表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

12-1 ショウ

 翌日。エスピナの森を抜け、ミール川が東へと迂回する前に、みんなで川に入り、魚を獲った。

 ダルトンだけは、川に下りずに、森の中で、大きな熊の様な狸を、仕留めてきた。


 それから、なだらかな山々の続く、丘の間を、道なりに進んだ。


 途中で、コケッコに乗せてもらった時は、爽快だった。姿勢を低くして、風を切って走るコケッコに、勇希は、大興奮したが、一緒に乗った懐のステラは、なぜか不機嫌に、勇希を見上げて鳴いていた。

 芋虫にも、苦手な物があるのかもしれない。そう考えるだけで、勇希は、少し面白かった。


 春花と望も、このキャンプの様な一日を、楽しんでいた。

 春花は、相変わらず、ルートルーにベッタリで、人見知りを発動させていたし、望は、新たに加わった馬と、コケッコに興味を示した。しかし、寂しそうな瞳を向けるメロンを見て、望は、メロンの世話に没頭した。


 それから、ミーファやギミトラン。大中小の背格好の、ランド、パトス、オープとも、それなりに仲良くなる事が出来た。ショウに着いたらお別れだという事を、信じたくは、なかった。



 山間の岩棚で、もう一日野営を行なった、次の日の朝。

 勇希たちは、長い長い谷間を抜けて、小高い丘を、登っていた。


 先頭では、兵士たちの隊長のギミトランが、コケッコの手綱を引きながら、ダルトンと仲良く会話しているところだ。腕の立つ年長者同士、話の波長が合うようだ。


 コケッコの背中には、彼らの荷物が、縛って乗せられている。その一つに、ジュエリーウルフの宝石も含まれる。

 昨晩も大人たちが、これが何なのか、検討に、検討を重ねていたが、話せば、話す程、謎は、深まるばかりだった。


 そして、荷物の山を、背もたれにした望は、コケッコの上から、楽しそうに景色を眺めていた。ノアに来てから、ずっと森の風景だが、見飽きる事もなく、場所によって様変わりする度に、心を躍らせた。

 そこには、どんな動物や虫たちがいるのだろう。と、望は、想像しては、生き物の存在を、探し出そうとする。


「この丘を超えれば、ショウの街が見えてくるはずだ。」


 ギミトランがそう言うと、望が期待の眼差しを向けた。座っていた尻を上げて、目線をなるべく、高くする。


「わしらのペースに合わせてもらって、すまないな。」


 と、ダルトンが、ギミトランに顔を向けた。


「いえ、旅の仲間は、多い方が安全ですからね。現に、ここまで、魔獣に襲われることなく、スムーズに来れました。」


 そう言いながらギミトランは、森に向かって草原を駆ける、キツネの様な魔獣を眺めた。それから、視線をダルトンに戻し、話し続ける。


「それに、こちらとしても、大変良い時間を過ごせました。何たって、あなた達とゆっくり会話をする機会は、そうはありませんから。」


 ギミトランの言う通り、ここまで魔獣に遭遇することなく、メロンのペースに合わせ、ゆっくりと進んで来た。

 こんなに広い道なのに、誰ともすれ違わなかったのが、不思議なくらいだった。魔獣うんぬんの前に、人っ子、一人、見当たらない。

 だが、よくよく考えてみると、グリンウッドの村の向こうには、危険な山脈(ヴェリトラーク)しかない。そんな村に、用がある方が、おかしな話なのだろう。


 それに兵士たちは、コビットに会える事を、とても珍しそうに話す。先日の()()()()の宴も考慮すると、コビット族というのは、割とレアな一族なのかもしれない。


「そうだな。わしらは、あまり森を出ることがない。()()()()の時も、王都ですら、ほぼ素通りだしな。わしらも、()()()騎士様と、話せて良かったよ。」


 ギミトランは、ダルトンの発言に、眉を上げて驚いた。


「我々が王都から来たと、お気づきでしたか。」


「ああ、そりゃあもう。」


 ダルトンは、くいっと顔を動かして、ミーファを顎で示す。

 何かを察したギミトランは、困った顔で笑った。


「大陸渡りって何〜?」


 コケッコの白い羽の上から、望が身を乗り出して、聞いてきた。コケッコが驚いて、望に顔を向け、望を落とさない様に、羽を持ち上げる。

 そして、ダルトンが、天気の良い青空を見上げて、説明を始めた。


「コビットの新米の戦士は、ベテランの戦士と二人で、旅をする。大陸の反対側までな。経験を積んで、無事に帰ってくる事で、やっと一人前の戦士として、認められる訳だ。まあ、古い習慣だな。」


「じゃあ、ぼくも戦士になれる!?」


 望は、興奮して、再びコケッコから落ちそうになるが、コケッコが首をしならせて望を咥え、背中に戻した。


()()()って、言っただろ?」


 勇希が後ろから、望に言った。

 すると望は、残念そうに、舌を鳴らした。

 そこで、勇希の隣のキールが、楽しそうに話し始めた。


「おれも三年前、ノアの最北端と言われる村へ行って来たんだ。ファルマスの爺さんと、一緒にね。髭が凍って、折れるほど寒かったが、良い所だったよ。あー、また行きたいな……。」


 キールが、空を見上げて、思い出を振り返っていると、丸顔のパトスが、キールを見て言う。


「羨ましい。俺は、雪すら見た事ないよ。」


 馬に乗ったオープも、くるりと巻いた髪を揺らして、頷いた。――この辺りは、雪が降らないんだ。

 と、勇希は、二人の反応に、興味を示した。しかし、髭が凍る様な極寒の地に、態々行きたいとは、全く思わなかった。


 春花が、隣のミーファに尋ねる。


「王都では、雪が降らないの?」


 二人は、ルートルーと一緒に、メロンの引く荷車の荷台の上に、腰掛けていた。


「ええ。雪が降るのは、北にある国だけよ。カストールは、スノーリアとあまり親交が、深くなくてね。火の国のマッチガルドとは、距離があるし。雪を見た事ない人が、ほとんどだと思うわ。」


「へー。そうなんだ。」


 ――日本の四季は、忙しない。


 日本に住んでいると、四季が訪れない状況を、想像し難い。だが、それでも、雪の降らない国というのは、珍しくは、なかった。

 春花は、熱帯の南国を思い浮かべた。次のギミトランの発言を聞いて、それが、あながち間違いではないと思えた。


「さあ、見えて来ましたよ!交易都市、トロピカルショウが!」


 丘を越えると、白い壁に囲まれた、大きな街が遠方に現れた。


 壁の内側には、大小様々な四角い建物と、ヤシの木が均等に、並んで生えている。そこでは、多くの人々と、馬やコケッコが引く荷車が、引っ切りなしに移動している姿が、伺える。


 街の東側には、小さな湖が存在する。丘を大きく迂回してきたミール川が、平原を通って、湖へと向かって流れ込む。

 逆に西側は、森だ。ジャングルの様な密林が、山の様に生い茂る。

 ショウの街の向こう側は、熱気のせいなのか、蒸気が昇っていて、先が見通せない。



 一行は、丘を下り、商人たちの積荷が置かれた、沢山のテントが並ぶ道を通り、街の広い入り口へと向かった。


 見張りの兵士は、鎧を着用してはいるが、所々に肌を見せている。軽装というか、服を着ていないように見えた。

 通行の際も、特にチェックはなく、本当に機能しているのか、疑わしかった。


 きっと、街の南側から来る人など、たまのコビットぐらいなもので、暇なのだろう。そのコビットも、週に一回、訪れれば、いい方だ。

 その為か、南側の出入り口は、完全に、商人の物置兼休憩所と化していた。



 街に入った所で、ギミトランが、ダルトンに挨拶をする。


「それでは、我々は、ここで失礼します。」


「ああ、機会があれば、また次回にでも、手合わせを頼む。」


「ええ。その時を楽しみにしています。では。」


 ダルトンと、ガッチリと握手を交わし、ギミトランは、街の中に向けて歩き出した。


 勇希は、意外とあっさりとした別れに、拍子抜けした。

 彼らにも仕事があるし、こんな事が、良くあるのだろう。世間と言う物は、意外と狭い。また、どこかで逢えるはずだ。彼らもきっと、そう思っているに違いない。


 勇希は、手を振って、兵士たちを見送る。彼らも笑顔で手を振り返し、背を向けて、ギミトランの後を追った。


 兵士たちの姿が見えなくなったところで、キールが口を開いた。


「俺は、メロンを倉庫に連れて行くから、みんなは、好きにしてていいよ。三十分後ぐらいに、この先の噴水で待ち合わせにしよう。」


 キールは、市場のテントがずらりと並ぶ、大通りを指差した。そこには、沢山の露店や屋台が建ち並び、大勢の人が、買い物をしている。


 人混みでよくは、見えないが、この先に、噴水があるようだ。


「わしもキールに、ついて行こう。荷物は、そのまま載せて置いて、いいぞ。持ち歩くと、スリに持っていかれるのが、目に見えてるからな。」


「そんな事ないと、思うけど。」


 勇希は、ぼそっと呟くが、指示に従って、荷物を降ろし始めた。


「ナイフとか、貴重品も、仕舞って置くんだぞ。」


「はいはい。」


 そう注意され、ベルトからナイフを取り外し、リュックに詰め込んだ。


「ステラ、おまえさんもこっちだ。」


 ダルトンが、荷台の上の丸太を、手の平で叩く。

 すると、ステラは、大きく顔を振り、拒絶する。


「キュッキュ!」


「美味いもの食べさせて上げるから、おいで。」


 と、キールが言うと、ステラは、一変して喜び、丸太に飛び乗った。


 メロンが、外壁沿いの広い道を歩き出す。

 現金なステラを笑いながら、ルートルーが話し始める。


「それじゃ、三人とも。自由に見て回るといいよ。この街は、流通の要でね。ここには、各地から、色々な物が集まるんだ。西の港町、北は水の国から。東の道は、王都へと続く。そして、南には、あたいたちの村がある。だから、勇希たちが、興味を持つような面白い物が、いっぱい見つかるはずだよ。」


「面白い物!楽しみだね!」


 望の目には、市場がごちゃごちゃとしたオモチャ箱にでも、見えているのだろう。目をギラつかせ、今にも市場へ駆け出してしまいそうだ。


 ルートルーは、引き締まった腰に、手を当てる。その腰の腹筋は、綺麗に割れていた。


「三十分と言わず、ゆっくり見て回るといいさ。あたいは、先に噴水で待ってるからね。」


「分かったよ。ありがとう。ルートルー。」


 勇希がお礼を言うと、ルートルーは、背中を向けて、市場の中に消えて行った。

カモメのフューゲル

 第七話 傲慢 2/4


 フューゲルたちは、羽を休めるためにヤードへ降り立ちました。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ