洞穴というのは
突然、足下の地面が崩れたからと言って、探索中だから慌てたり焦ったりはしない。冷静に対処出来る。
──通常だったら。
俺の両腕を抱えたフェリスさんとミュウ。
フェリスさんは翼を出せば飛べる。飛べるが、飛んだら俺の右腕を抱えて飛ぶ為、ミュウの居る左側を吊り下げる格好になる為、その行動を躊躇った。
一方、ミュウは基本的に頑丈な事が判っているし、話を聞いた所では任意に身体の何処にでも甲羅を作り出す事が出来る。ちょっとした変身ヒーローみたいで格好良かったという感想はフェリスさん達が居る前では言いません。
空を飛び、浮かべる翼は便利ですが、目立つという理由から普段使いはしていないので。
下手な反応は嫉妬や不満を招きますからね。
話を戻して。
その甲羅を使えばミュウの防御は鉄壁。俺達二人を抱え下敷きになったとしても落下の衝撃に耐えられる筈。
しかし、フェリスさんが翼を出そうとした場合に甲羅の分だけ総重量が増すので躊躇った。
その二人の思考は数秒も掛からない事でした。
しかし、不測の事態が起きた時には致命的になります。僅か1秒の決断が生死を分ける事は珍しく有りません。
──という訳で、俺が翼を出し、防御魔法で三人の事を包み込んで事無きを得ました。
はい、他のハーピア族の妻達は飛んで回避しましたから数秒でも落下を味わったのは俺達だけです。
ちょっとだけ、ヒュッ……ってしました。
男性にしか判らない、縮む様な感じです。
「有難う御座います、アイク様」
「私を抱く旦那様の腕……とても逞しいです」
そう言いながらも密着度を高めてくる二人。足を絡める必要性は有るのでしょうか?
両腕を抱えられた状態でしたが、俺が動かそうとすれば二人は力を緩めてくれたので、抱き寄せる事は可能。
「それなら腕を放して別々に対処すれば──」だなんて不粋な事を言った内なる俺は死刑です。
「貴様は乙女心が解っておらん!」と宣う髭男爵な俺。
「いや、俺もだけどな」と総ツッコミされる。
まあ、二人が無事だし、満足そうだから良んだけど。
……いや、あの、フェリスさん?
この状況での御強請りは……帰ったらね。
う~ん……日に日に妻達が積極的で貪欲になっていると感じるのは気の所為なんでしょうか?
──なんて事を考えながら体勢を変えた美女サンド状態のままで、ゆっくりと降下し──着地。
見上げると……30メートル位でしょうか。
俺達が居た場所だろう光の入り口が見えます。
其処からハーピア族の妻達の一部が後を追って此方等に降下してきていますから間違い無いかと。
あと、一々指示しなくても動いてくれているので此方も手間が省けて助かります。
ただ、貴女達に一つだけ言いたい事が有ります。
愛してる事は当たり前で──ちょっ、群がらないっ! ──って、今の手誰っ?! 悪戯するのは止めなさい! 冗談じゃ済まなくなるからっ! マジでっ!!
ふぅ……え~と…………ああ、そうだった。
何故、降下してきたのが全員スカート組なの?
ズボン組が居たよね?
……俺に対する御強請り?
そう言われると──って誤魔化されないから。
うん、明らかに意図した面子ですよね? 反省。
本当に……返事だけは良いんですから。
……え? 感想? 魅惑の絶景でしたよっ!
「……旦那様、此処、私の居た洞穴と居ています」
俺が妻達と漫才をしていると。
参加していなかったミュウが、そう言ってきた。
そう言われてみて、周囲を見てみる。
確かに似てはいる様に思うけど……正直、判らない。
「此処を見て下さい。壁面に僅かですが規則的に平行した掘削の痕跡が残っています」
ミュウが指し示した場所を見てみると…………あ、僅かだけど確かに人工的な痕跡が有る。
けど……よく気付いたな。殆んど無いに等しいよ?
それに、農業関係に長けた俺だから判る事です。
フェリスさん達は──
「え? 何処?」
「……何かの見間違いでは?」
「見える?」
「見えなーい」
──と全く区別が付いていない。
でも、この反応が正しいんだと思います。
そして明らかとなったミュウの意外な才能。村の仕事に活かせるのかは要検討ですが、活かし方は有る筈です。
それはそれとして。
改めて周囲を見て確認してみると、確かにミュウが居たトホウク島の洞穴に似ています。
「いや、洞穴なんだし、元は一つの島だったんだから、地質とかも居ていて当然だろ?」みたいな正論が聞こえる気がしますけどね。
地質等が似ている事は大して意味は有りません。
しかし、今、俺達が立っている場所はミュウが言う様に掘って作られている可能性が高いと言えます。
その証拠に、洞穴は円筒形をしていて、その直径も殆ど一定であるという事。
その大きさが、ミュウが移動に使っていた洞穴の通路と殆ど同じというのは……偶然にしては有り得ない。
抑として、あの洞穴はミュウが掘った訳ではないし。
「……ミュウ、トホウク島の洞穴は、島に来た時には既に存在していたんだよね?」
「はい、今の状態と殆ど変わらない形や広さでした」
「じゃあ、その入り口は開いていたのか?」
「はい、開いていました。まあ、当時の私が入れる大きさだったので、入り口だけは私が少しずつ拡げています」
そうだとすると、トホウク島の洞穴は何かしらの理由で一部が崩れて偶々外に繋がった可能性が高いのか。
それをミュウが見付けて──という流れ。
そう考えると、あの洞穴も、この洞穴も、ケロロン族の始祖と勇者が戦う以前から存在していた?
その場合、ケロロン族の始祖のモンスターとは別に島に同等のモンスターが居た事になる訳だけど……
島が形を変える程の戦いが有っても無反応?
……いや、ミュウの様にまだ若い個体だったとしたら、関わろうとはしない可能性も考えるか。
いやでも、抑の話、その場合、ケロロン族の始祖となるモンスターが居る場所──縄張りに入るのか?
「余程、切羽詰まった状況か理由が無ければ、入らないと思いますが……断言は出来ません」
「まあ、そうだよね……」
トホウク島に来た当時のミュウは若いとは言え、勇者と戦える程度の実力は有ったらしい。
──と言うか、返り討ちにした事も何度も有ると。
そういうのが鬱陶しかった事も有って島に来た訳ね。
うん、その気持ち、判るよ。
──ああ、フェリスさん、無理に合わせなくても大丈夫だからね? 皆、各々に違うからいいんだから。
少々脱線して時間を費やしましたが、話を戻して。
現時点で最も可能性が高いのは、嘗ての島に住んでいたケロロン族の始祖となるモンスターが島に来る前、或いは生まれる前から、存在していた、というもの。
そして、そのモンスターは長い間、地下深くで、静かに眠っていたか、今も眠っている。
エメの様に地中に居ても生きる為の糧を得られるという可能性も考えられるけど、それなら島には住めない。
だから、そういった可能性は無いに等しいと言える。
──という訳で、この地下洞穴を進む事に。
行き先は二方向。
しかし、俺にはミュウの居た洞穴での実績が有るので、此処はフェリスさんとミュウに任せる事に。
ゲームでなら、マップのコンプ率を上げ易いくなるから彷徨っていてもいいんですけどね。
つい、昨日までは洞穴で暮らしていたミュウの感覚と、風や空気の変化に敏感なハーピア族のフェリスさんが協力する事によって、現時点までの所はノーミス。
つまり、迷ったり、行き詰まる事無く、だ。凄い。
そう思った矢先に──突き当たりに。
うん、フラグを立てた俺が悪いので責任を取ります。
どうするのか? 身体で償います。
「──っ! まさか、塞いでいたとは思いませんでした」
鶴嘴による一撃で、行き止まりに見えた岩壁が崩れて、その先へと続く道が現れる。
ただ、驚き、しかし、納得もしているフェリスさんには申し訳無いんですけど……違います。
塞いでいた訳ではなく、塞がっていただけ。
意図した訳ではなく、ただ、途切れていただけ。
はい、此方等と向こうとは直結してはいません。
5メートルは有るだろう厚みの岩を容易く砕いた自分のチート具合には呆れるだけです。気にしないけど。
繋がった先へと入り、更に奥へと進み続けた。
ミュウの居た洞穴もそうだったけど、モンスターが全く居ないのって普通なの?
「それは匂いと言いますか……圧倒的強者の気配を感じて近寄らないというだけです」
「圧倒的だから、その側は安全になるんじゃ?」
「旦那様、モンスターの世界は弱肉強食のみです」
「あー……つまり、弱いと……」
「はい。強者の為の獲物でしか有りません」
真理であり、摂理なんだけど……厳しいなぁ……
勿論、利害関係が成り立てば共生も可能なんだろうけど強さに開きが有る程、それは顕著になる訳だ。
ミイムも、そんな感じだったなぁ……
まあ、それは兎も角として。
何方等の洞穴にもモンスターが居ない理由も判った。
領地になってしまえば関係無いんですけどね。
ただ、この事実からモンスターの少ない場所というのは要注意だという事を学びました。今更ですけどね。
行く手を阻む敵も居なければ、悪辣な罠や仕掛けも無く緊張感が何処かに行きそうな状況。
しかし、そんな俺達を唐突に襲ったのが、大きな揺れ。左右からフェリスさんとミュウが抱き付いてきた程度なら問題無いんですけど……皆が、ですからね。
ちょっと窒息&圧死し掛けました。
まあ、普段は空を飛ぶハーピア族にとっては地下という環境は飛行能力というアドバンテージを奪う事になる為、洞穴が揺れると恐怖心を強烈に煽る訳です。
崩落したら俺の防御魔法では耐えられるか怪しいけど、そんな事は考えていない。考えられるのなら、冷静だし、余裕が有ると言えますから。
軽いパニック状態になるのは仕方が無い事かと。
だから、ミュウさんや、貴女は態とですよね?
「きゃ~」と可愛らしく言っている辺り、余裕綽々だと判りますから。まあ、どさくさに紛れて悪戯をしてこないというだけでも自重していると思えます。
「し、失礼しました」
「大丈夫、大丈夫」
取り乱した事を恥ずかしがるフェリスさんの頭を撫で、安心させる様に笑顔を見せる。
──と言うか、自然に顔が若気ます。だって、照れてるフェリスさんが可愛いんだもんっ!
はい、判ってます。皆も可愛いです。
「旦那様は正しく優れた群れを率いる雄です」
「言いたい事は判るけど、生々しく聞こえるなぁ……」
いやまあ、私生活は生々しいんですけどね。
取り敢えず、誰も怪我とかはしていないみたいだから、先に進みましょうか。
ただ、揺れが激しくなったり、長くなる様なら、即座に洞穴から脱出する事にします。
入る前も、入ってからも頻繁には揺れていなかった為、油断していましたが、生き埋めは嫌なので。
安全第一、安全確認を怠らない様に。




