16-2 新たな同行者
辺りは真っ暗。
勇希は、焚き火の前に膝を立てて座り、遺跡で見つけた玉を手の平の上で転がしていた。
一体これは、何なのだろうか。中では、光の粒がゆっくり円を描く様に回っている。じっと見ていると、自分も光の粒となって、渦の中へと引き込まれそうな気分になる。
そんな時、ダルトンが側にやって来た。植物のツルの様な紐を片手に持っている。
「ほら、それを貸してみろ。」
勇希は、何故かと疑問に思ったが、言われるがまま、ダルトンの差し出した右手に玉を転がした。
そうすると、ダルトンは、勇希の隣に腰掛け、器用な手つきで玉に紐を括り付ける。ダルトンが森の暗がりを顎で差して言う。
「そこら辺に生えている細長い葉があるだろ?それを裂いて編み込んだんだ。今は硬いかもしれんが、そのうち自然と良い感じに馴染むはずだ。」
ダルトンは、喋りながらも手を止めず、まるで魔法の様に紐を編み込む。ゴツゴツとした小さな指だが、繊細な力加減で指を動かす。そして、最後にキュッと、音を立てて縛り、綺麗な輪を作り出した。
「首に掛けておけば、失くす事無く安心だろ?」
そう言うと、勇希に即席のペンダントを差し出した。
「へー。ありがとう!こんな事も出来るなんて、ダルトンは、凄いよ。」
勇希は、ペンダントを目の高さまで掲げて、よーく眺める。
Xに縛られた玉が、くるりと回転する。
「ステラが騒がしいな。わしが様子を見て来よう。」
ダルトンは、照れ隠しに鼻を擦った後、腰を上げてステラの所へ向かって行った。
ペンダントを首から下げ、胸に当たる玉を手持ち無沙汰に指で触る。
着け心地も良い感じだ。普段は、服の中へでも入れて置けば良いだろう。そうすれば、派手に動いても問題無さそうだ。
「今日も飛行限界点が綺麗ね。」
ダルトンと入れ替わりに、ミーファが隣にやって来た。
見上げた真っ暗な夜空には、飛行限界点が橙や黄色に揺らめいている。日によって色が変わるのか、場所によって変わるのか。夜空が昨晩とは、また違う顔を見せていた。
空を見上げる勇希は、ミーファのその台詞に笑ってしまった。
『月が綺麗ですね。』と、言う常套句を連想させられた所為だ。月の無いノアには、そんな言い回しなんて、存在しないだろう。
「何?」
疑問に思ったミーファが勇希の顔を覗き込む。
「いや、何でもないよ。」
勇希は、ミーファと一瞬だけ目を合わせると、夜空に視線を戻した。
「隠す事ないでしょ?気になるじゃない。」
ミーファは、ツンとして焚き火を見つめた。
「ミーファって、本当にお姫様なのか?」
「悪かったわね、ガサツで。」
(そこまでは、言ってないぞ……。)
勇希は、これ以上ミーファを逆撫でしないよう、説明を始めた。
「おれの住んでた所に、似た言葉があってね。男女がこういった夜空を見ながら、想いを告げる時に使ったりする言葉なんだ。」
「えっ…ええ!?想いって、告白ってこと?」
ミーファは、動揺しながら空を見つめる勇希の横顔を見た。
「今は、そう言う意味で使う人は、少ないんだけど。そうだな……冗談だったり、言葉遊びで使うのかな。」
「ふ〜ん。ユーキの故郷ってどんな所なの?」
ミーファは、大人しくなり、勇希の言葉に耳を傾ける。
勇希は、変わらず飛行限界点の煌めきを眺めていた。夜風が勇希の癖毛をなびかせる。
「んー。一言で説明するのが難しいな。ノアとは、全然違う世界だからさ。」
「世界?」
「ああ。おれと望は、別の世界から来た迷い人なんだ。あと、春花も。」
「えええ!?そんな事ある訳ないでしょ!?私の事、騙そうったって、そうはいかないわよ?」
闇夜に響き渡ったミーファの驚きの声に、横になっていたヒイロや寝支度をしていたキールと望が顔を向けた。
それを察した勇希は、ミーファに顔を寄せて、小声で言う。
「そんなの、どうやって証明すりゃいいんだよ。」
ミーファは、勇希と周りの反応により、自分の声の大きさに、漸く気がついたようだ。赤くした頬を腕に埋め、小さくなる。
それからしばらくして、望が二人の下にやって来た。
「ねえ!ゆうくん!!」
何やら伝えたい事がある様で、必死な趣きだ。
「どうした?」
「問題発生だよ……。」
望は、深刻な表情をして、顔を下に向けた。悲しそうにしょぼくれている。
「何だよ?ホームシックか?」
「うん…。今週のパイプオールガーン見逃しちゃった……。」
勇希は、思ってた以上に大した話ではなく、呆れた。
「なんだよ。そんな事か……。」
勇希は、肩を落とした。
望は、勇希の発言に対して怒りを露わにする。
「そんな事って!ひどいよ!!」
今にも泣き出しそうな程の剣幕だ。
勇希は、慌てて望を宥める。
「帰ったら見逃し配信で観られるから、落ち着けって。」
「……ほんと?」
望は、半信半疑に勇希を見つめる。
「ああ。しかも、まとめて一気に観れるはずだぞ?楽しみだろ?」
勇希が笑顔で伝えると、望の表情は、一変してケロッとにこやかになる。
「うん!ならいいや!」
「それじゃ、早く寝ろよ?歯磨いたか?」
勇希が望に寝る様に誘導する。望は、素直に従った。
「うん!おやすみー。」
「おやすみ。」
二人のやり取りを見ていたミーファが勇希に微笑む。
「ふふ。ユーキも大変ね。」
望を見送った勇希は、やれやれと焚き火に体勢を戻した。
「そろそろ、家が恋しくなって、グズると思ってたんだ。」
「ユーキは、恋しくないの?」
ミーファが、ふと尋ねた。
勇希は、周囲の仲間たちを眺める。ダルトンとステラ。キールと望。ヒイロにミーファ。
「こっちに来てから色々あって、それどころじゃないかな。旅も思ったより楽しいし。」
「それには、私も同感ね。移動や野宿は、大変だけど。あー、そろそろ私も、自分のベッドが恋しいわ。それじゃ、私も明日に備えて寝るわね。見張りの交代の時は、遠慮せずに起こしてよね。」
ミーファは、立ち上がり焚き火から離れて行く。
「うん。分かった。おやすみ。」
勇希は、ミーファを見送り、再び空を見上げた。
ギラギラと、飛行限界点が煌めく。
「ホームシックか……。」
勇希は、家の事よりも、健の安否を心配したのだった。




