ですよね~
この世界の基準は脳き──ごほんっ……弱肉強食。
その為、強い者に憧れ、従い、求める。
はい、フェリスさん達も貪欲です。
あと、ちょっとした出来心からフェルメに例の謝罪用のポーズをさせて攻めてみたら……他の皆も熱望。
伝統は何処に? ……過去に囚われてはならない?
深くは考えない方が良いという事ですね。
そんなこんなで新しい家族が増えて早五日。
ハーピア族の皆も村での定住生活に馴染んできました。放浪しているからこそ、順応力は高いんでしょうね。
さて、ハーピア族ですが、背中の翼が地味に邪魔です。そして、納得。畳んでいても幅を取りますから、街中だと色々と不便でしょう。
また、本人の意思とは関係無く、吃驚したりすると翼を反射的に広げてしまいます。
コレ、街中でだと他人にも物的にも被害が出ますよね。どうしてハーピア族が定住せずに放浪しているのか判った様な気がします。
ああ、俺は気にしてませんよ。最初は驚きましたけど、直ぐになれましたから。
……それだけの人数と回数ですからね……
ユイノ村は広いので、仕事中・作業中は要注意。
取り敢えず、それで今の所は問題無し。
あとは、ハーピア族の皆の慣れ具合次第でしょう。
……所で、フェリスさん。
何故、ハーピア族は定住しなかったんですか?
飛行能力を活かせば、他種族が近付けない高い場所等に自分達だけの村を作れたと思いますけど?
「それは私達も一度は皆が考えた事が有ります。ですが、その……私達には建築技術が有りませんから……」
「……? 村の家程ではないにしても、木を伐って組み、簡易的な屋根を付ければ居住は可能でしょう?」
「御存知の通り、私達は翼を動かして飛びます。風魔法を離陸時の補助としても用いますが……風圧が有ります」
「あー……」
そう言われてみて、納得。
村の建物は頑丈だから問題無いけど、ハーピア族が飛ぶ時には確かに凄い風圧が生じる。
一瞬の事だけど……離れていないと被害が出る。
勿論、居住地から離れた所で離着陸をすれば良いだけの話だと思うかもしれないけど、反射的な動きでも生じる。生じてしまうから、建築技術の無いハーピア族に独力での定住というのは困難だった。
「それに、建築技術を学び、身に付けようにも目立つ為、どうしても色々と問題が生じてしまいます」
「珍しいし、飛行能力は有用だもんね」
「はい。過去には大規模なハーピア族狩りが亡国によって実行されたという話も残っています」
「その国って、ハーピア族が滅ぼしたの?」
「いいえ。ハーピア族狩りに意識を向けた事で出来た隙を他国に突かれて滅びました。恨まれ、憎まれ、嫌われた国だったそうですから」
「利己的な理由でハーピア族を狩ろうとした国なんだから当然と言えば当然なのか」
そして、それはヒュームの国なんだろうな。
フェリスさんが明言を避けたから追及はしませんけど。察しは付きます。だって、ヒュームだもの。
「あーっ! 姉様だけアイク様と一緒なんて狡いっ!」
「……はぁ……遊んでいる訳では有りませんよ?」
「一緒に居られるだけで羨ましいもん!」
「そう思うのでしたら、先ずは自分の仕事を──」
俺とフェリスさんが一緒に居るのを見て翔け寄り、腕を抱き締める様に飛び付いてくるフェルメ。
関係を持ったから呼び方を変えた訳では有りません。
フェリスさんはローザさんと同じ17歳で背も近いし、姉属性という意味では似ていますけど、より真面目にした委員長や生徒会長っぽい感じです。
その分、貪欲さがギャップ萌えを生みます。
因みに、ローザさんを例えるなら運動部のキャプテン。同じ真面目という言葉で表しても違いは有ります。
話を戻して。
フェルメは14歳。年下。
だから、本人も“さん”付けは嫌がったんです。
そして、そう呼び始めただけで馴染むから凄いと思う。後輩力と言うのか、或いは妹力なのか。
兎に角、呼び方一つでポジションを確定させた訳です。本人の性格も含めた順応力の高さが故ですけどね。
身長は年齢と同じで、フェリスさんが俺よりも高くて、フェルメは低いので違和感は有りません。
また、姉妹だから顔立ちも似ています。
ただ、フェリスさんは大人っぽく、フェルメは見た目も子供っぽい。本人には言えませんけど。
綺麗なお姉さんと、可愛い妹ちゃん。
そう言い表すのがピッタリな二人です。
ああ、それから、ハーピア族は飛行しますが、高い所を好むという訳ではないそうです。
山や崖の上、木の上を好んでいる、という事は無くて、安全なら地面の上が良いとの事。
先祖が鳥っぽいからと言っても、人なのは俺達と同じ。当然と言えば当然ですが、自分の足で立てる状況が良いと思うのは自然な事なんでしょうね。
あと、卵生という事も有りません。
勿論、これは確認する際には、しっかりと考えて言葉を選びました。ハーピア族のアイデンティティーに関わる事ですからね。気を付けるのは当然の事です。
まあ、種族の存続の為、という建前が有りますからね。其処まで難しい事では有りません。間違わなければ。
ああ、あと、産まれたばかりの赤ん坊には翼は無いんだそうです。
1歳に成った辺りから、翼が形成され始めるんだとか。生命の神秘だと思います。
──と、考えていたら、此方等に向かって飛行して来る反応が一つ。
まあ、予想していた展開なので驚きはしません。
「私、スクビア族のリィリスと申します」
そう言って身に付けた葉っぱのスカートを両手で掴み、軽く持ち上げながら膝を曲げ、頭を下げる。
所謂、貴族女性っぽい礼儀作法での挨拶。
元が蝙蝠虎とは思えない優雅さ。
多分、村の誰よりも綺麗な所作だと思う。
思うんだけど……それ以上にエロい。
格好が、という意味ではなくて、雰囲気が。
礼儀正しい挨拶の筈なのに、男を惑わす色気が凄い。
実際に見た訳ではないんですけど、娼婦や遊女の様な、現代的に考えるのなら……キャバ嬢?
まあ、そんな感じの魔性さが溢れています。
「……御主人様?」
「ああ、ごめ──御主人様?」
「はい、貴男が私の御主人様です」
そう言い切って微笑むリィリス。
…………どうしよう。語尾にハートが見える。
眼にハートが浮かんでいる様な感じは普段から見ていて馴れていますけど……
いやまあ、そういう時には語尾にも感じますが。
普段──平時で、素面の状態で、というのは初めての事だったりしますから……戸惑います。
しかし、その一方では思わず喉を鳴らしてしまいそうになっている自分も居ます。
リィリス……恐ろしい娘……
……ん? リィリス…………夢魔?
あ、スクビア族って、そういう……
あー……だからかぁ……それはエロい訳です。
俺よりも少しだけ低い身長は必然的に上目遣いになり、しかし、小柄過ぎない為、凭れ掛かると御互いの吐息まで感じ易い位置に頭が来る。
山吹色の髪は毛先が黒くなる不思議仕様。一体、どんなメカニズムなのか。まあ、考えても解りませんけど。
猫っ毛──ストレートながらもワイルド感の有る毛質がボーイッシュな印象を与え、女性らしさを際立たせる。
深紅の眼は見詰めているだけで吸い込まれそうになる。唇の赤さとも相俟って妖しさを高めている様に思う。
飛行して来たので、背中には翼が有る。蝙蝠の翼。
ハーピア族とは違い、収納──顕現と解除が任意で可能という事なので、始祖としての能力なのかも。
そうだとすればハーピア族も曾ては同じ様に出来ていた可能性が高いですし、俺が次のダンジョンを攻略すれば、フェリスさんの先祖返りと共に可能になるのかも。
期待させて外れてしまったら落胆するので言いませんが可能性は有るのではないかと思います。
そして、ハーピア族の尾羽の様に生えているのが蜥蜴の尻尾の様な質感の先端がハート形の尻尾。
……うん、コレを先に見ていたら判ったのになぁ……
尤も、それよりも気になる事が。
「リィリスは“魔眼”を持ってるの?」
「御気付きでしたか。流石です、御主人様」
ちょっと擽ったかった筈なのに、もう既にリィリスから御主人様と呼ばれても違和感を感じなくなっている自分が怖い。これもリィリスの能力なのだろうか?
──なんていう馬鹿な思考を胸中で苦笑しながら破棄。そんな訳無いでしょうから。
まあ、それはそれとして。
夢魔の魔眼となると“魅了”が最有力でしょうね。
次点は催眠や睡眠。広く見れば幻惑や混乱、精神干渉系といった所ですかね。
どの程度の効果なのか。異性にのみなのか、同性にでも効果が有るのか。人以外にも効果が有るのか等々。
気になる事は色々有りますけど──
「“停止”の魔眼になります」
──全然違っていました。
いやまあ、そうですよね。飽く迄も異世界のイメージがそうだというだけで、この世界でも同じとは限りません。
抑として、スクビア族は夢魔という訳ではないですし、リィリスがそう言った訳でもないですからね。
ええ、俺の勝手な印象による思い込みでした。
「その魔眼は一度見たら効果の対象になるの?」
「いいえ、魔眼の視界に捉えていれば、です。視界にさえ入っていれば半永久的に有効です」
「停止というのは、どの程度まで?」
「そうですね……表面的な拘束だと思って頂ければ、解り易いのではないかと思います」
「──という事は動く事は出来無いけど、生命活動や思考といった内側的な事にまでは及ばない?」
「はい、その通りです」
視界に捕捉する事が条件とは言え、有用です。
飛行能力を有するリィリスにとっては動きを止めれば、一気に距離を詰めて仕留める事も容易い筈ですからね。
狩りの能力としては十分に優秀だと言えます。……ん?
「その魔眼は以前から?」
「はい」
「俺やハーピア族に対して使わなかったのは?」
「御恥ずかしながら、以前の姿の私は視力が弱かったので近距離でなければ使えませんでした」
「それって……魔眼の視力と、リィリス自身の視力が連動しているって事?」
「そういう事になります。ですから、今はかなり遠くまで有効範囲になっています。人の眼というのは、こんなにも素晴らしいものなのですね」
そう言って、うっとりとする様に微笑むリィリス。
あー……これ、暫くは単独行動は禁止でしょうね。
一歩間違うとクラッシャーになります。
まあ、リィリスに俺以外を求める気は無いとは思うので大きな影響や被害は無いでしょうけど。小さい事なら時々起きてしまうかもしれません。
何しろ、自覚無き魔性ですからね。
マリアナさんとスィンから両種族の夫婦に注意する様に伝えて貰う事にしましょう。こっそりとです。
リィリスに悪気は有りませんからね。
「…………ん?」
ふと、悪気は無い、という事が引っ掛かった。
いや、リィリスに悪気は無いとは思いますけど。
………………あー……魔眼の使い方か。
何が引っ掛かったのか、判りました。
リィリスの魔眼って使い方次第では一種の拘束・緊縛的プレイが出来る訳で……それに気付かれたら、リィリスを唆して遣りそうな面子が数人。
まあ、【領主】の権限で無効化は出来ますけど……
……あれ? もしかして、リィリスを妻にしたら、俺も使える様になる?
遣られたら遣り返す。無効化して、一方的に。
……どうしよう。ちょっとばかり、それを遣ってみたくなってきました。
本当、人の欲って尽きない物ですね。
「因みに、ハーピア族を襲っていた理由は自分の縄張りに侵入されたから?」
「はい、あの島を中心にして見渡せる範囲内は私の縄張りとして長く主張し、守ってきましたので」
「そうとは知らず、申し訳有りませんでした」
「そのお陰で御主人様に出逢えましたから、結果としては良かったと言えます。ですから、御気に為さらず」
「有難う御座います。一族を代表して感謝致します」
エロいのに気高い。
他者の過ちを赦す姿は正しく貴き者だと言えます。
……どうしても、そのエロさは消えませんけどね。
「それはハーピア族が空を飛んでいたから? 地上や海上だったら気にしなかった?」
「……そうですね。海上を進む船を襲ったりはしません」
「地上は……島に上陸したら流石に迎撃するか……」
「その様な者は滅多に居ませんが……」
そう言いながら、リィリスがローザさんを見た。
思わず、小首を傾げるローザさん。意味不明──って、ああ、そうか。
「過去にオルガナ族が上陸した事が?」
「はい。随分と昔の事ですが。彼女達は強かったですね。何とか追い払う事が出来た相手でしたから」
「曾ては一族はそれ程までに……」
「あー……多分、それはリィリスがまだ……」
「ええ、未熟だった為です。まだ巣立ちを迎え、あの島に住み着いたばかりでしたから」
「そうだったのか」
「私の記憶の中での比較にはなりますが彼女達と比べても今の貴女達は気配だけで勝っています。実際に手合わせをしてみれば更に明確に判ると思います」
「そうか。それは楽しみだ」
そう言って笑い合うローザさんとリィリス。
他意は無いし、敵意も無いんだけど……う~ん。
やっぱり、この世界は弱肉強食なんですね。




