礼拝
リィリス、ズルい娘。
いやまあ、悪さをした訳でも、何かを意図した訳でも、問題を起こした訳でも有りません。
はい、ただただ可愛いんです。エロいんです。
だからもう……ねえ?
俺の中の雄が猛ってしまって仕方が無いんです。
本当に……理性って何なんでしょうね。
リィリスが家族に加わって、早6日。
この世界に俺が来てから150日。五ヶ月が経った。
今日、完成した村の神殿にて神奉の祭儀が行われる。
悩んでいた作法ですが、フェリスさんが知っていた為、それに則る形にしました。まあ、多少は村独自な部分等も有りますけど。こればっかりは複数の種族が共存している以上は仕方が有りません。其々の文化や歴史を重んじれば無視する事は出来ませんから。
……形にする過程で揉めた事は夫婦の秘密です。
外鳥居の両脇には村の住民が立ち並ぶ。
その間を”シャクアキ“という花木の枝を三本、団扇の様に束ねた物を手にした俺が参道を進む。
宮司の様な服装の上に金糸・銀糸を使った法衣を着て。かなり抵抗したけど押し切られた。多数決では勝てない。多数決だけは狡いと思う。
そんな俺の後ろにローザさん達、各種族の長が続く。
その手には異なる供物。
この供物にも色々と意味が有り、種族に深く関わる為、議論は白熱した事は言うまでもない。
そんな俺達の行進を盛り上げるのが音楽。
日本の雅楽に近い楽器が多く、音色もそれっぽい。
実力により選抜された奏者が特別席から奏でる。
外鳥居を潜り、石段を上がり、内鳥居の前まで進む。
内鳥居の手前で一旦停止。
その間に住民達が外鳥居を潜り、俺達を囲む様にして、コの字を作る様に並ぶ。
村の住民の数が増えたら、此処は最初から分かれる形で参列する事になる。今は人数が少ないからの措置らしい。
形が整うと音楽が変化。俺達が内鳥居を潜る。
神殿の前に進み、待機していた8人の男女。
神殿の扉の前を守護する、という大役。
更に、その内の二人が扉を開く重役。
その一人がフェルメなのは不安だったけど今は考えず、俺達も集中する。不敬ですからね。
神殿の中に入り、女神像の前の祭壇の前で俺は止まると恭しく二度頭を下げ、手にしているシャクアキの束を左右へと振って葉音を鳴らす。
それを続け、ローザさん達が順に供物を祭壇に捧げる。俺の左から進み出て一礼。祭壇に置き、一礼。俺の右から後ろに戻り、元の位置に並ぶ。
この時、背面を見せない様に後ろ歩きになるのが大変。まあ、皆、軽々と遣っていますけどね。
全ての供物を捧げ終わり、俺が感謝の言葉を唱える。
「我等の現在に至る縁に感謝を」
そう言うと、俺以外の皆が手を打ち合わせる。
綺麗に揃うのは練習の賜物。タイミングがシビアだから練習の時でも凄いと思っています。
最後に俺が持っていたシャクアキの束を祭壇中央に有る花瓶に差したら、俺が手を二回打つ。
それを合図に、全員が瞑目し、祈祷。
最初に俺が動き、再び二回、手を打つ。
全員が顔を上げ、音楽隊の一人が叩く銅鑼の音を合図に全員で一礼をして終了となった。
「これと言った実感が有る訳ではないが、不思議なもので胸の裡がスッキリとした様に感じるな」
「まあ、女神様に何かを求める訳でもないしね」
「そうだな」
ローザさんと話しながら、神殿に入り、祈り、出て来る皆の様子を眺める。
祭儀が終われば、個々の礼拝の時間。長い者・短い者と差は有るけれど、其処は考え方の違いだから仕方が無い。だから、誰も違いに文句や指摘はしない。ちゃんと事前に俺から「押し付けは違うからね」と忠告。
信仰心に差が有ろうとも問題では有りませんから。
問題が有るなら、誰も遣り方を知らないなんて事なんか有る筈が有りませんからね。
つまり、女神様は見守るだけ。
だから、願い事をするのではなく、感謝を奉納する。
この世界の信仰は、そういう考え方でいいみたいです。ある意味では、正しく理解している証拠なんでしょうね。女神様──神々は世界には不干渉である、と。
それ故に自分達の事は自分達で考えて決め、切り開き、歩むしかないのだと。そう物語っている訳なので。
礼拝が終われば、始まるのは宴。
来客の類いが有る訳でもない為、親戚の集まりみたいな気安さなので気が楽で良いです。
……いや、一応は神聖な……はい、そうですね。
夫婦の営みも神聖な事です。
その後の事は……語る様な事では有りませんよね。
翌日。神殿が完成し、祭儀も終了。
だからなのか、今朝から礼拝に訪れる人も多い。
昨日の様な形ではなく、毎日、或いは定期的に礼拝する簡易的な遣り方で、ですが。
御利益を求めて、ではないので良いと思います。
因みに、俺と妻の誰かしらは可能な限り、毎朝、御供と礼拝を行う事にしています。
今日はフェリスさんとリィリスが一緒でした。
「今更なんだけど、よく礼拝関係の事を知ってたね」
「曾て、ハーピア族は勇者様達から”天使“という存在と言われていました。その為なのか、そういった祭儀の事に関する知識を纏めた記憶を代々の長が受け継いでいます。私も先代であった父が亡くなった際に受け継ぎました」
「へぇ~……それって能力的なものなの?」
「いいえ、正確には一族の長専用の装備品になります」
「装備品?」
「装備品とは言っても目には見えません。長の死後に継承されるか、生前に継承するのかの違いは有りますが、その実物を目にする事は有りません。手にする・身に付けると言うよりも、自分の中に宿すという表現が近いと言えるのでしょうね。ですから、その存在を長以外は知りません」
「……それ、俺が聞いても良かったの?」
「アイク様には隠せないと思いますから」
「……それもそうか」
何かの際に【領主】権限で知る可能性は有り得るから、それを考えれば先に話してしまっても同じ事でしょうね。気付いたら訊くでしょうから。
それはそれとして、装備品にも色々と有るものですね。まあ、俺が知っている物なんて本の僅かでしょうけど。
さて、新しい住民が増えると考えるのが仕事です。
まあ、第一は俺との子供を成す事になるんですけどね。それはそれ、これはこれなので。
ハーピア族は飛行能力を活かした偵察や探索が中心に。巡回は領地内でだと意味が無いので、狩猟班かダンジョン探索班に同行して、という事になります。
それ以外だと…………え~と、何が出来ますか?
「それなりに力も有りますから、通常であれば空輸という重要な役割を担うのかもしれませんが……」
「あー……村だと、その必要は殆ど無いもんね」
「はい。ですから、今の所は…………ぁっ……」
「ん? 何か気になる事が有った?」
「え~と……少々言い難い事なのですが……」
「恥ずかしい事?」
「いいえ、そういった類いの事では……」
「それなら話して貰える? 判断は聞いてからするから」
「判りました」
躊躇っていたけれど、そう言って覚悟を決めたかの様な表情をするフェリスさん。
個人的には、あの謝罪方法の方が凄いと思いますけど。はい、そんな余計な事は言いません。
「ハーピア族には鳥と同じ様に換羽期が有ります。大体、月に一度といった所ですが」
「あー……手入れをしても劣化は避けられないから……」
「はい。髪や体毛と同じですね」
ハーピア族も鳥も翼──羽根の状態が生命線。それなら生え換わりが有るのも当然と言えば当然の事でしょう。
寧ろ、その必要性が無い方が不自然ですからね。
「その抜け落ちた羽根なのですが、軸を取り除けば良質な羽毛として再利用する事が出来ます。ジステラさんなら、布団等に加工出来るのではないかと」
「……月一で、一人分は何れ位に?」
「個人差や体調、月毎の差も有りますが……」
そう言って、フェリスさんが考え込む。凡その平均値を計算してくれているのでしょう。
落ち着いている様に見えても、俺は期待しています。
今の布団でも十分に優秀なんですけど、気温が下がって冷え込む事を考えると……備えたい。
【領主】権限で領主の気候も操作出来ますが、コスパが悪過ぎるんですよね~。
だから、自然には逆らいたくは有りません。それよりも季節や天候・気候に合わせて生活する方が楽ですから。
あと、日本人だから四季を感じられる方が安心します。そういう環境で生まれ育ったので。
「……凡そですが、野菜を洗う笊に一杯分程かと」
「それは軸を取り除く前の量で?」
「はい、そうなります」
軸を取り除いて……それが32人分。
月一で、羽毛布団が1枚作れるか、どうかか。
ハーピア族は全員が妻なので俺達夫婦、生まれてくる子供達の為の物を優先するとしても……贅沢品です。
しかし、存在を知ってしまったら……ねえ?
「生え換わりのタイミングは個人個人で?」
「差は有りますが、大体は同じです」
「それなら暫くの間は俺達夫婦以外の村人には羽根の事は話さない様にね。数が作れないから」
「畏まりました」
別に独占したい訳ではないけれど。
多分、最低でも10年位は経たないと俺達家族以外には回せないでしょうから。
勿論、そうなる前に別の羽毛の確保を…………あ。
「アイク様?」
急に俺が顔を手で覆い俯いたものだからフェリスさんが心配するのは当然の事だと言える。
ただ、今の会話が出るまで、その考えを思い浮かべられなかった自分が情けないだけです。
いや、色ボケしていただけかなぁ……
「大丈夫。それよりも、ハーピア族とリィリスに頼みたい事が見付かったよ」
「それは?」
「この近くには少ない鳥のモンスターの確保」
「……確保という事は生け捕りですか」
「領地にさえ連れて来られれば飼育も可能になるから」
「食肉用と羽毛の採取用という訳ですか」
「そういう事。勿論、今直ぐにじゃなくて、今探しているダンジョンを攻略してからね」
「一族の曾ての力が回帰してから、ですね」
うん、念には念を入れてね。
急務って事でもない……訳でもないけど。
取り敢えず、ダンジョンを早く見付けたいなぁ……




