5-2 芋虫
チカチカと光が射し込む森の天井は、楽しそうに笑いながら葉を揺らしていた。
勇希は、少し歩きながら飛び上がる場所を見定める。
準備が整うと、上着を揺らしながら腕を振って膝を折り曲げた。
春花は、地面に座り込んでその様子を眺めている。また、馬鹿な事を始めたと、興味が無さそうな目で勇希を見ていた。
「せーの!それ!」
掛け声と共に足へ力を込め、勢いよく飛び上がる。狙いは、高めの場所に一つだけ飛び出ている木の枝だ。
普通に飛んだところで絶対に届かないその枝に向かって、触れられたらラッキーっと、軽い気持ちで飛び立った。
すると――。
「うわあああ。」
勇希の体がもの凄いスピードで、大量の葉っぱの中を突き破る。勇希は、枝を折りながら、必死に両手で顔を守った。
「ええ!?」
春花は驚いて立ち上がり、目が飛び出している望と一緒に上を眺める。
勇希は、葉っぱの中を突き抜けたと思えば、かなり上空まで飛んできてしまっていた。ツンツンとした髪には、枝や葉がいくつも突き刺さっている。下を見ると、緑色の森の絨毯が一面に広がり、勇希が落ちてくるのを待ち遠しく待っていた。
「やべ。着地は大丈夫か!?」
雲までは行かないが、目の前で鳥が飛んでいる。こんな高さから落ちたら、無事では済まないだろう。
そして、勇希の体は勢いを完全に失い、重力に引っ張られる。
「うわあああ!!」
景色など見ている暇もなく、勇希の体は落下していく。再び大量の葉っぱの中を突き抜ける。
ドン!
両足で地面に着地する。
「きゃっ!」
春花の目の前に勇希が現れ、春花は飛び退いた。
勇希は、足をバネのように折り曲げ、手を真っ直ぐに伸ばしてバランスを取って着地した。大量の落ち葉が周囲を舞う。
地面からの振動が、ビリビリと足の裏から全身へと伝わってくる。かなりの痛みが体中へ走った。
「うぐぐ…。飛びすぎたぁ。足の骨が折れると思った…。」
普通なら足の骨どころではないが、何故か普通ではないみたいだ。
「すごー!ぼくにも出来るかな!?」
望は、驚いた笑顔で駆け寄ってきた。
それから、リュックを降ろして、見様見真似の準備運動を始めた。
「重力とか変わった感じしないのに、なんで?」
春花は、考える人のようになる。そろそろ首が傾げて、取れてしまうのではないかと思うほどだ。
「これが異世界って事なんじゃないか?春花もやって見れば何か分かるかもな。」
勇希は、笑って春花に進めた。
アニメのヒーローにでもなったかのような、高揚感を覚えた。
これは、凄いぞ。この力で、どんなことが出来るのか考えると、勇希は楽しみになった。
「よーし、ぼくも飛ぶぞー!」
気合いを入れた望は、張り切って腕を回していた。
「ドラゴンも巨大な芋虫もいるし。本当に異世界に来たみたいね。」
春花は、染み染みと呟く。やっと異世界だということを、実感したみたいだ。
「ほら、春花も望と一緒に飛んで見ろよ。自分の力にびっくりするぞ?」
少し距離を取った所で、誰かに見てて欲しそうな望が二人の方を眺めていた。
春花は、「そうね。」と、笑って望の方へ歩き出した。
「キュッキュ!」
芋虫が、リュックの側で勇希に向かって鳴いている。
「おまえは、巣に帰れって言っても崖の向こうなのか…。はぁ、その辺りの草むらでいいか?」
考えながら律儀に芋虫へと聞くと、嫌そうな返事が返ってくる。
「キュッキュ!」
「駄目かぁ。」
勇希は、何故だか芋虫と会話をしていた。
こんな所を健にでも見られたら、気が狂っておかしくなったと心配されるはずだ。
勇希が、屈んで芋虫に顔を近づけると、鳴きながら飛び付いて来た。
「キュッ!」
「うわ!」
芋虫は、勇希の尖った頭の上に乗っかって楽しそうに鳴いている。勇希は、芋虫の体を傷つけないように、そっと手で支えてやる。
「一緒に来るつもりか?危ないぞ?」
上目遣いに頭上に聞くと、返事をした。
「キュ!」
「分かったよ。だけどウンコとかは、地面でしてくれよな…?」
勇希が困ったように伝える。
すると芋虫は、リュックの上に飛び乗った。言葉を理解しているのか、鳴きながらリュックの上を陣取った。
勇希は、そんな芋虫に感心ながらリュックに腕を通し始める。
「のぞむくん、凄いよー。」
「はーちゃんも高く飛べたじゃん。でも、ぼくたち、ゆうくんほど飛べなかったね。」
「危ないから、これぐらいがいいのよ。あんなの、真似したら駄目よ。」
あんなのとは、人聞きの悪い。
勇希は、楽しそうな二人に声を掛ける。
「おーい。そろそろ移動するぞー。」
二人は、降ろした荷物を手に取り、足早に勇希の下へ駆け寄ってきた。
望が興奮しながら、辺りを飛び跳ねる。
「ねえ!ゆうくん、見てた?ぼくたち飛んだとこ!」
必死にアピールしてくるのを、勇希は流し目に答える。
「あー、見てた見てた。」
それから、勇希の背中を見た春花が、大声を上げた。
「ちょっと!もしかして!その虫も連れて行く気!?」
信じられないという顔でドン引きしている。
「ここに置いて行くと死んじゃうだろ?洞窟から付いてきたとなると、帰りに洞窟辺りに置いて行くしかないかな?」
「え…。」
勇希の答えに春花は、絶句する。
「嫌そうなだな。別に害があるわけじゃないだろ?慣れれば可愛いもんさ。頭も良いしな?」
そう言って勇希は、背中に顔をやる。
「キュッキュッ!」
芋虫は、鳴いて答えた。
「でさー、ゆうくん。これから、どこに向かうの?」
望が歩きながら聞いてきた。
「とりあえず、あっちかな。煙が見えたから、人が居るかもしれない。そこを目指しつつ、安全にテントを張れる場所を探そう。」
煙の場所まで、憶測でも一日は掛かりそうだった。
森に道は当然だが無い上に、地面は凸凹で平らじゃない。それにこの荷物の量だ。自分たちが思うより、時間が掛かるだろう。
「そうね。急がないと、いつ暗くなるか分からないし。」
春花は、そう言って左腕の時計を見た。
「分かったー!」
「ドラゴン以外にも、危険な動物がいるかもしれないから。気をつけつつな。」
人が居るかも分からない場所に急いでも、居なかったら意味がない。
勇希たちは、周囲に気をつけながら、ゆっくり森の中を進むことにした。




