表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

10-2 助太刀

「ダルトン!」


 キールが、森の中から血相を変えて戻って来た。

 木に手をついて持たれかかり、荒い息を吐く。そして、キールにしては、珍しく早口で喋り始めた。


「この先の森の中で、誰かが魔獣に襲われてる!多分、鳴き声から、シーカーウルフの群れだと思う。」


 ダルトンは、手に持った棒に噛みつき、焼き鳥を引き千切りながら答える。


「こんな場所でか?密猟者とかじゃないだろうな?」


 口の中の肉を良く噛みながら、不思議そうに首を傾げた。

 焚き火の前の地面に座り込み、美味しそうに焼き鳥を頬張っていた。

 隣で同じ様に食べていたルートルーが、顔を向ける。頬を膨らませて、肉を入れたままの口を、行儀悪く開く。


「どうする?助けに行くかい?」


 すると、ダルトンが重い腰を持ち上げた。鎖帷子が装備に擦れ、ガチャガチャと音を鳴らす。


「仕方ない。わしとルートルーで行って来るか。キールは、ゆっくり飯でも食べてから、勇希たちと道なりに進んでくれ。後で合流しよう。」


 昼食がまだのキールに配慮してから、斧を背に担いで出発の準備を整える。

 ルートルーも、急いで残りの肉を口の中に詰め込み立ち上がった。


「おれも行くよ!」


 そんな彼らを見て、勇希が慌てて立ち上がる。


「危険だぞ?」


 ダルトンが神妙な顔をした。


「今後の為に、色々と見ておきたいんだよ。なるべく下がって見とくからさ。お願いだよ!」


 勇希は、力強くダルトンに頼んだ。

 今後の為と言うのは本当だが、()()この世界の”本物の戦い“というものを見ておきたかった。昨日の()()なんかではない。命を賭けた戦いをだ。

 なんたって、()()があると分かったのだ。きっと、もの凄い物が見れるに違いない。


「見る事は、大事な事だからね。いいんじゃないかい?勇希なら、自分の身ぐらいは、守れるでしょ。」


 ルートルーが出してくれた助け船に乗り、勇希は嬉しそうに頷いた。

 時間がない事も兼ね合い、ダルトンは、ルートルーの提案を受け入れる事にした。


「仕方ない。いいだろう。それじゃ、キール。頼んだぞ。」


 ダルトンは、そう言い残して、森の中へ足を踏み出した。


「了解。」


 キールは、返事をすると、羨ましそうな顔をする望の肩を抱きしめて、焚き火の前に座らせていた。



+



 北へ向けて森の中を抜けて行くと、狼の遠吠えがいくつも聞こえてきた。もう何時遭遇してもおかしくはない。

 エスピナの森の中は、木漏れ日が差し込み、とても明るい。至る所で光が反射し、辺りを若草色で彩っていた。

 その鮮やかに輝く緑色が、遠吠え一つで薄暗く感じてしまう。


 ダルトンは、背中から斧を取り上げると、走るペースを速めた。幹の太い広葉樹を避けながら、森の中をジグザグと進む。

 すると、生い茂った草の中を駆け抜ける、狼たちの姿を見つけた。こちらに見向きもせず、真っ直ぐに標的を追っているようだ。

 そんな狼の行動が、目的地の近さを彼らに知らせていた。


 灰色の狼たちが集まる先には、鎧を着た四人の男性と一人の女性の姿が見えた。彼らは、大きな木を背にして、馬とコケッコを囲むように剣を構えている。


 シーカーウルフの群れが、警戒しながら彼らの周りを取り囲む。そして、低い唸り声を上げながら、彼らに牙を剥く。


「助太刀する!」


 ダルトンは、そう叫びながら、既に飛び掛かっていた。後方から襲われた狼は、斧で次々と切り裂かれる。


「助かる!」


 一番立派な鎧に身を包む、豪華なロングソードを持つ兵士が答えた。金色の立った髪に、渋い髭が揉み上げから顎に向けて短く生えている。

 おそらく彼が、この兵士たちの隊長だろう。


 ルートルーも狼の間を縫って、彼らの輪の中に入った。


「凄い数だね。何したら、こんな数に囲まれるのさ。あんたたちは、ここに居るので全員かい?」


「ああ!こっちは、五人だ!おっと。」


 四角い赤髪のノッポな男性が返事をしていたら、狼が飛び付いて来た。彼が盾で防ぐと、隣からロングソードが振り下ろされ、狼は斬り捨てられた。


「ランド!話は後だ。一旦片付けるぞ!」


 隊長に注意され、ランドは気合いを入れ直す。


「はい!」


「勇希、手綱を代わってあげな。」


 ルートルーが勇希に顎で示した。


「分かった!」


 勇希は、兵士たちの間を潜り抜けて輪の中に入る。


 そこには、三頭の馬の手綱を引く、丸い顔をした兵士がいた。馬を必死に宥めながら手綱を引いているが、今にも蹴り飛ばされそうだ。

 その隣の大きなふさふさとした羽毛の鳥は、赤い鶏冠を立て、冷静に周りを警戒している。手綱は付いているが、背中に垂らしたまま逃げる素振りもない。


「ほら、お兄さん。代わるよ。」


 勇希が手を伸ばすと、手綱に体重をかけて引っ張りながら、兵士が心配してきた。


「ありがとう!でも、大丈夫かい?」


「大丈夫!」


 そう言って勇希は、手綱を受け取った。

 兵士は、勇希に手綱を渡すと、直ぐに腰の剣を抜き、輪の中へ加わる。

 勇希は、ぶるぶると荒れ狂う馬を見上げて話しかける。


「今のおれと、力比べしようってのかい?」


 勇希は、手綱に力を込める。すると、手綱がピンと張り、グッと動かなくなった。馬たちが必死に抵抗するが、手綱はピクリとも動かない。

 勇希がそのままニヤニヤと眺めていると、馬たちは負けを認めたのか、(こうべ)を垂れて大人しくなった。


「大丈夫なのか……この少年は?」


 全員が真剣な表情をしている中で、明らかに勇希だけが浮いていた様だ。勇希が手綱を渡した兵士が、心配そうに勇希を見ながら、背の低い小太りな兵士に聞いていた。


「パトス!余所見してる場合ではない!一匹も通すんじゃないぞ!」


 そのコビットの様な体格の兵士が、金色のカールした髪を震わせながら怒鳴った。

 注意された丸顔のパトスは、前に向き直り剣を振るう。


「分かってる!オープも怪我するなよ!」


 オープは、細い剣をしなやかに突き、狼の横っ腹を切り裂いていた。


 斬っても斬っても狼の猛襲が止む事がない。こんな数の群れが、森の中に存在するとは思えない。それはまるで、下水道に蔓延るドブネズミの如く…。


 勇希は、馬の顔を撫でながら辺りの様子を伺っていた。隣の白い二羽の鳥は、キョロキョロと首を動かしてはいるが、暴れ出す心配はなさそうだ。

 そして、勇希から比較的に近い場所に、薄い緑髪の女性がいた。彼女は、レイピアに近い細長い剣を振って戦っている。


 若草色に煌めく長い髪は、白い猫の顔の付いた髪留めで、綺麗に纏められている。そして、細身の身体は、白を基調とした軽鎧を身に纏う。胸や腕を守るための金属のプレート。(すね)を隠す鉄のロングブーツ。どれもが頑丈そうで、傷一つない。


 彼女の真っ白で綺麗な肌から、汗が跳ねる。しなやかに身体を回転させて、シーカーウルフを捌く。彼女が可憐な動きで剣を振る度に、殺伐とした森の空気を浄化する。


 いつのまにか勇希の目は、彼女の動きに釘付けだった。時が止まった様に眺めていると、青空の様に鮮やかな彼女の瞳が勇希を捉えた。

 勇希は、ギクりとして咄嗟に目を逸らす。澄ましたように、馬を撫で続ける。しかし、恥ずかくした表情が隠せずに、彼女にクスりと笑われてしまった。


 それに気付いた勇希は、無言で頬を赤らめた。


 ふと、馬の足元を見ると、そこに小型の動物がいた。カワウソ?イタチ?何だろうか。茶色い毛並みの四足歩行の動物が、そこに居た。


 勇希には、どちらも本物を見た事がないため、判断がつかなかった。

 その動物には、ほんのりと緑がかった後光が射している様に見える。今にも儚く消えてしまいそうな雰囲気だ。


 イタチの様な動物は、その小さな顔を持ち上げて、女性の方へと視線を向けた。

 すると、次の瞬間。体が砂で出来ていたかの様に、さらさらと風に流されて、本当に消えてしまった。

 勇希は、目を疑った。周りの人達へ伝えようとするが、今はそれどころではなかった。


 勇希は、イタチが消えて行った先を見る。そこでは、女性が背中を向けて戦っていた。彼女が動く度に、長い髪が波打つ。


 それから、勇希は、彼女の隣の兵士。オープを確認した。オープも見事な剣捌きで戦っている。

 オープは、他の兵士たちよりも金属の防具が少ないよう見て取れる。白くてビシッとしたフォーマルな制服姿だ。その分、とても身軽な動きをする。


 だが、戦っているうちに、彼女とオープの距離が開いてしまっていた。

 丁度、その隙をついたように、シーカーウルフが走り込み、女性へ飛び掛かかった。女性は、目の前のシーカーウルフの相手で手一杯だ。


  ” 気付けば勇希は、手綱を手放していた。

  彼女へ向けて、体が勝手に走り出す。

  間に合うか、間に合わないか、ギリギリの距離だ。“


 女性が横から襲い掛かってくる、シーカーウルフの存在に気付く。

 しかし、気付いても既に遅い。彼女には、眉を上げることぐらいしか出来ない――。


 灰色の狼の鋭い牙が、目と鼻の先に迫る。腕か。首元か。()()()()()()と、そう思ったその時――。狼の顔が、在らぬ方向へひん曲がった。


バキッ!


 勇希の右ストレートが、シーカーウルフに炸裂した。


 殴られたシーカーウルフの体は、森の奥へと飛んで行く。

 真っ直ぐ突き出した勇希の拳からは、(くすぶ)った湯気が立ち昇る。


「危なかったぁぁ。」


 勇希は、ほっとして腕を下ろし、痛みを消し飛ばすように、殴った手をぶんぶんと振る。


「あっありがとう…。」


 女性は、唖然とした表情で勇希を見る。


「――前!っ前!!」


 勇希が注意すると、女性は直ぐに前を向いて剣を振った。


 そこで、反対側のダルトンが叫んだ。


「なんか来るぞ!」


 遠吠えが森中に響き渡り、シーカーウルフたちが距離を取って下がり始めた。

 そのまま森へ帰ってくれと、兵士たちは思ったことだろう。しかし、そうはいかない。


ズーン。ズーン。


 森の奥から、大きな何かがやって来る――。

カモメのフューゲル

 第六話 遭難 3/4


 フューゲルは、人間の頭の上でくるくると旋回を続けました。


挿絵(By みてみん)


 「仕方ないな。ぼくが目印になってやろう。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ