歴史は語る
他の皆には待機して貰い、俺はケロロン族の住む島に翼を顕現させて飛んで行った。
……本当は運んで貰おうとしたんです。
でも、「長が「是非、翼を顕現させて」と」言われて抵抗しようとしたら他の皆にも賛成・推奨されたので、仕方無くです。悪目立ちするのになぁ……
──と思っていたのは俺だけでした。
案内された島に有る町──いや、人口的には村かな?
その中心の広場っぽい開けた場所に集まっているので其処へ降りて行った。
その結果、光の翼を見せながら降り立った俺の前にはケロロン族らしき人々が平伏しています。
……フェリスさん達が満足そうで何よりです。
俺の精神力は尽きて御亡くなりに為りましたよ。
さて……それよりも目の前の人達の事です。
ケロロン族は見た目にはヒュームと変わりません。
長だろう先頭に居る女性──少女。その髪型からしてシルエットは蛙です。
後頭部の丈夫に纏めた御団子が両目、左右を膨らませ巻き込んだ髪型からは意図を感じますしね。
だって、他には誰も類似する髪型は居ませんから。
──なんて事を考えていても何も動きません。
フェリスさん達も「さあっ!」と目で催促するので。遣るしか無さそうです。
「俺はユイノ村の村長で、勇者のアイク。汝等の助けを求める声に応じ、此処に来た次第だ」
「有難う御座います、アイク様。私はケロロン族の長を務めます、フロッツェと申します」
俺が色々と飲み込んで、そう名乗ると少女だけが身を起こして名乗り返してくれる。
フロッツェさんね。正面から見ると可愛い女の子で、円らな菫色の瞳、青緑色の髪が白い肌に映える。
ミミリミさん達は髪色はセピア色で皆同じ
。瞳の色が長の血筋が赤紫で、他は焦げ茶色。
ケロロン族は髪色は青緑を中心に青寄り、緑寄り、と老若男女問わずに様々。瞳の色は全員が同じです。
比べるのは違うとは思いますけど、種族毎の個性って本当に色々有るものですね。
──なんて事を考えるのは、軽く意識を逸らす為。
だって、フロッツェさん、凄く綺麗な姿勢なのに服が胸元がノーガードだから俺の位置からだと……ねぇ?
あの谷間に挟まれたいと思う男は少なくない筈です。
「隣の島の主が暴れている、という事だが?」
「昔話になりますが、このセナイン島と隣のトホウク島というのは元々は一つの大きな島だったのだそうです。ある時、この地に一人の勇者様が降り立ちました。島の主は勇者様を侵入者として襲い、倒されました。そして勇者様の妻となり、この地で幸せに暮らしたそうです」
「その勇者と主が貴女達、ケロロン族の祖先だと」
「はい、その様に言い伝えられています」
チラッとフェリスさんを見ると、一通りの話を聞いた上で此方等の話をしたのだと伝えられます。
こういう時、【以心伝心】って便利です。
俺が勇者で、同じ様に始祖化した妻を持つ者だから、彼女達は敬っているのでしょうね。
自分達のルーツを実証する存在でもあるのだから。
しかし、ちゃんとした一族の由来が残っている辺り、この地からケロロン族は離れてはいないのでしょうね。此処で血と歴史を守り繋いで来たからこそ、迫害等とも無縁だったのかもしれないな。
迫害されたりして、この地に辿り着いたのだとしたらフェリスさん達を見て、助けを求めたりはしない筈。
バニット族の様な意識や反応が自然な筈なので。
前世でも島民の人達って優しいし、おおらかな感じで温かさが有ったしなぁ……
排他的・閉鎖的な場合は、辛い過去や暗く深い秘密を抱えている場合が多いでしょうからね。
──とは言え、ケロロン族の話は本題ではないので、訊くべき事を訊きましょうか。
「それでは、トホウク島の主というのは?」
「先程、御話しした様に二つの島は元々は一つの島で、御二方の激しい戦いにより島の地下空洞にまで影響し、島の地面の半分以上が崩落して海中に沈んだそうです。その証拠に周辺の海底には深い溝や崖の様な地形が多く見られますし、海底洞窟も有ります」
「へぇ~、それは機会が有れば潜って見てみたいな」
「とても綺麗ですから是非!」
そう俺が興味を示すと、我が事の様に笑顔を見せて、フロッツェさんは食い気味に声を出した。
直後、我に帰り、顔を赤くして、一転して青くして、慌てて頭を地面に打付けそうな勢いで下げる。
「も、申し訳有りません!」
「謝る事は無いよ。その時は是非、案内して欲しいな」
「は、はい、私で宜しければ……」
そう言えば、ゆっくりと顔を上げ、恥ずかしそうに、でも、嬉しそうに笑顔を浮かべながらフロッツェさんは答えると、姿勢を正す。
この島──故郷が大好きなんだな、と感じて俺の方も何だか嬉しくなります。
ロンベルクや生まれてくる子供達、その子孫達も皆が彼女の様に思える村に、故郷にして行きたいものです。大変でしょうけど、遣り甲斐は有ります。
ちょっとだけ、彼女が切り替える為に間を置き、話の続きが再開される。
「島が二つに分かれた後、このセナイン島で暮らす事を御二方が選んだのですが、その理由は当時のトホウク島というのは今とは違い、草木の無い岩山だったからだと伝えられています」
まあ、それは当然の判断だと言えるでしょうね。
パッと見だけど、セナイン島よりもトホウク島の方が倍近い大きさではあるから、態々小さい方を選ぶ理由が有ったとしか思えませんしね。
セナイン島も十分に広いですから。
「それから、御二方が亡くなる少し前の事だそうです。ある日、トホウク島に草木が芽吹いている事に気付き、調べに行ってみたそうです。そして、其処でトホウク島に住み着いた新たな主と出逢われました」
ふむ……その新たな主が現在も生きている、と。
これは多分──いや、間違い無く、勇者案件だね。
倒したら人化して妻になる流れです。
まあ、ケロロン族の妻の数は少なくて済みそうだから今までの事を考えれば気楽ですしね。
「その新たな主と御二方は話し合い、共存していく事が約束されました」
「共存というのは?」
「ケロロン族はトホウク島を荒らさない、というもので踏み入ったり、多少の採取をしたりする程度であれば、許容範囲内、という事になります。また、その代わりにケロロン族も年に一度、作物の一部を奉納します」
「年に一度だけ?」
「はい、年に一度だけです」
「……それが足りなかったから、とか?」
「いいえ、まだ奉納の時期では御座いません」
「まあ、随分と長い関係性みたいだから、そんな理由で暴れたりはしないか……」
文句が有るなら、もっと早くに暴れているだろうし、セナイン島自体を襲えばいいだけ。
しかし、セナイン島に戦闘痕や破壊痕は見られないしケロロン族に負傷者が居る様にも見えない。
勿論、この場に居なければ話は別なんだけど……
見た感じ、二百人近いから全員居ると思う。赤ん坊を抱いている女性も居ますからね。
「暴れている、というのは具体的には?」
「それは──」
──と、その時、フロッツェさんの声を遮る様にして身体が大きく揺れた。
悲鳴や叫び声が上がる中、俺は冷静に防御魔法を使い全員を包み込む様にして守る。
広場に居たから出来た事なので運が良かったです。
広場に有った岩を積んで作った柱みたいなオブジェが倒壊しましたからね。防御魔法を使っていなかったら、数十人が怪我をしていたでしょう。
うん、魔法の練習、していて良かった。
正直、初めて防御魔法が役に立ったので嬉しいです。役立つ様な事は無い方が良いんですけどね。
「あ、有難う御座います……」
「今の揺れが、その主が暴れて起こしていると?」
「はい」
「……その姿を確認した?」
「……いいえ。更なる御怒りを招いてもいけないので、誰もトホウク島には入っていません」
……この世界って地震の概念って有るのかな?
そう思い、フェリスさんに訊ねると「地震とは?」と訊き返えされましたから、知識として知らない事なんだという事を理解しました。
「フロッツェさんはトホウク島の主に会った事は?」
「毎年の奉納の際に御会いしています」
「それじゃあ、去年の奉納で会ってからは?」
「私も、他の者も御見掛けしていません」
──となると、主に何かが有った可能性も有るのか。無関係……は無理だろうな。
でも、地震の原因かどうかは定かじゃないから……
どうあってもトホウク島に行く必要が有る、と。
強制イベントのフラグ臭が漂ってますね。
「主に付いて判る限りの事を教えて貰える?」
「はい、勿論です。主は真っ赤な大亀で、長く太い尾を持ち、口からは火を吹く事も出来ます。奉納した作物の一部を自ら焼いて食べられたりもされます。それから、一族と交わした約束から四百年近くは経っています」
全長は判らないけど、甲羅の高さは5メートル以上、脚の太さは直径1メートル程、頭には小さな角、と。
……赤くて、島の主で、地震?
もしかして、その主、火山──地下のマグマ溜まりの中に住んでいたりしたないよね?
……ああ、主の普段の生活とかは知らないと。
「これからトホウク島に行ってみるが、皆さんには先に言って置く事が有ります。ケロロン族の伝承と同様に、その主を俺は倒す──いや、殺す事になる。それが主に新たな生を与える方法だからだ」
「……複雑では有りますが、全て、御委ね致します」
「ケロロン族を憎んだり、恨む様な事にはさせないし、姿は変わっても紡いできた絆は失われはしないから」
「はい、宜しく御願い致します」
一通りの情報を聞き終えるとアイク様はトホウク島に御一人で向かわれた。
もし、地下の洞窟に入る様な事が有り、内部に海水が満ちている様であれば私達は邪魔ですから。
ですが、念の為に、対岸に居るネーレイア族の半数にセナイン島に来て貰う事に。
【以心伝心】が使えない為、数人を向かわせます。
彼等の遊泳速度であれば直ぐに着くでしょう。
「あ、あの、フェリス様……」
「私達は同じ一族の長同士、様付けは不要ですよ」
「で、では……フェリスさん」
「はい、フロッツェさん、何でしょうか?」
「その……私などが本当に勇者であるアイク様に御寵愛頂いても宜しいのでしょうか?」
「アイク様では御嫌ですか?」
「イぃいいえいえいえっ! 滅相も御座いませんっ!」
ちょっとだけ揶揄う様に意地悪な事を言うと、彼女は大慌てで誤解されない様にと否定する。
その姿をアイク様に御見せ出来無いのが残念です。
……ああいえ、アイク様ですからね。
自力で御覧になられる事でしょう。
「ケロロン族もユイノ村の一員となる以上、長の貴女がアイク様に嫁ぐ事は必然ですし、大切な事です」
助ける見返りとして、というのも何ですが。
タダ働きだけはしてはいけません。
アイク様にとっても、ユイノ村にとっても、彼女達にとっても良くは有りませんから。
その為の対価──いえ、条件です。
尤も、アイク様が勇者である事を話した時の彼女達の反応は面白──いえ、新鮮なものでした。
何だかんだで勇者やヒュームに対して良い印象が無い種族が多いですからね。
勿論、私達は違います。
……いえ、アイク様だからですね。
「貴女達に限らず、私達は勿論、他にも多くの種族が、アイク様に御救い頂き、御寵愛を頂いています。貴女が望まないのであればアイク様は無理強いは致しません。勿論、だからと言って、ケロロン族を害したりする事も有りませんから安心して下さい」
「はい、それは私も御会いして感じました」
そう言うフロッツェさんは無自覚なのでしょうね。
自身の胸に左手を重ね、想いを大切にしています。
既に心はアイク様に夢中でしょう。流石です。
──とは言え、待っているだけでは時間の無駄なのでケロロン族の能力や得意・不得意を訊いて村での仕事を決め易くする様に準備をして置きましょうか。




