13-2 情報屋
ダルトンは、店を出ると、足早に路地を歩き出した。
来た道とは、真逆の方向に向かうダルトンを見て、コビットの二人は、不思議な顔をする。
キールは、預かっていたステラを、勇希の背中に乗せながら、こっそり聞いた。
「何があったんだい?」
「お金の件で、兵士が探してるんだってさ。」
勇希の答えに、キールは、首を傾げる。
「別に逃げるほどの事じゃ、ないんじゃないか?」
言われてみれば、そうなのかもしれない。
勇希は、先を急ぐダルトンの背中を眺めた。面倒に言う割に、肩が踊っている。その後ろを、望がぴょこぴょこと、リュックを跳ね上げて追い駆ける。
「面白そうだし、いいんじゃない?」
面倒事では、あるのだが、命の危険がある訳でもない。捕まったとしても、話せば分かって貰えるはずだ。
すると、ルートルーが嬉しそうに、口を挟んだ。
「お、勇希も分かる口だね。」
腕を組んで胸を張り、ニヤニヤとするルートルーに、キールが呆れる。
「はぁ。……追う側の気持ちも、考えてあげなよ。」
兵士たちには、兵士たちの仕事がある。遊び半分で逃げる者を、追っている暇なんてないだろう。
キールは、兵士たちに同情した。
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街の西側の外壁沿いに出た所で、ルートルーが言う。
「じゃあ、ダルトン。あたいと春花は、この辺で別れることにするわね。」
「そうか?橋を越えてからでも、いいと思うが?」
「ここで別れた方が、陽動にもなるから良いでしょ?ほら、春花。しばらく、会えなくなるんだ。ちゃんとお別れをしときなよ。」
ルートルーが、春花の背中を押した。
「えっ!?ええ。」
言われるがまま、春花は、勇希の前に、恥ずかしそうにして立つ。そして、照れ臭そうに、体を揺らして言う。
「それじゃ、ゆうくん。あんまり無茶しないようにね。」
勇希の頭の上には、ステラが鎮座していた。ステラは、空気を読んで、静かに二人を見守っている。
「ああ。春花もな。ルートルーを、困らせるなよ?」
勇希は、少しふざけた。しんみりとは、したくなかったからだ。
春花は、鼻で返事をすると、望に体を向けた。
「のぞむくんも、元気でね。何かあったら、すぐにゆうくんに言うのよ?」
膝を曲げて屈み込み、望の顔を見る。
すると、望は、下を向いてしょんぼりとした。
「えー。はーちゃん行っちゃうの〜?」
春花は、下がった望の頬っぺたを、優しく摘んで言う。
「のぞむくんは、シンジロウさんに会うんでしょ?じぁあ、頑張らないとね。」
春花が微笑み掛けると、望に笑顔が戻った。
「うん!はーちゃんも頑張ってね!ぼく、応援してるから!」
望は、必死に言った。
春花は、望にエールを送られ、もう一度笑って見せた。
「ふふ。ありがと。」
勇希は、少し離れた所で、様子を眺めているルートルーに近寄って、声を掛けた。
「ねえ、ルートルー。」
「どうした?あたいが居なくなって、寂しいって?」
それは、そうなのだが、勇希には、ルートルーに伝えておかなければはならい事があった。
勇希は、ルートルーの横に並んで、一緒に春花を眺めて言う。
「ルートルーはさ。おれたちのが手が掛かると、思ってるだろ?」
春花は、別れを惜しむ、望の頭を撫でていた。
その様子を、微笑ましく眺めながら、ルートルーは、疑問に思う。
「うん?なんで、そんな事を聞くんだい?」
「春花からは、絶対に目を離さない方がいいぞ。急に突拍子もない事を仕出かすから、油断しない事だね。マジで。」
勇希は、念を押して言った。ルートルーは、首を捻り、あまり信じていなそうだ。
「ゆ・う・く・ん!」
話し声が聞こえていたみたいで、春花が凄んだ。
「あはは。春花も元気でな。次に会った時、どっちが面白い土産話が出来るか、勝負な?」
「いいわね、それ。」
それから春花は、ダルトンとキールの下に向かった。
「ねえねえ。」
次は、望が、ルートルーに声を掛ける。
「なんだい?」
ルートルーは、嬉しそうに耳を傾けた。
望は、春花に聞かれない様に、最善の注意を払った。口に手を添え、ルートルーにだけ聞こえる声で言う。
「ゆうくんが、さっき言ってたこと。本当だからね。あと、これ。」
望は、袋菓子を、ルートルーに差し出した。透明な袋に、カラフルな丸い玉がごろごろしている。
「これをあげると、はーちゃんの機嫌が、良くなると思うよ。困ったら、使ってね。」
ルートルーは、望から袋を受け取る。
「あっはっは。望は、人の事をよく見てるんだね。ありがとう、使わせて貰うよ。」
ルートルーは、鍛え上げられた腕で、望を引き寄せた。がっしりと抱きつき、胸に望の顔を埋める。
「わっ!?」
望は、身動きが出来ず、胸の中で、ジタバタとする。
「あんたも頑張るんだよ。しっかりね。」
ルートルーは、命一杯の感情を込めて言うと、望を離した。望は、顔を真っ赤にした。
そんな望の顔を見て、笑いながら別れを告げる。
「あっはっは。それじゃあね。みんなも、またね。春花、行くよ。」
呼ばれた春花は、ダルトンから離れて、ルートルーの下に駆け出す。そして、満面の笑みで振り返って、手を振った。
「うん。みんな、良い旅を!じゃあねー!」
ルートルーは、春花を連れてショウの街の中に歩いて行った。
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春花とルートルーは、人通りの少ない路地裏を、並んで歩く。
ひっくひっくと、肩を上げる春花に、ルートルーが尋ねた。
「本当に良かったのかい?別に、一緒に旅したって、良かったんだろ?わざわざ別行動する意味も、そんなにないでしょう。」
そう言って、困った顔で春花を見る。
春花は、目を腫らして泣いていた。流れ出る涙を、指で拭って、意地を張る。
「ううん。わたしには…ぐすん。わたしのやりたい事があるの。せっかく異世界に来たんだもの。ぐすっ。全力で楽しまないと、損じゃない。」
春花の方向性は、ノアに来てから、ずっとブレていなかった。『夢』を追う事を決めてからは、春花の心に迷いが無くなった。
しかし、今回ばかりは、流石に寂しかったようだ。
勇希たちと別れる事は、以前から決めていた。だが、実際に別れるのは、思っていたより辛かった。
春花は、泣かずにお別れ出来た自分を、褒めてあげたいぐらいだった。
ルートルーは、空を見上げて、頰を掻く。
「泣きながら言われてもねえ。説得力に欠けるわよ?まあ、春花がそう決めたなら、あたいは、文句ないよ。その代わり、村で約束した通り、あたいが強くなるのにも、協力して貰うからね。」
「うん。わたしも……戦えるようになった方が、いいのかな?」
春花が不安そうに聞くと、ルートルーが首を振る。
「いんや。旅をしているからと言って、みんなが戦える訳じゃないんだよ。あたいは、戦士だからね。適材適所。強さってのは、腕っ節だけじゃないのさ。」
「うーん…。そうかなー。」
春花は、ルートルーの言葉に、納得出来なかった。魔獣が沢山いる世界だ。戦えるに越した事は、ないだろう。それに、腕っぷし以外の強さも、春花は、何も持ち合わせていなかった。
その事を読み取ったルートルーは、春花を笑顔で励ました。
「旅をしていたら、春花にも見つかるさ。これといった、何かがね。」
ルートルーがウィンクした。
「それで、のぞむくんは、何て言ってたの?」
春花は、望がルートルーとコソコソ話していた事が、気になっていた。
「ん?ああ、春花がぐずったら、これをあげろってね。何だい?これは?」
ルートルーは、望から貰った袋菓子を取り出した。
その袋を見て、春花は、呆れる。そして、ルートルーが差し出した袋に、手を突っ込んで、丸い玉を一つ掴み取った。
「わたし、子供じゃないんだけど。まったく。」
そう言って春花は、口に飴玉を放り込んだ。
「飴玉よ。ルートルーも舐めてみたら?甘くて美味しいわよ。」
ルートルーは、袋を目の高さまで掲げて、中身をよく見る。袋の中では、色彩豊かな飴玉が、宝石の様な輝きを放っている。
「へー。これ飴なのね。綺麗だわ。」
望の言った通り、飴玉は、効果覿面だった。ルートルーも、そんな魔法の玉を、一つだけ掴み取って、口にした。上品な甘さが口の中で転がり、自然と笑みが湧く。
「それで、これからどうするの?」
春花の眼差しから涙が、いつの間にか消えていた。赤く染まった瞳には、広場の噴水が映り込む。
「今日は、宿で休みましょう。ショウの宿には、温泉があるのよ。」
ルートルーは、飴玉を転がしながら提案した。
「温泉!?でも、いいの?」
「金の事なら、気にすること無いよ。王都ドーレまで、何日も掛かるからね。今日ぐらいは、ゆっくりしましょう。」
二人は、広場にある豪華な宿屋へと足を運ぶ。




