流れには逆らわない
時期が時期だけに、村には受け入れず、領内の村から離れた場所に一時的に、という案も出ました。
それは仕方が無い事だとは思います。
ローザさんは出産予定間近で、妊婦も多数。各種族の将来が掛かっていますからね。危険は避けて然るべき。当然の懸念であり、意見だと言えます。
──が、その必要は有りませんでした。
バニット族が罹患していたのは種族特有の感染病で、他の種族には感染する事は無く、治療も村で育てていた薬草等を調合した薬で出来ましたから。
はい。ミミリミさんを含めた二十一人が新たな妻に。この流れは止められませんし、避けられません。今回に関しては、そうなる明確な理由が有りますからね。
スィン達、モーラ族は1メートルに満たない身長でも身体はしっかりとしていましたけど。ミミリミさん達、バニット族は120~130センチ程とモーラ族よりは背は高いですが全体的に細身です。
モーラ族はパワー重視で、バニット族は機動力重視。そんな印象を受けました。
尚、後日、確認した所、実際にそうでした。
ミミリミさんは滅茶苦茶初でした。
元祖ツンデレというのか、昔のドラマに登場しそうな不良少女が超ピュアだったという感じのギャップ萌え。合っているかは判りませんが、多分、そんな感じ。
でも、他の二十人は真逆の肉食淫乱猛獣でした。
俺だけではなく、ミミリミさんも巻き添えに……
ああ、はい、考えません。考えてませんってば。
…………照れるミミリミさん、可愛過ぎです。
つい、襲ってしまったじゃないですか。もお~。
バニット族が弓矢を主武器としているのは一族の伝統なんだそうです。
ミミリミさん、上の世代の夫婦、祖母世代からの証言ですから、そうなんでしょうね。嘘を吐く様な理由とか思い当たりませんから。
──で、実際に腕前を見せて貰いました。
はい、簡易的に作った物とは言え、的や人形に容易く命中させました。百発百中でしたよ。
しかし、それを見て疑問も思い浮かびました。
「これだけの腕前なのに奇襲で無傷?」と。
別にハーピア族の妻達を傷付けて欲しい訳ではなく、単純に気になっただけです。他意は有りませんから。
勿論、ハーピア族が強い、優れていた、と。
そう言われたら、それまでなんですけどね。
……ああ、成る程。弓矢の質の問題ですか。
当時、ミミリミさん達の七人が所有していた弓矢とは狩り用の消耗品。その為、質は低い。
まあ、それでも百発百中だった訳なんですけどね。
一族の本気用──戦闘武装は質が違いました。
射撃された彼女達も「此方等だったら……」と冷や汗を掻いていましたからね。
そして、試作した村製の弓矢を使って貰うと──
改めての忠誠を誓われました。
要するに「コレ、欲しいです」という事です。
新しい村の住人ですからね。否は有りません。
ああ、だからと言って乱獲は禁止ですからね?
ミミリミさん達が村に来てから七日後。
ローザさんが産気付きました。
俺にとっての初めての妻の出産ですし、ローザさんも初産ですし、村が出来てから最初の出産です。
正直、テンパります。
──が、其処は経験者が多数居てくれて安心です。
俺は一旦、ローザさんから離されて、落ち着いてから側に行く許可を与えられます。
ローザさんは陣痛の波の間らしく、一息吐いている。初めての陣痛は想像以上だったと感慨深そうです。
母子共に問題は起きない筈ですが、それはそれ。
スムーズに行くかまでは判りません。其処は自然任せですからね。どうしようも有りません。
尚、出産中は男は立ち入り禁止になります。
それが、この世界の文化なので従います。
──となると、ローザさんの側に居るよりも仕事に。何時始まるか判りませんし、ローザさんにも言われたら無駄な抵抗はしません。
そして、最初の陣痛から4時間程経った時です。
出産が始まった事を伝えられて戻ります。
勿論、身体も服装も綺麗にしてから部屋に。
衛生管理は大事ですからね。
部屋に入るまでに三度もチェックされても文句なんて言えません。それだけ重要な事なんですから。
部屋に入ると、まだ額に薄らと汗の残る疲れていると一目で判るローザさんの姿が。
しかし、その表情はとても穏やかで達成感と充足感に満ちているのが判る。
……夫婦の営みの事後の表情には重なりました。
この辺りが男女の違いなのかもしれません。男は自分自身が出産する訳ではないですからね。
ただ、それでもそんな雑念は一瞬の事です。
直ぐに現実に引き戻され、ローザさんの傍に。
先ずは出産の疲労を労う様に声を掛け、キスを。
軽く、のつもりが濃厚なのを頂きました。
訂正、この世界の女性は本当に貪欲な様です。
だって、早くも「二人目も頼むからな」と催促された訳ですから。実に逞しいものです。
そして──ローザさんの傍らに居る赤ん坊。
まだ生まれたばかりで顔も赤い。
まだローザさん達に比べれば薄いけれど俺よりは濃い肌の色を見ればオルガナ族なのだと判る。
まあ、勇者と始祖の子供達が各種族の先祖な訳なので因子としては何方等が強くなるのかは言わずもがな。
う~ん、これも生命の神秘ですね。
そんな事を考えながら見詰めていると、ローザさんが小さく笑いながら、俺を促す。
「アイク、御前の子だ。抱いて遣ってくれ」
そう言われて、我が子へと手を伸ばす。
伸ばすけど──震えている事に気付いて一旦、引く。自分でも想像以上に緊張しているみたいです。
赤ん坊の抱き方は知っている。ちゃんと習ったので。実際に経験も有るから大丈夫。
そう思っていたのに──これが現実です。
はい。他人の子供と自分の子供は違います。
自分の子供だからこそ、緊張も桁違いです。
深呼吸し、自分を落ち着かせてから──抱き上げる。
その身体は、とても小さくて軽い。
だけど、その温もりは深く染み込む様に重く感じる。
同時に、実感する。
「嗚呼、この子が俺達の子だ」と。
「ふふっ、それでは見え難いだろう?」
そう言いながら手招きするローザさんに従って身体を屈めて近付けば指先で優しく目元を拭われる。
其処で初めて自分が涙を流していた事に気付いた。
……普段なら照れ臭い、恥ずかしいと思うのに……
全く気にならない。寧ろ、誇らしくすら思える。
……成る程。これが親馬鹿の種が芽吹いた証か。
「御前の長男だが、あまり甘やかしてくれるなよ?」
そう揶揄う様に、或いは見透かす様に言うローザさんの表情は妻であり、母でもあり。
「その子は次の長だからな」と。
一族の事を考える長でもあるのだと改めて思う。
だから、俺自身も改めて考えさせられる。
男と女、夫と妻、父と母。
それらには違いは有っても共に背負い合い、支え合う対等な関係だと言える。
しかし、俺とローザさん達には違いが有る。
俺は各種族の妻を娶ってはいても、一族の長には成る事が出来無い。
この点に関しては覆せないし、下手な事も出来無い。各種族間での俺の争奪戦になるから。
そして、村長と村人。
この関係を長であり、妻である皆が重視する理由。
俺の後継ぎ──次期村長というのは難しい立場だ。
何しろ、種族的に母方の因子が勝ち確なら村長にした種族が優位に立ってしまうのだから。
そうなると今の俺の様な立場とは違ってしまう。
そうなると村は分裂してしまうだろう。
まあ、この辺りは予め各種族毎の専用地を用意すれば避けられる問題では有るとは思う。
各種族の長による合議制の共同体。
この村を聖域にでもして争わない様にすれば、何とか自分達の死後も繋がりは維持出来るとは思います。
「絶対に大丈夫」とは言えないのは、人だから。
「何故?」という理由で争うのが人ですからね。
そうなる可能性は常に有ると言えます。
だからこそ、各種族の距離感は大事になります。
今の村の各々の役割の様に、御互いが助け合えるなら長く続いてくれるとは思いますけど……
どうしても思考が一族や自分達の利に傾くと……
その関係性を崩す事に繋がるでしょうからね。
社会というのは、“誰もが何でも出来る”よりも。
各々が専門的な技術や知識を持っている方が安定するというのが俺の考えです。
前者は自己利益を優先し勝ちに為り易いですから。
勿論、後者にもそうなる可能性は有りますけど、他に代行出来る存在が居なければ、相互幇助の関係を続ける方が安定する訳ですからね。
まあ、独立独歩という意味では、自分達だけで出来る方が良いと考えるのも自然な事だとは思います。
だから、社会構造というのは難解だと思います。
問題一つだけを切り取ってみた場合には単純そうには思えるんですけどね。儘ならないものです。
そんな風に色々と考えさせられましたけど。
先ずは、無事に第一子が誕生しました。乾杯っ!!
──という訳で、祝宴となりました。
ローザさんも、妊娠中の妻達も禁酒ですが。
其処は俺も一緒です。無理はしていませんから。
それに──今夜は激戦必至なので。
はい。赤ん坊を見た妊娠していない妻達の眼差しが、それはもうギランギランにギラついていますから。
逃げも拒みもしませんから、御酒は控え目にね。
「これはたまらんのぉ……」
「可愛い過ぎますぅ……」
生まれた長男を抱くアルビナスも、その寝顔を横から覗き込むエメも顔が若気ている。
──いや、蕩けていると言うべきでしょう。
その気持ちは判ります。
ただ、不思議にも思います。
俺にとっては実子ですが、同じ男を夫としている妻達にとっては自分が御腹を痛めて産んだ子供ではなくても我が子という認識になる様です。
その辺りは多分、俺を共有しているからこその感覚や価値観なんでしょうね。
俺からすると、母親が違うというのは大きな違いだと思えますから。
…………あー……これは直さないと危ないかも。
母親達と父親の意識の齟齬。
そういった事は少なくはないですが、これだけは俺が絶対に改めなくてはいけない事だと言えます。
俺の意識が子供達に与える影響は大きいし、その先に母親である妻達、そして村人である各種族の皆が居る。影響の拡大は避けられませんから。
些細な事の様に思えますが、超重要です。
俺自身も子供達を単純に我が子として愛する。
其処に母親や種族の違いは混ぜない様にしないと。
「どうした? そんな難しい顔をして」
「うん、まあ、その……ちょっと考え過ぎだなって」
「アイクにはアイクの根幹が有るから仕方が無い事だ」
「……言わなくて判る?」
「何と無くだがな」
「そっか……」
ローザさんの眼差しが「御前を愛しているからな」と言外に物語っています。
祝宴中でなければ押し倒す所です。
それは出来無いので抱き寄せてキスで我慢。
…………あの、ローザさん、その右手は……
「不思議なものでな、私も昂っているんだ」
それは俺と同じで、という意味では有りません。
他の妻達と同じで、という意味です。
ええ、つまり、「空いた腹に二人目を……」と。
まあ、そういう御強請りな訳です。
でも、大事を取って産後一ヶ月は控え目にしようって話して決まりましたよね? ……それはそれ?
そう言われたら……いやいや、流されませんからね?
……いや、仕方が無いからって……
それはまあ、其方なら負担も有りませんけど。
う~ん……何だかんだで濃い一夜でした。
結局、ローザさんにも押し負けたし……
まあ、遣ってから気にしても駄目なんですけどね。
「正しい洗礼というのは、こういう物なのか?」
「……正直な話、私も聞いた事が有りません」
村の神殿から戻ってきて、俺達は悩んでいた。
ああいや、全く気にしてない者も居ますけどね。
生まれた我が子への洗礼──“名付け”の儀式。
それを女神像を前にして遣ったんですが……
何かね、息子が光ったんです。吃驚しますよね?
取り敢えず、最後まで遣り切った訳ですが。こうして何だったのかを考えている訳です。
まあ、光っていたのは数秒の事なので、祝福されたと思えばいいのかもしれませんが。
次の子供が光らなかったら……と考えるとねぇ……
勿論、各種族の長の第一子だから、という可能性等も考えられるので今は結論は出ませんが。
目の当たりにすれば、期待も不安も生じる訳です。
「なに、その誕生を神々から祝福されたと思って置けば良いのじゃ。のぉ、“ロンベルク”?」
そう言って息子──ロンベルクをあやすアルビナス。妙に様になってるんだよなぁ……
ただ、蛇舌をチロチロさせるのは止めない? 端から見たら食べようとしているみたいだから。
勿論、何方の意味も無いんろうけど。
見た人が気にするから。
──とは言え、アルビナスの言う通りなのかもな。
彼や是やと気にしても仕方が無いのも事実だしね。
先ずは健やかに育ってくれさえすれば十分ですから。面倒臭そうな事は、その時に成ったら考えましょう。
極論、俺自身の事じゃないしね。
頑張れ、息子よ。父と母達は応援はしているから。




