドリルが貫く。ゴブリンは、痛みで悲鳴を上げる。
「グギァアアア!」
水流が肩を突き破り、ゴブリンの左肩から先が宙を舞う。その最中、ゴブリンの右手が彼女の背中を掴んだ。
バシッ!
「なっ!?」
これには、彼女も油断した。
ゴブリンは、彼女が銛を突く勢いを利用して体を一回転させた。彼女を掴んだ右手が右肩を追って回転する。女性の脚と腕は、遠心力で大きく外に投げ出され、まさに宙ぶらりんの状態となった。
その無防備な状態のまま、ゴブリンは、民家へ向けて彼女を放り投げた。
ドゴーン!
鈍い轟音と共に、壁に穴が空く。バキバキと、音を立てて民家の天井が崩れ始める。
巻き上がる粉塵と共に民家が崩れ、彼女の体は、瓦礫の下敷きとなってしまった。
「グギェエエエ!」
ゴブリンが叫ぶ。
勝利の雄叫びかと思われた叫びだったが、そうでは無かった。ゴブリンは、左肩を押さえ悶えていた。足の裏を地面に叩きつけ、痛みに苦しんでいる。
「ビビアン!!」
ナイツが女性を心配して名前を叫んだ。
「私を相手に、余所見をしている余裕なんて、あるのかねえ?」
ゴゴメールがハルバードを突き刺してきた。ナイツは、瞬時に避けるが、ハルバードの斧の刃が胸元を掠める。
「くっ!」
ピッと、一本の切り傷が胸に描かれる。
「大技の後は、隙が生まれ易いと教わらなかったのかね?私の部下は、優秀だろう?あの様な姿になっても、しっかりと体が覚えている。日頃の訓練の賜物だねえ。」
「そんな部下を使い捨てみたいにしやがって。人の命を何だと思ってる!」
――その時だった。
「うおおおお!!」
勇希が大声を上げながら、ゴブリンに向かって駆け出した。
「ん?なんだい、あの小僧は?武器も持たずに滑稽だねえ。っはっはっは!」
「おい!無茶だ!」
勇希は、再びゴブリンの顔面を拳で殴り飛ばした。勇希の拳には、革のベルトがぐるぐる巻きにされてある。ベルトは、倒れていたゴブリン兵から拝借した物だ。
その為、怪我の心配もなく、思いっきり力を込めて殴る事が出来た。斧や槍も見かけたが、使えない武器を拾うよりマシだと判断したのだ。
勇希に殴られたゴブリンは、村の反対側の出口付近まで飛んで転がり、動かなくなった。
ゴゴメールは、これを見て、目が飛び出すほど驚いた。
「ええー!?私の兵を殴り飛ばしたね!!」
「あはは……すげーや。」
ナイツも言葉を失うほど驚いている様子だった。
そんなナイツに勇希が声を掛ける。
「彼女の事は、任せて!」
勇希は、崩れた民家に向かって走り出した。
「ああ、頼んだ!」
ナイツは、キリッとした顔をゴゴメールに向けた。ゴブリンを殴り飛ばした勇希の姿を見て、感化された様だ。――俺もこんな奴に、負けてはいられない。
ナイツは、気合いを入れ直す。
『 龍人化 』
ナイツの皮膚の鱗が硬くはっきりとしたモノに変化して行く。顔付きも変化し、目と鼻の形も変わった。目は丸くなり、鼻は平らとなる。唇は、耳の方へ伸び、まるでトカゲの様な顔だ。
背中には、背骨に沿ってヒレの様な突起が幾つも出現しているが、尻尾は生えていなかった。
「全力で行かせて貰うぜ!」
「おうおう。帝国泣かせの龍人化ですか。怖い怖い。」
そう言うゴゴメールは、全く怖そうにせず、ナイツを嘲笑った。
そして、ハルバードと銛がぶつかり合う。
村の中央に、青と紫のオーラが立ち昇った。




