想像と現実の違い
“異世界・亜人種・弓使い”と条件を出したなら。
きっと、大半の人が同じ種族を思い浮かべるのでは? そう、異世界の代名詞“エルフ族”を!
しかし、現実は小説とは違うものなんです。
案内された先で拘束されていたのは七人の少女達。
ハーピア族の彼女達も見知らぬ種族だそうです。
「──え? こんな幼い子供達が?」
「──っ?! 失礼ぞっ! 我等は成人ぞっ!!」
「──え? あっ、それは済みません」
思わず出た呟きに烈火の如く反論されて謝る。
うん、今のは俺が悪いから縛り上げようとしないで。皆の気持ちは判るけど、流石に理不尽だから。
勿論、襲撃された件は別だから。
それはそれ、これはこれでね。
さて、そんな七人の少女達ですが、今発言をした以外一切何も言わないんだそうです。
はい、その態度から他にも居る事が判ります。
──という訳なので、他の班にも連絡して周辺の森を中心に探索をして貰う事にします。
その会話を聞き、明らかに動揺する者も。
……発言した彼女は長かリーダー格でしょうね。
ずっと、俺達──俺を睨み付けていますから。
ただ、大きく円らな目で睨まれても……ねぇ?
スィン達もそうですけど、小柄だと童顔がデフォルトなんですかね? 勿論、可愛いんですけど。
そんな彼女達ですが、身長は120~130センチ。先程の言葉通りなら、スィン達モーラ族の様に見た目は子供でも大人という事になります。
服装は…………これは毛皮かな?
簡易的にですが、加工して有るのが判ります。
武器は聞いていた通りに弓矢。それと短剣。
しかし、目を引くのは頭の上のうさ耳でしょう。
警戒している為なのか動きは鈍いですが、ピクピクと動いてはいますから、意識的に動かす事も可能性かと。まあ、普段は感情に合わせて動いているのでしょう。
あとは鼻が人と兎の混ざった様な形をしている事か。ヒクヒクと動く鼻は可愛いです。
──と、観察は出来ても黙秘し続ける容疑者達が相手なので此処に居るのは時間の無駄です。
──という訳で、領内に移動しました。
小柄な彼女達は拘束したままでも楽に運べますから。まあ、運んだのはハーピア族の皆なんですけどね。
一応、俺は迂闊に触れたりはしません。
「これから訊く事に対して嘘を吐く事も黙る事も禁止。逃走・抵抗は勿論、自傷・自害も禁止する」
そう言えば、「はあ? 何言ってんだ此奴……」と。
訝しむ様な視線──ではなく、残念なものを見る様な視線を向けられました。
フッ……だが、君達は知る事になるのさ。我が力を。
「先ずは何処の誰かを教えてくれるかな?」
「誰がそんな質問に答えるか」という視線。
馬鹿にしている様にさえ思える。
いやまあ、そう思うのが普通なんだろうけどね。
「我は“バニット族”の長のミミリミぞ──っ?!」
しかし、【領主】の権限の前には無力でしかない。
喋るつもりなど微塵も無かった筈が、そう口にした。その事実に驚愕し、困惑し──畏怖する。
うん、こうして改めて使うと理不尽な位に圧倒的だ。寧ろ、ちょっと罪悪感が有るかな。
でも、彼女達のリアクションが言いから悪ノリをして悪の親玉的な振舞いをしたくなる。
「なっ?! どうしてっ?!」「口が勝手にっ!?」と。
自己紹介をしてくれた彼女達は驚き、戸惑う。
そして──ミミリミさんは即座に頭を下げた。
それだけで彼我の力の差を理解出来る辺り、聡明だと思いますし、判断力も確かでしょう。
拘束されているので手は着けませんけど、額を地面に打ち付ける様にして勢い良くです。
「ちょっ!?」「うわっ、痛そう……」等と思う。
思うのだけど……うん、慣れって恐いなぁ……
そんな彼女の反応を前にしても冷静なんだから。
「数々の非礼は御詫び致しますぞ! 我はどうなろうと構わぬので何卒、他の者達は御容赦下さいぞ!」
長としての自覚と責任感の強さ。
うん、彼女、真面目で良い人だね。
元より、命を取るつもりなんて無いんですけど……
仕方が無い事だとは言え、妻達を攻撃されましたから無罪放免という訳にはいきません。
でも、先ずは事情や経緯を把握してからです。
「その前に確認したい事が有るんだけど……」
「最早、沈黙も隠し事も致しませぬぞ」
「貴女達は、あの捕らえられた森に住んでいるの?」
「いいえ、我等は定住はせず森から森へと移動しながら生きているのですぞ」
まあ、この辺りは予想通り。定住しているのなら既に他のバニット族の姿を見付けている筈ですから。
その事から考えても少なくとも、あの森には彼女達は住んではいない事が判ります。
まあ、だから攻撃してきた事は問題なんですけどね。
「縄張りでもないのに攻撃をしてきた理由は?」
「我等、バニット族は他種族から迫害され、この地へと逃れてきたという過去が有るのですぞ。その為、我等は他種族に対しては「殺られる前に殺れ!」と教えられて育ったのですぞ」
「……因みに、これまでに他種族に会った事は?」
「無いのですぞ」
うん、話を聞きながら、そんな気はしてました。
だって、空を飛べるハーピア族を相手に少数で攻撃を仕掛けてきた時点で可笑しいですからね。
確かに飛行している対象にも弓矢は有効なんですが、躱されたら一転して大ピンチになりますからね。
はっきり言えば、俺がミミリミさん達の立場だったら無視するのが正解だと考えます。
探知の魔法でも使われていない限りは、森の中に身を潜めて遣り過ごした方が確実に危機を回避出来るので。攻撃する理由の方が思い付きません。
しかし、実際にミミリミさん達は攻撃した訳です。
それは、どうしてなのか?
そう教えられていただけで、実戦経験が無いから。
まあ、ハーピア族も他種族との接触を避ける様にして生きてきた訳ですから、知らなくて当然。知っていたら知っている方が気になりますから。
知っていたら攻撃はしないでしょうけどね。
「ミミリミさんの年齢を訊いても?」
「十五歳ですぞ」
「バニット族の中で最年長者は?」
「四十六歳ですぞ」
──お? もしかして女性だけじゃない?
ネーレイア族やモーラ族の様に男女健在で種族を維持出来ている?
そうなんだとしたら、かなり期待出来るかも。
「現在のバニット族の数は?」
「……九十二人ですぞ」
流石に長としては抵抗が有ったのか、間が有った。
それでも逆らえないんですけどね。ごめんなさい。
「一族を維持出来てはいるみたいだけど、この先も問題無く一族の命を繋いでいけそう?」
「……厳しいと思うのですぞ」
「それはどうして?」
「我等、バニット族は三十歳を過ぎると男女共に子供を成す事が出来無くなるのですぞ。それなのに幼い子供が娘ばかりなのですぞ」
「あー……つまり、その娘達が成人した時、パートナーとなる男性が居ないと……」
「そうなのですぞ」
こればっかりは、どうしようもない問題と言えます。意図して子供を産み分けられる訳ではないですからね。男女比が何方等かに偏ってしまえば、その先の種の存続というのは苦しくなりますから。
それはバニット族に限らず、切実な問題です。
──とは言え、疑問に思う事も有ります。
「……バニット族は一夫一妻?」
「……? 勿論ですぞ」
不思議そうに小首を傾げるミミリミさん。
ああ、うん。そうですよね。それが普通ですよね。
俺自身、妻の数が多過ぎて感覚が麻痺してましたか。麻痺しても仕方が無い環境ですもんねぇ……
──とか思っていたら、ミミリミさんに他の女性達が何かを耳打ちしています。
…………ミミリミさんが驚愕し、顔を真っ赤に。
そして、ちょっと涙目で俺を睨み付けてきます。
うん、何を言われたのかなんて訊きません。聞きたく有りませんから。
「に、二言は無いのですぞ! 好きにするのですぞ!」
いやいや、そんな「くっ、殺せっ……」的な。
「据え膳食わぬは……」って囁くな内なる俺。
確かに、今のミミリミさんは可愛いんですけどね!
「まあ、その手の問題はどんな種族にでも有り得るから可笑しくはないんだけど……それだけなのかな?」
「……今、一族の間には原因不明の病が拡がっているのですぞ。その所為で……」
「ああ、罹患者を引き離しているんですね」
「見捨てるつもりは無いが、我等には何もっ……」
言葉を詰まらせ、悔しそうに歯を食い縛る。
うん、ミミリミさんって本当に良い長だと思います。この若さで一族を背負っている訳ですからね。
ああ、勿論、それはローザさん達にも言える事です。だから、皆の事は尊敬していますし、愛しています。
「一族の内訳と罹患者の数を教えて貰える?」
そう訊ね、ミミリミさんは覚悟した様に答えた。
夫婦が十八組、子供が三十人。長老格の女性が五人。ミミリミさん達、未婚者女性が二十一人と。
罹患者は全体で三十四人。一族の三分の一かぁ……
「病状というのは、どんな感じ?」
「発熱・嘔吐・下痢、酷い者では意識を失ったままぞ。そして、そのまま衰弱していっているのですぞ」
……症状から考えると感染する可能性が高そうだな。だから罹患者を隔離しているのは正解だろうね。
勿論、ミミリミさん達としては苦渋の決断だろうけど一族を守るという意味では重要な事です。
情に流されて判断を誤れば一族は滅びますから。
「罹患者で自分で移動出来る者は居る?」
「……比較的、症状が軽い者なら……多分ですぞ」
「判った、有難う」
そう言って安心させる意味でも笑顔を浮かべて彼女の頭を優しく撫でる。
戸惑うミミリミさんの事は一旦、放置して。
側に居るハーピア族の皆に向き直る。
「ミミリミさんに案内して貰って移動が出来る罹患者を連れて戻って来て欲しい」
「それは構いませんが……」
「感染する可能性が無いとは言わないけど、話を聞いた限りでは即座に命を脅かす様な物ではないと思うから、領内にさえ入れば、どうとでも出来ると思うよ」
『──っ!!』
そうでなくても、薬草関係の研究はしているからね。領内にさえ入れば診断は容易です。
判れば、対処する事は難しくは有りません。
「た、助かるのですぞっ?!」
「診てからにはなるけど、助けられる可能性は高いよ」
「伏して御願い致しますぞ! どうか一族の皆を御助け下さいませぞ!」
「今は軽々しい事は言えないけど、出来るだけの事なら遣ってみるから、協力して貰えるかな?」
「勿論ですぞ!」
縛られた状態で器用に土下座をしたり、頭を上げる。ミミリミさん、体幹強いな~。
そんな事を思いながら、皆への説明を考える。
事情は判ったけど、攻撃された事実は確かなので。
「仕方が無いよね」では済ませられませんから。




