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11-2 宝石

 一行は、合流して道なりに少し進んだ後、野営の準備を始めた。


 勇希が慣れた手つきで焚き火の支度をしていたら、ミーファが話しかけて来た。


「ユーキ。貴方がいなかったら、私は今頃死んでいたかもしれないわ。ありがとう。」


 勇希は、立ち上がりミーファに向き直る。パサついた髪の間に指を突っ込み、困った顔をした。ミーファに改めてお礼を言われ、勇希はどんな顔をすれば良いのか分からなかった。


「いや、別にどうって事ないよ。たまたまだしさ。」


「偶然でも、救ったのは事実よ。今は、お礼になる様な物が何も無いけど、いずれこの恩を返させてね。」


「そんな。気持ちだけで十分さ。」


 勇希が笑って言うと、今度はミーファが照れたように視線を兵士たちの方へ逸らした。

 彼らは、せっせと野営の準備を進めていた。


「それじゃ、私も野営の支度しなきゃ。また話しましょうね。」


「ああ。」


 勇希が返事をすると、ミーファは笑顔で手を振って、兵士たちの下へ走って行った。


 その様子の一部始終を観ていた春花が、勇希に文句を言う。


「ゆうくんったら。デレデレしちゃってさ。何が『そんな。気持ちだけで十分さ。』っよ。わたしには、あんな顔したことないのに。」


 ツンとする春花に、勇希は照れながら言い返す。


「なんだよ。焼きもちか?」


「ちっ違うわよ!何言ってるの!?わたしには、まだ見ぬ王子様が待ってるんだから。変なこと言わないでくれる?」


 慌てる春花に、勇希は茶々を入れる。


「ったく。やっと春花が、おれの魅力に気づいたのかと思ったのに。残念だよ。」


「何が残念よ。冗談は、顔だけにして――。」


「こら!おまえたちも準備しろ!望が一番働いとるぞ?」


 仲良く言い争っていたら、ダルトンに怒られた。


「はーい。」


 春花は、長い返事をしながら寝床を作りに向かった。

 ダルトンが、勇希の組んだ焚き木に火を灯す。その様子を見て心配になった勇希は、周囲を見渡しながら聞いてみた。


「こんな所で火なんか使ってさ。森が燃えたりしないの?」


「ん?ああ、そりゃあ気を付けてはいるが。エスピナの森の木は、火に強いんだ。そうでないと、ドラゴンが息を吹きかけるだけで、丸裸になってしまうだろう?多少の火なら問題ないわけだ。」


「え?でも、この焚き火の薪は、燃えてるじゃん。」


 勇希は、火の点いた焚き火を指差して言った。流石に木は、燃えるだろう。山火事は、簡単に起きてしまう。と、キャンプの時に、念入りに注意された事が勇希にはあった。

 そこで、タイミング良く通りかかったキールが説明する。


「それは、マナの影響だよ。木、本体から分断された事で、内包されてたマナが発散して、燃えやすくなるのさ。逆にマナを閉じ込めたまま切断することで、燃え難い家や道具が作られるんだ。メロンが運んでる丸太がそれだよ。これから街で加工されて、売られて、また何処かへ運ばれて行くんじゃないかな。」


 いつ聞いても、キールのうんちくは、凄い。


「へー。マナかぁ。よく分からないけど、やっぱりマナと言えば魔法だよなー。はやく使えるようになりたいよ。」


 勇希は、腕を組んで想いに浸った。

 そんな勇希に、春花が呆れながら注意する。


「ゆうくん。あんまりそういうこと、大きな声で言わないで。わたしたちが迷い人だって、バレちゃうじゃない。」


「え?バレちゃマズいのか?」


「無駄に騒ぎになると。この先、動き難くなるでしょ?ここが日本なら、わたしたちはネットで拡散されて、今頃見世物にされてるでしょうね。」


 春花の言う事は、最もだった。勇希の無い頭でも、想像するだけでゾッとする。


「確かに…。内緒にしといた方がいいのか?」


 そこで、焚き火に近いて来たギミトランが勇希たちに声をかけてきた。


「君たちは、どこの出身なんだい?あまりこの辺りに、詳しくないみたいだが。」


「ギクッ!」


 勇希は、軽く飛び上がった。


「ほらね…。」


 春花は、言わんこっちゃないと、肩を落として知らないふりをした。


「おっおれたちは!」


 咄嗟に言い訳を考えるが、直ぐには出てこない。


「彼らは、マッチガルドからの客人だよ。これからあたいたちが、責任を持って家族の元へ送り届けるところさ。」


 動揺する勇希を助けるように、ルートルーが言った。コビットたちは、野営の準備を終えたようだ。人が焚き火の周りに集い出した。


「そんな遠いところから。これから水の国を抜けて帰る訳か。水の国か……いいな。私も久しぶりに行ってみたいものだ。」


 遠い目をするギミトラン。側に腰掛けたダルトンが、苦い顔をして言う。


「物好きだな。わしらは、水はあまり好かん。出来る事なら避けたいぐらいだ。」


 それを聞いた勇希は、不思議に思う。グリンウッドの側にも、大きなミール川がある。水は生活に欠かせない。嫌う要素は、余り無いはずだった。


「なんで?」


 勇希の間の抜けた顔に、ルートルーが堪え切れず笑い出した。


「くっくっく。ダルトンは、かなづちなんだよ。あたいがダルトンに勝てるとこって言ったら、そういうとこくらいだね。」


 すると、ダルトンがいじけた様に言う。


「人が水に浮くなんて、信じられるか?おかしいだろうが。っふん。」


 怒ったダルトンを見て、周りのみんなが笑い出した。



+



 それから、楽しい食事が終わり、寝支度を始めた。交代で見張りをするため、勇希は直ぐに寝ることにした。興奮していた為、中々寝付けないかと思っていたが、満腹感と疲れからか、思ったより早く眠りに就くことが出来た。


「勇希。起きて。交代だよ。」


 キールに体を揺さぶられ起こされる。勇希は、隣で寝ている望を起こさないように、音を立てないように起き上がった。


 望は、寝袋に包まれて体を折るようにして眠っていた。隣で丸くなっているステラと並ぶと、二匹の大きな芋虫が寝そべっている様に見える。


 勇希は、寝袋から出て焚き火へと向かった。

 寝る前は、談笑していて騒がしかった野営地だが、今は静かで焚き火の音だけが響き渡っている。


 それから勇希は、水筒の水を、手に垂らして顔を拭った。冷たい水で、無理矢理目を覚ます。はっと息を吐き、タオルで顔の水を拭き取る。


 今は、勇希とルートルー。ミーファとランドが夜番のようだ。彼女たちも起きたばかりなのか、欠伸をしながら野営地の端をウロウロしている。


 勇希は、薪を火に焚べながら火の番をすることにした。雑に枝を火へ放り投げながら、森の中を見渡す。


 すると、野営地の端の茂みに、緑色に仄かに輝くイタチの姿を見つけた。神秘的な雰囲気を漂わせ、森の様子を探るように小さな耳を立てている。

 勇希の視線に気づいたのか、急にイタチは勇希へ顔を向けた。勇希と目が合うと、驚く様に後ろ足で立ち上がって身を捻る。すると、さっと砂のようになって、また何処かへ消えてしまった。


 暗闇の中で、あれだけ目立っていたのだ。ルートルーとランドが何も言わないということは、害がないということだろう。勇希は、そう思って気に留めないことにした。


 ふと、寝床へ目をやると、ステラが這い出て来たのが見えた。勇希は、ステラを抱き抱え、自分のリュックと一緒に、焚き火の側へと運んだ。

 そして、ステラを膝に乗せて、リュックからビーフジャーキーの余りを取り出す。半分に千切って片方をステラに与えて、もう半分を、前歯でちびちびと削って食べ始める。


 その時、ミーファが勇希の背後から現れて、隣へ腰掛けた。ロングブーツを脱いだ細い足をそっと折り畳み、地面に上品に座った。草原の様な優しい匂いが漂う。


 ミーファの顔は、焚き火の明かりを受けて、深みのあるオレンジ色に染まっている。屈んで前に垂れた髪を指で耳に掛けながら、笑顔で勇希の顔を覗いた。


「ユーキ。その子は何なの?」


 ミーファの大きな青い瞳の中で、焚き火の炎が揺れている。彼女の姿は、鉄の胸当てや剣帯といった硬い装備を外した薄着となっていた。


 勇希は、見つめられて恥ずかしくなり、目を逸らしてステラへと顔を向ける。


「あっ。えっと。こいつは、ステラ。山で懐かれて、一緒に旅をすることになったんだ。」


「大きいわね。成虫になったらどんな虫になるの?」


「それが…。コビットも知らないらしいんだ。」


「へー。コビット族が知らないなんて。さっきの狼といい、本当に何か森で異変が起きてるのかも知れないわね。」


 森の異変…。勇希には、一つ心当たりがあった。自分たちが、ノアにやって来た事だ。

 ミーファに話そうか迷ったが、春花に言われた事を思い出し、喉まで出かけた言葉を引っ込めた。

 そして、代わりに、ステラをミーファに差し出した。


「ほら、少し預かってて。」


「え!?」


「大丈夫。噛んだりしないって。言葉も理解するし、ステラは頭がいいんだ。」


 ミーファは、突然ステラを膝に乗せられて、あたふたし始めた。勇希は、そんなミーファの手に、新しいビーフジャーキーを握らせた。


「それ、千切って食べさせるといいよ。おれみたいに、自分で食べてもいいし。」


 そう言って勇希は、ビーフジャーキーを咥えた。それから空いた手で、徐にコップを地面に並べ始めた。


「これを?」


 ミーファは、見慣れない棒状の異物を不思議そうに眺めていた。よーく眺めてから、ビーフジャーキーを千切って味見をする。ひと噛みしたら、眉を上げて喜んだ。お気に召したようだ。


「キュッキュ!」


 ステラが、自分だけズルいぞ!と、頭を上げて泣き叫ぶ。


「はいはい。落ち着いて。今あげるから!」


 ステラに強請(ねだ)られ、ミーファはビーフジャーキーを与える。恐る恐るステラの口元へ持って行くと、パクッと食いついて膝の上で大人しくなった。


「ステラ、可愛らしい虫に育つと良いわね。」


 ミーファは、優しい眼差しでステラが食事するのを観察している。触れても問題ないと分かると、ステラの頭に手の平を添えて撫で始めた。


 勇希は、その間にコップへお湯を順に注いでいく。ルートルーとランドに周囲の警戒を任せっきりだ。コーヒーを振る舞っても罰は当たらないだろう。二人の口に合うかは、別としてだが……。

カモメのフューゲル

 第七話 傲慢 1/4


 カモメのフューゲルは、今日も海を漂う。


挿絵(By みてみん)


 今日は、仲間と一緒に船を追いかけている。

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