呼び水
ミミリミさん達から聞いた話によると、彼女達が移動しながら生活していた範囲内での話にはなりますけど、他種族に出逢ったのは上の世代の人達を含めても今回が初めてという事です。
少なくとも100年以上は放浪するみたいな感じでの生活を続けた後に、現在の様な生活スタイルに。
バニット族は元々は西大陸の南部に集落を持っていたという話を聞いたので詳しく訊いてみた所、召喚されて直ぐの俺が目指していたレジッビ王国の辺りだったので驚きましたし、ちょっと縁を感じました。
尚、そのバニット族の集落を襲ったのはヒュームの国でしたが、後にレジッビ王国に滅ぼされたそうです。
そうアルビナスが教えてくれました。
因みに、その当時のアルビナスは、西大陸の中央部の北寄りに縄張りを持っていた為、バニット族とは初対面になるそうです。
ミミリミさん達の話──現状に至る切っ掛けとなったハーピア族への攻撃。その理由であった他種族からの迫害。
その辺りを詳しく訊いてみました。
すると、予想通りバニット族を迫害したのはヒュームだけではないという事が判りました。
“マッシバル族”。男のみという種族で筋骨隆々な褐色マッチョ達の脳筋集団。
「筋肉こそ至高!」という価値観で、女性の好み等も筋肉で判断していたとか。
バニット族が見下されたり、侮蔑される訳です。
バニット族と同じく西大陸の南部に都を持っていたが多勢力──まあ、ヒュームですが、襲撃して女性を拐うという事をしていたので滅んでいます。
「バニット族の可愛らしさが判らないから滅びた」と言ったらミミリミさん達に襲われました。
“トローリア族”。平均身長が2メートル越えだという長身で手足もとても長かったという種族。
巨人というよりは長人だそうです。
それ故にバニット族を見下す。物理的にもね。
此方等は南大陸に居た種族だそうで、マリアナさん達ネーレイア族も知っていました。
敵対してはいなかったものの、関係は良くはなく疎遠だったそうです。
はい、既に滅んでいるそうです。
そして、“ラビー族”。
バニット族が兎人なら、ラビー族は人兎。
160~180センチ程の人型の兎。
でも、モンスターじゃなくて、これが人なんです。
不思議に思いましたけど──原因は勇者に有る。
多分、始祖を倒した勇者が人嫌いか何かで、その事が人化に影響したのではないかと考えられる。
今現在、六人・六種族の始祖を生み、妻にしている俺だからこそ判る事だと言えます。
──で、そんなラビー族からするとバニット族は真逆であると共に嫌悪対象だったそうです。
ヒュームの事も嫌っていたそうなので。
しかし、それだと種族を維持出来無いのでは?
答え、ラビー族は近親交配が可能だったそうです。
それは、どんどん排他的な種族にもなりますよね。
因みに、ラビー族は南大陸と東大陸の間に有った島に国を築いていたそうですが、島ごと消滅したとか。
「え? 何それ?」と思わず言いましたからね。
でも、その辺りの事は一切不明なんだそうです。
──という話をフェリスさんが教えてくれました。
別に、まだ見ぬ新しい種族を探し求めていたという訳ではないので滅びていても構いませんけど。
その話を聞くと、俺も皆も考えさせられる訳です。
共存が如何に難しく、それ故に今が凄いのか。
滅びた種族の話を含めて、迫害を受けたりした種族の過去や苦労話を子々孫々と伝えて行く。
実例として、戒めとして、其処から学んで欲しいから後世にも残していきたいと思います。
「私達にとってはアイクと出逢えた事が奇跡だな」
「俺からしたら、ローザさんとの出逢いが全てだったと今でも言い切れますけどね」
「そうか? だが、最初にマリアナやスィンと出逢えば同じ様な状況になっているのではないか?」
「ある程度の時間が経てば、そうはなっている可能性は有るとは思いますけどね。色々と違うとも思います」
「例えば?」
「俺の妻の一人目がマリアナさんやスィンだった場合、ネーレイア族やモーラ族の地位が村の中でも抜けます。それなりに人数が居ますから。でも、オルガナ族は僅か五人という事で、他種族の受け入れには寛容ですから。その差が今の村の、これからの村の根幹を左右します」
「成る程……それは確かにそうかもしれないな」
「それにローザさん自身の存在も大きいです」
「……私か?」
「はい。ローザさんは権力意識が強くないので他の皆を自分よりも下には見ませんから。その在り方が他の皆の信頼を得て、纏めてくれています。これだけの数の妻を俺が迎えられているのもローザさんが一人目だからだと俺は言い切れます」
「アイク……」
俺の言葉に驚きながらも嬉し気に照れるローザさん。感動から欲求へとリンクし、シフトするまでは一瞬で。見詰め有っていれば自然と距離は近付き──
「──っと、ふふっ、続きは後で、だな」
「はい」
傍らの専用ベッドで眠っていた筈のロンベルクが起き泣き出したから俺達は親としての意識が強まる。
御互いを見て、求めている時には違いますけどね。
切り替えたローザさんはロンベルクを見て直ぐに泣く理由を察してオムツを脱がせます。
まだ生後十日のロンベルクのオムツを手際良く替える様子を見ていると事前学習の機会の重要さが判ります。村に小さい子供が居るから実際に練習も出来ましたから人口って大事だなって思わされます。
ああ、子育て夫婦の定番「お父さんの分は~」なのは既に遣りました。
何故、ローザさんが、そんなネタを知っているのかは後回しにして。挑発に乗りましたとも。
でも、普通の母乳って美味しくは有りません。まあ、子供の為の栄養や免疫の源ですもんね。
はい、ミルキシア族のミルクとは別物でした。
ローザさん達と分かれ、村の中を見回る。
巡回しているとかではなく、仕事以外でも村の皆との交流する機会を少しでも作る為に。
……家に居たら、空いている時間の全てが子作りへと当てられてしまいますからね。
いやまあ、嫌ではないし、必要な事なんですけどね。それ以外には時間を使おうとはしませんから。
はい、そうです。俺が、ではなく、妻達が、です。
此処、重要ですからね?
そんなこんなで村の中を歩いていると一番関わるのは自然と子供達という事になります。
大人は仕事をしている者も多いですからね。
ああ、別に日の出から日没まで働いているという様なブラックな労働環境では有りませんからね?
仕事は適性等を考えて各種族に合わせた内容のものが多い事は事実ですが、希望した仕事も出来ます。
勿論、向き不向き・得手不得手が有るのは仕方無く、誰だって最初から十全には出来ません。
だから、希望して遣っている仕事というのは将来的な人材育成の為の実証実験の様な意味も含みます。
──とは言え、ネーレイア族やハーピア族の様な種族特性が有っての仕事に関しては話が別ですけど。
話を戻して。
村の子供達とは一緒に遊んだり、親や手の空いている大人達と一緒に何かをしたりしています。
この時、子供達──特に女の子には将来の話をしない事には気を付けています。
何しろ、少し言い方が拙く、女の子側の受け取り方がズレてしまうと「俺の妻に成れ」という誤認をされて、その責任を取らなくてはならなくなるので。
この辺りの事はファナさんが忠告してくれました。
勿論、「アイク様にその気が有るのであれば、私達は構いませんよ」という余計な一言付きでです。
ええ、そんな気は有りません。
いや、子供達に魅力が無いとかではないので……
──みたいな事を子供達に言うのも駄目です。
パワハラ・セクハラじゃないですけど、ややこしい事だけど意識しなくてはならない事なんですよね~。
さて、そんな子供達の為に遊具や遊び場の有る公園を作ったりもしています。
芝生を育て、海岸から運んだ砂は危険物を取り除き、角や尖ったりしている所は丸くして、と。
考えられる所には気を遣い、常に情報更新。
子供達の自主性や自由を重んじればこそ、多少の危険というのは仕方が有りません。
痛みや苦しみを知る事も成長の為の経験ですからね。傷付かないと判らない事も有りますから。
ただ、今は目新しくても孰れは飽きるものです。
俺だって、子供の頃はそうでしたからね。
公園も新設するばかりではなく、色々考えて作る事が必要なので俺達も勉強になります。
公園一つとってみても、これですからね。
村作り、街作り、獲得した領地の開発という事では、本当に色々と考えなくてはならない事が判ります。
【領主】権限というチートが有っても俺だけの能力。次代に引き継げないのなら、それを加味して遣ってゆく必要が有るという事です。頑張りましょう。
さて、次のダンジョン探しが再開されました。
ミミリミさん達、バニット族も一部が探索隊に参加。森や山では頼もしい位に機敏です。
そして、ミミリミさん達の話から探索範囲を彼女達と出逢った辺りには無さそうなので、バスィアッシヴュル大山脈の南側に絞る事にしました。
そして、バスィアッシヴュル大山脈とスーバリ山とを結んだ間を真っ直ぐに東に進んで行った先で、海岸へと到着したので休憩をしながら周囲を見回す。
その中で一番目に付いた存在を見詰めながら話す。
「彼処に見えている島って有人島?」
「我等は海に入れば弱者なのですぞ……」
「ああ、うん、聞き方が悪かったな。あの島に一族内で行った事が有る様な話を聞いた事は有る?」
「そういった話は聞いた事が有りませぬぞ」
「ふむ……フェリスさん、偵察を御願い出来る?」
「はい、御任せ下さい」
「誰か居ても接触は慎重にね。威嚇や攻撃された場合は安全第一で戻って来て」
「心得ました」
フェリスさんが一緒に居たハーピア族を率いて俺達が居る海岸から東に浮かぶ島に向かって飛び立った。
それを見送り、休憩を終えていた俺達は予定していた通りに海岸沿いに北上しながら進んで行く。
同時に、海岸に近い海中はネーレイア族が探索。
人数は勿論、種族が増えると効率も上がります。
人海戦術って単純だけど効果は確かですよね~。
これと言った怪しい場所は見付からないけど、色々と発見や収穫が有るので退屈はしません。
見えないから海中のネーレイア族の方が気になるのは仕方が有りませんが、皆も強いですからね。
初見のモンスターに襲われても動揺もしていません。あ、その”ムゥーニア“──刺々した奴ね。それ、数が居る様だったら生け捕りにしてくれる? そう食用向きだから養殖しようと思うから。うん、宜しくね。
──なんて遣り取りも有ったりして。
見えている海岸線を半ば程まで来た所で、海の方からハーピア族の一人が戻って来た。
フェリスさんではないから何か有ったんでしょうね。
「アイク様、彼方等の島──此方等から見ると右手側の小さい方の島ですが、”ケロロン族“が住んでいます」
そう報告されて──その種族名が気になりました。
ケロロン族…………え? 蛙? 蛙人って事?
──と、脳内で処理し切れない為、混乱する。
いや、脳内には人蛙が思い浮かんでますけどね。
ラビー族という実例が存在していたのだから有り得る可能性では有りますから。
ただ、個人的には人──ヒューム寄りではない相手は果たして異性として認識が出来るのか?
無理っぽいけど、出来無くもない?
……駄目だ、判らない。想像も難しい。
取り敢えず、確認は話を聞いてからにしましょう。
「種族が判るって事は対話が出来たんだね?」
「はい。向こうは私達の姿を見た者が長に知らせた後、戦う意思は無い事を示してきたので三人が先行して接触してみた所、助けを求められました」
「……女性ばかりで行き詰まっているとか?」
「いいえ、男性も居ますし、老若男女合わせて二百近く居るそうです」
おおっ、凄い! 今の所、種族の人数では最大数だ。偏りが無いから島の中でも種を保てているんだろうな。出来れば、そのまま頑張って欲しい。
──と思いつつ、「それなら、どうして?」と思う。
「バニット族みたいに病が流行っているとか?」
「いいえ、違います」
そう言うと、海──島の方を向いて、指差した。
ケロロン族の住む島の隣に有る島を。
「彼方等の島に住む主が暴れているそうです」




