狩りの仕方
コーラリア・シアネモスらしきモンスターを倒した、その翌日の事。
領内に入った見知らぬ反応を感知して向かってみたら予想通りに人化しただろう女性が居ました。
はい、久し振りに全裸の美女が。
……え? 毎日妻達のを見ているだろ?
それはそうですが、それとこれとは別です。
妻達は誰一人として人目を憚らずに堂々と裸で居る事なんてしませんからね。
…………訂正します。一人だけ居ました。
「アネモース族のクォーリアと申します。不束者ですが宜しく御願い致します、旦那様」
そう言って三つ指を付いた綺麗な挨拶をされて吃驚。いや、まさか全裸だった相手が……ねぇ?
今はジステラの作った服──和服をモデルにした物を着ています。本人の好みです。
だから、その仕草が余計に様になって見えます。
俺は亭主関白ではないと思いますが、何か新しい俺が目覚めそうな予感がしてしまう位には、です。
さて、そんなクォーリアですが、髪は珊瑚の様な桃色をしていますが、均一ではなくて、白との濃淡が有り、光の当たり方によって更に綺麗に。
眼は鮮血を思わせる赤。アルビナスの紅の眼とは違い明るい色調なのは珊瑚成分が強いからなのかも。確か、宝石珊瑚の中でも高級な物が、そうだった筈。
身長は170程ですが、彼女の身に聳えている双峰は過去最大。いや、最早二つではなく、一つかもしれないとさえ思います。だってほら、山と山との間に有る筈の谷間が谷間ではないんですもん。
嗚呼、一目見ただけで良からぬ妄想をする俺は色欲に塗れているのでしょうね。
「旦那様?」
「此方等こそ、宜しく」
妄想に引っ張られて間が空いた為なのか。或いは俺の邪念を察知したのかは判らないんだけど。
頭を上げ、小首を傾げるクォーリアに笑顔で答える。決して、誤魔化そうした訳では有りません。
新しく村の住人──まあ、俺の妻としてですが──に加わるとなると重要なのは仕事です。
クォーリアに確認した所、以前の姿は皆が言っていたコーラリア・シアネモスの亜種なんだそうです。
俺の予想した通り、毒を扱う術と知識は高いらしく、獲物を麻痺させたりしても後で問題無く食べられる様に自然に分解したり、熱で分解する様に出来るとの事。
ある意味、それを笑顔で言えるクォーリアは恐いな。
俺の【領主】の権限が有る現状では、あまり必要な事ではないのだけれど、将来の事を考えてクォーリアには薬学・薬術の研究をして貰う事にしました。
俺の死後──いや、早ければ老後には子孫達にとって必要となる可能性が高いですからね。それを考えれば、今から始めておいて困るという事は有りませんから。
それはそれとして。
クォーリアの姿には二つの特徴が有ります。
一つは頭に月桂樹の冠の様な、珊瑚の冠が有る事。
見た目はティアラっぽくも有る為、硬いのかと思えば柔らかくて吃驚。ぷにっとしています。
神経が通っているという訳ではないそうで、触ってもクォーリアは何ともないんだとか。
しかし、この冠。小さな珠──種を付けます。
それを地面に落とすと──急成長して巨大な珊瑚に。ただ、能力で生み出す存在の為、加工したりは不可能。残念。もし、この珊瑚が加工可能だったらボロ儲けする事も出来たのにね。
……あー……いや、誰を相手に儲けるのか、か。
今の村の状況だと、宝の持ち腐れかな。
まあ、女性陣は御洒落に使えるから喜ぶでしょうね。商売とかは抜きで。
もう一つは髪です。
元がスライムのミイムの髪もかなり特徴的ですけど、クォーリアの髪も負けてはいません。
いや、勝ち負けや優劣なんて有りませんけど。
クォーリアの髪は見た目は普通ですけど、実は触手を兼ねているそうで自由に操れますし、伸縮も可能。
そして、髪から体液として毒等を出せます。
凄いのが、髪が濡れない事。
クォーリアの毒は体液な訳ですが、即時に気化させて空中に漂わせる事が出来ます。無色・無臭で。
逆に敢えて色や匂いを付けたりも出来るそうです。
はい。暫くはクォーリアは領地外のモンスターの捕獲部隊に決定しました。
クォーリアが居れば楽に生け捕れますからね。
クォーリアは早々に馴染み、翌日には前から居たかの様に皆の中に溶け込んでいる。
そのコミュ力には素直に感心します。
さて、そんなクォーリアの事で一つ。
クォーリアは普段、鼻先に掛かる前髪で顔が隠れる。だから、見た目にも大人しく見えます。
元がモンスターなので弱肉強食な価値観な訳ですが、基本的に動かない生態だったので性格は大人しい。
ただ、エメと同様に一種の残虐性を持っています。
まあ、誰も獲物を前に容赦なんてしませんけどね。
──で、そのクォーリアなんですけど。ヴェールでも被っていたかの様に前髪の奥から姿を現す目許。
潤んだ瞳。熱を帯びた眼差し。赤らんだ表情。
ええ、反則です。
昨夜は初夜だった訳ですが……もう可愛いのなんの。
いつもの様に理性なんて何処かに行きましたとも。
ただ、普段は見えないから、見えた時に感動する。
その特別感や特有の歓喜を再認識した様に思います。
──ああ、言って置きますが、俺に覗きで興奮したりする様な趣味嗜好は有りませんから。
妻達との営み──まあ、コミュニケーション上の一つとしてなら有りですけど。
誰でも構わない、という事は有りませんので。
ああ、それとクォーリアもね、ミイムに次いで身体が軟らかい。ミイムは特別だとしてもクォーリアも凄い。そして、細身なのに全身が弾力性の有る柔軟体だから、肉感さが想像を超えます。
色んな意味で癖になりそうで怖いです。
この世界に遣って来て六ヶ月。180日。
この世界の日付──カレンダーは1ヶ月が30日で、1年が12ヶ月。360日に三ヶ月毎に四節季が1日。そして半年毎に祝祭日が1日の合計366日。
元の世界と変わらないので感覚的には困りません。
──とは言え、違う世界なのも確かです。
ローザさん達を始め、村の住人の殆どが気にせず。
まあ、放浪していたから仕方が無いんですけどね。
俺も【領主】になってから正確に把握出来る様になり意識する様になったので大差は有りませんけど。
何故、急に日付の話をするのか。
それはローザさんの出産予定日が近い為です。
つまり、子供の誕生日を明確にする為です。
実はローザさん達には誕生日という概念が無いので、それを祝うという事もしません。
ああ、勿論、子供が生まれたら御祝いはしますけど。毎年祝う、という事が無い訳です。
──で、俺は考えました。
勿論、最初はちゃんと毎年、御祝いをしよう、と。
しかし、これから子供の数は増えていく一方です。
はっきり言いましょう。全員は無理です。
──と言うか、絶対に被りますからね。そして、毎日誰かの誕生日という事になる未来が見えました。
だって、絶対に一人五人以上は産みますから。
ただ、此処で重要なのは誕生日が被る事ではなくて、その御祝いに出す料理等をどうするのか、です。
所謂、誕生日プレゼントに関しては簡単なんですよ。五歳・十歳・十五歳と区切ってしまえばいいので。
しかし、料理等は難しい。
誕生日用の料理と、誕生日の子供の好きな料理。
それで遣ったとしても連続していれば飽きますから。こればっかりは贅沢ですが、仕方有りません。
そして、もっと重要な事が有ります。
子供達が成長し、俺達に訊いてきた時に困る訳です。だって、遣っていませんから。
先程の話と被りますけど、“十五歳まで”とすれば。
一応は、誤魔化せます。別に誤魔化す必要は無いから本当の事を話せばいいんですけどね。
何にしても、その辺りをどうしようか、と。
活発な意見が飛び交う家族会議の結果、決定。
三ヶ月毎の四節季で、その間に誕生日を迎えた子供達全員を纏めて祝おう、と。
うん、それが一番平和でしょう。
ああ、勿論、個々の誕生日は記録します。御祝いとは関係無く、自分が生まれた日というのは特別なので。
因みに、一部から「子供だけなのですか?」と催促が有りましたが、話し合って納得して貰いました。
貴女達全員を含めると冗談ではなく、毎日が御祝いになってしまいますからね。
そんな事も有りましたが、次のダンジョン探索も既に始まっています。
領地外のケポカ山の範囲を含めた最初と三つ目の領地に挟まれている範囲にダンジョンは無し。
それよりも東側が探索対象になっています。
ユマデェ山の東で、バスィアッシヴュル大山脈の南。二つの延長線上には南北に二つの山が有ります。
北のスーバリ山と、南のオーフュー山。
更に言うと、ユマデェ山側から見ると二つを繋ぐ様に間に山が見えます。二つの山よりも更に東に東西に並ぶ様に山が二つ有ったりしますが、先ずは近い方から。
今、俺達が居るのは二つの山の中間地点になります。起伏の有る草原地帯。農業や畜産業向きです。
当然の様にモンスター達は居ますけど、今の俺達には脅威には成り得ません。美味しく頂くだけです。
……まあ、食べられればなんですけどね。
相手が捕食者でも、必ずしも、美味しいとは限らず、食べられるとも限らない訳です。
それが判った時の悔しさときたら……泣けます。
──ぁ、思い出したら、視界が滲んでくる……
「アイク様ーっ!」
「──ん?」
休憩していると声が聞こえたので顔を向けると別班のハーピア族の妻の一人の姿が見えた。
念話は各種族の長としか出来ませんからね。長であるフェリスさんが一緒ではないと誰かが連絡役に。
領地内なら、妻であれば誰でも可能。領地拡大を図る理由の一つがコレだったりもします。
──なんて事を考えている内に到着。
──と言うか、抱き付いてきた。フェルメさんが遣る所を目撃してから流行っているそうです。
文句を言いながらも腕を広げればフェリスさんもね。まあ、抱き付いて終わりでは有りませんでしたけど。
そんな訳で抱き止めたら軽くキスをします。
ええ、軽くです。人前ですからね。
「何か有った?」
「はい、オーフュー山から南に少し飛んだ先に森が有るのですが、調査の為に入ったら攻撃されました」
「え? 無事──ではあるか。怪我は?」
「有りません。それで襲撃者を捕らえました」
「──ん? モンスターに襲われたんじゃないの?」
「違います。矢を射掛けられましたので」
「──って事は、その森に住んでいる人達?」
そう訊ねると彼女は顔を顰めて黙った。
……ああ、その襲撃者も黙秘している訳ね。納得。
「捕まえた人数は?」
「七人です」
「戦闘になった──いや、攻撃してのは、その七人?」
「はい。周囲にも他には居ませんでした」
「七人、か……」
オルガナ族という前例が有りますからね。
だから、必ずしも一族の現存数が二桁以上であるとは限らない。
寧ろ、放浪していても数を保てていた事が凄い訳で。オルガナ族の様に定住していても数を減らすのだから。如何に生存と存続が難しいのかが判ります。
そういった意味でも人数が全てではないと思う。
寧ろ、気になるのは矢を射てきた、という事実。
この世界のモンスターを狩ろうとすると、矢は消耗が激しい為、主要武器には成り難いと言えます。
威力を出すのも、強度が高い物を作る事も難しい。
魔力を用いるのなら、魔法を使うか、身体強化として用いた方が効果的だし、効率が良い。
それなのに、その襲撃者達は矢を用いている。
それは決して、偶々や有り合わせで作ったといった訳でもない。使い慣れた物である証拠。
つまり、卓越した弓技・弓術を持っているという事。それだけでも接触してみる価値は有ると思う。
俺と一緒に行動していた皆には先に引き上げて貰って彼女に案内して貰い、その森へと向かう事にする。
新しい出逢いと好奇心に胸を弾ませながら。




