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14-1 遺跡

 勇希たちは、ショウの街を抜け出して、西側にあるジャングルの中に入っていた。ツルやツタが生い茂り、黄色い果物を実らせた、大きな木の下を歩く。


 スコップのお蔭もあり、見張りの兵士に知らせが届いておらず、事がスムーズに進んだ。結局、勇希たちは、変な目で見られる事も、追いかけ回される事も無かった。

 勇希は、それを面白く思わなかった様だ。


「なんか拍子抜けだなー。」


 勇希がボヤく。

 先頭で斧を振り、草木を切り開いて道を作っていたダルトンが反応して振り返る。


「何がだ?」


「もっと追い駆け回されると思ってた。だって、魔法があるんだろ?飛んできたり、急に現れたりすると思うじゃん。」


 ダルトンは、不貞腐れた勇希を見て、笑い飛ばす。


「はっはっは。そんなこと出来る魔法使いなんて、中々いないぞ?」


「えー。そうなの?」


 ノアには、火を吹くドラゴンや、稲妻を落とす魔獣が存在した。それに加え、ギミトランは、闘気で風を舞い起こしていた。それならば、そのくらい出来る魔法使いがいても、おかしくはない。と、勇希は、思っていた。しかし、それは、勇希の勘違いだったのだろうか。


 ダルトンは、再び斧を振り、前を行く。草木を切り裂く手に力を込め、抑揚をつけて話し始める。


「魔法使いってのはな。昔は、腐るほど居たらしい。だが、戦争で大勢が亡くなってからは、貴重なんだ。ほら、グリンウッドにも、年寄りが少なかっただろ?」


 そう言われてみれば、不思議だった。村長も、年寄りが少ないと言っていたが、()()かは、言わなかった。


「戦争のせいだったの!?」


 それにしても、コビットたちは、ほのぼのと暮らしていたし、ショウの街も、割と平和そうな雰囲気だった。

 昔と言うのが、どれくらい前の事なのか分からないが、戦争で大勢が亡くなった。と、言う事なのだろう。


「戦争となると、戦士なんかより、多くの魔法使いが借り出される。遠くから魔法で一斉に攻撃するのが、主流だったからだ。その所為で、多くの達人が亡くなった。どんなに腕が良くても、一瞬で命を奪われる。それが、戦争というものだ。」


 ダルトンは、熱い表情で斧を振り、進むのに邪魔な蔦を断ち切った。

 一連の話を聞いて、勇希は、大きく肩を落とす。


「えー。がっかりだよ……。ドラゴンが居るんだ。とんでもない魔法が見られると思うじゃん。」


 戦争と言う話は、左から右に抜け、勇希の頭は、魔法だけを受け止めていた。勇希は、それほど魔法に期待をしていた。


「ゆうくん、やっぱりロボットだって。」


 望が勇希を励ました。望は、望で、頭に思い描いている物があるようだ。見知らぬ森を、楽しそうに観察しながら進んでいる。


「ここまでに、そんな要素どこにあったよ……。」


 勇希のテンションは、駄々下がりだ。


 そこで、キールが閃いた様な顔をした。


「そう言えば、この先に、戦時中に使われてた、古い遺跡があったよね?」


 明るい声で、前方のダルトンに問い掛けた。

 勇希は、下がった頭を、瞬時に上げた。男の浪漫を擽る単語に、自然と体が反応する。


「遺跡!?」


 急に上がった頭に、ステラが怒った。勇希のツンツンとした髪に、襲われたみたいだ。


「風鳴りの遺跡か。キール、良く覚えてたな。」


 斧を振る手を止めたダルトンが言った。


「遺跡を覗いてみるってのは、どうだい?何もなくて、つまらないかもしれないけど。」


 そう言ってキールは、勇希と望に笑顔を向けた。


「ぼく、遺跡見てみたい!」


 遺跡に興味津々な望を見て、ダルトンは、考える。斧を肩に乗せ、ジャングルの中を見渡す。周囲は、葉の擦れる音と、動物たちの鳴き声で騒がしい。


「ふむ、そうだな。寄り道も悪くない。行ってみるか。」


 乗り気になったダルトンは、踵を返す。

 すると、望が、飛び上がって喜んだ。


「やった!」


+


 風鳴りの遺跡は、蔦の多く張る森を抜けた先にあった。森の中にぽっかりと空いた、空の見える空間。篝火や松明を設置する為の古い柱。コケと草に覆われた黄土色の土の道。そこを、湿った風が通り抜け、小高い丘に吹きつける。

 吹きつけた風は、丘と遺跡の入り口に二分される。その若草に覆われた丘の下で、遺跡の入り口が大きな口を開けて風を呑み込んでいた。

 灰色の石壁で作られた遺跡の外壁が、丘に埋まる形で遺跡が建てられており、暗い入り口から森の北側へと道が続いている。

 遺跡の周囲は、森に囲まれ薄暗く、空から差し込む明かりが、葉から零れ落ちる雫に反射して、キラキラと輝きながら地面を照らす。

 ワクワクと昂る気持ちを、風景が不思議と落ち着ける。


「綺麗だね。」


 望が光を眺めて言った。神秘的な遺跡の外観に、目を奪われる。


「誰も手入れしてないにも関わらず、この状態を、保ち続けているんだ。昔の人の技術は、素晴らしい。」


 ダルトンは、惚れ惚れとして、遺跡の外壁を指で撫でた。多くのコケやツルが、壁に根を張っているが、伸び放題というわけではなかった。


 それから、全員で遺跡の中に足を踏み入れた。


 遺跡の中は、涼しい。と、言うか、少し肌寒いぐらいだった。

 頑丈な石壁に囲まれた、広々とした空間。大きな遺跡の玄関口には、柱がないにも関わらず、天井が水平を保ち続けている。


「思ってたより広いなぁ。」


 何も無い空間に、勇希の声が響き渡る。草やコケ、土が散乱し、本当に何も無い。壁の隅では、ネズミの様な小動物が身を潜め、小さな虫たちが壁を這っている。


「戦時中は、ここで大勢が寝泊まりしたらしいぞ。今は、誰も使ってないがな。盗賊や密猟者に使用されていないのが、不思議なくらいだ。」


「街から近いし、街道から直ぐだからね。隠れ家には、向かないんじゃないかな。俺たちみたいに、稀に訪ねてくる人も、いるはずだし。」


 コビットの二人は、異常が無いかを確認しながら、遺跡の中を進んで行く。


「へー。戦争って、どこと、どこが、争ってたの?」


 勇希は、あまり興味が無いが、先程から、度々話題に上がってくるので、聞いてみた。


「ここ数百年は、主に、帝国とだな。」


 と、ダルトンが手短に言うと、キールが補足する。


「シンデン帝国。西の海の向こうにある島国だよ。大昔、犯罪者は皆、樽に詰められて、島流しにされたんだ。そうして流れ着いた人達が、築き上げた国でね。今も彼らは、大陸の人間に、恨みを持っているし、憎んでいるんだ。」


「でも、大昔の話なんでしょ?」


 するとキールが、急に声色を低く変える。


「悪さをすると、島流しにされるぞ?」


「え…。」


 勇希と望は、ぽかんと口を開けて、キールを見た。遺跡の暗さも相まって、ゾッとする雰囲気だった。

 キールは、そんな二人の表情が可笑しく、笑い始める。

 キールが笑い続けるので、今度は、ダルトンが補足する。


「そうやって、今でも躾けで使われるぐらいだ。帝国の人間と知れば、蔑む人は、今でも多いだろうな。その上、彼らは、戦争を仕掛けて来た。前の戦争でも、多くの人が犠牲となったんだ。まあ、ここ二十年は、大人しいものだが、良い印象を持つ者は、そうはいないだろう。」


 昔話だと、思って聞いていた戦争の話が、割と最近の話で、勇希は、悲しい気持ちとなる。


「そうなんだ……。」


 どこの世界でも、争い事は、絶えない。分かっていた積もりでも、悲しいものは、悲しい。


「最近は、大人しいと言っても、年に数回は、大陸のどこかで見かけるらしいから。もし、遭遇しても、巻き込まれない様にしないとね。それじゃ、奥に行ってみようか。」


 キールが気分を切り替えて、奥に続く通路を示した。


「うん!」


 待ってましたと、言わんばかりに、望が元気に返事をした。


+


「暗いし、ジメジメしてるよ。」


 望は、リュックの紐を掴んで、慎重に遺跡の通路を歩く。突き当たりにT字路が見えるが、その先は、真っ暗だ。

 勇希は、口元に指を当てて、恐る恐る、望を注意する。


「しー。望、静かに……。」


「え?」


 望が、首を傾げて、勇希の顔を確認した。すると、勇希が、天井をそっと指差した。

 望は、勇希の背中のステラが見上げている天井に、目線をゆっくりと上げる。徐々に露わとなっていく暗い天井には、大量に蠢く、()()が居た。


「うわっ!?」


 望は、それを見て腰を抜かした。尻を突いて、恐怖の目を向ける。なんと、天井一面に、びっしりと、巨大なムカデが身を寄せ合っていた。しかも、一匹一匹が、人間より大きい。


「――どうするの!?」


 望は、出来る限りの小さな声で、助けを求めた。


「驚かせないように進めば、大丈夫だよ。」


 キールがニコニコして言った。ダルトンとキールは、平気なのか、普通に通路を歩く。


「まじで……ここを行くの……。」


 勇希は、背を低くして、体を震わせた。見ていたくはないが、天井から目が離せない。見ていないと、いつ自分の真上に、ムカデが落ちて来るか分からないからだ。――何食ったら、ここまで、デカくなるんだよ!?

 勇希は、悲鳴を押し殺し、慎重に歩く。背中のステラは、じっと天井を見上げたまま動かない。


「でも、真っ暗だよ?」


 望が起き上がって聞いた。気持ち頭を低くくする。


「松明は、煙が多過ぎるから駄目だな。ランタンがあっただろ?」


 勇希がランタンを取り出す為に、リュックを降ろすと、ステラが、頭の上に移動した。そして、取り出した小さなランタンを、ダルトンに手渡す。


「本当に行くの?」


 喜んで入った遺跡だが、勇希は、もう帰りたかった。


「奥は、明るいはずだ。安心しろ。」


 そう言ってダルトンが、ランタンに手を添えた。魔法を唱えて火を点けると、天井から大きなムカデが、一匹落ちてきた。


 ボテッ!


 勇希は、瞬時に飛び上がった。


「ひぃ!?」


 落ちたムカデは、クネクネと、地面を跳ねた後、カサカサと、音を立てて、再び壁を這い上がった。

 勇希は、ダルトンより小さくなり、ダルトンの背中にくっ付いた。背中のステラは、そんな勇希を心配そうに眺める。


 ランタンの灯りを頼りに、暗い通路を進む。勇希たちの真上では、大量のムカデが蠢いている。それを見るだけで、首筋がゾクゾクと震え上がった。はやく通り抜けたかったが、先頭を行くダルトンのペースが遅い。勇希は、ダルトンを押してでも、走り抜けたい気持ちで一杯になった。


 暗い通路を曲がった先は、ダルトンの言った通り、明かりがあった。入り口の広場は、四角かったが、この場所は、円形のドーム状の空間だ。

 天井のひび割れた隙間から、外の明かりが差し込んでいる。明かりが照らされた場所には、花が咲いていて、小さな青色の蝶々が、天井に空いた穴に向かって飛んでいた。


 ここには、ムカデたちが居ない様で、勇希は、ほっとした。


「わー。」


 箱庭の様な美しい空間を、望が、嬉しそうに駆け回る。

 それを仕方なく、キールが追い駆ける。


 ドームの壁は、コケだらけで、左右と正面に、少し小さめの通路がある。そして、広場の中央には、下に降りる為の大きな螺旋階段が、円を描く様に伸びていた。

 それを、勇希が目で確認したのを見て、ダルトンが聞いてきた。


「さあ、どっちに行きたい?」


 ダルトンは、意外と楽しそうにしていた。大きな階段の手前で立ち止まり、頬を上げて、勇希の顔を見る。もじゃもじゃの髭が、風に揺れて踊る。

 これは、絶対に()()()()と、言う合図だ。


「降りれば、いいんでしょ?おれは、嫌だよ?また、あんなムカデがいる所……。」


 勇希は、肩を落としながら、階段を、一段一段降りて行く。背中のステラは、興味津々に、肩に顔を乗り上げて前を覗いている。


「どうだろうな。何が居るか分からんから、気をつけろよ。おーい。行くぞ?」


 ダルトンは、そう勇希に注意してから、小さな通路を覗く望に、声を掛けた。ダルトンの大声が、古びた壁に反響する。その音に虫たちが騒めき、色んな方向から、カサカサと、足を動かす音がした。


「ダルトン!声がデカいって!あの量で迫まられたら、おれ、発狂してしまうよ。」


「はっはっは。確かにな。そうなれば、わしもお手上げかもな。」


 勇希は、それでも大声で笑う、ダルトンの正気を疑った。

カモメのフューゲル

 最終話 睡眠 3/4


 「今日は、楽しかったな。」


挿絵(By みてみん)


 フューゲルは、何があったのか覚えていない。

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