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ぱわーげーむ

「いやはや、勝手なことをされると困りますなぁ」


 その時を待つ私の耳に、場の空気を読まぬしらじらしささえ帯びた男の声が聞こえた。


「何者だっ」


 兵士の一人が厳しい声で誰何するのを、ユリア姫がすっと白魚のような手をあげて制する。


「レジーナの外交官殿が、何ゆえかような場所に? 本日は、別のおもてなしを準備していたはずですが」


 硬質な声音は、緊張感を孕んでいた。

 私は空気が変わった事に気づき、緩慢に面を上げ、ぎょっとした。

 枝垂れる羽をさした帽子を被り、びらびらした原色の派手で奇抜な格好の顎鬚の男。

 彼はにやにやと笑みを浮かべて、扇で己をあおいでいた。


「んっんー、本日は気分がのらなくて、辞退させてもらいましたんですわ」

「貴様ぁっ その無礼なものいいっ」


 激怒する兵士を、またもやユリア姫が視線で止めさせる。


「ご気分が優れぬ様子、兵に城まで送らせましょう」

「はっはっ、それには及びません。こおおんな楽しいイベント、我が国に無断でぇ、勝手にぃ、店じまいされるのを見過ごすほど気分の優れぬことはありませんからなぁ。いやあ、殿下。これは協定違反ですよ。いけませんねぇ」


 語尾の延ばし方はとにかく人の神経を逆なでしようとする意図以外汲めない。

 しかし、ユリア姫は、まるで不思議なことに、この男の怒りを買うことを恐れるかのように見えた。

 そう、言質をとられぬように、言葉を慎重に選んでいるかのような。


「我が国に災いの撒き散らされる前に、排除しようとしただけのこと。使者殿のお目汚しをすることは、我らも本意ではありません。く、安全な城までお送りしましょうほどに」


 ユリア姫の返事は、おそらく返事になっていなかった。

 男が突いた部分に、何の回答もしておらず、ただ誤魔化そうとして失敗していた。

 だからだろうか、にやつく男の顔がぞっとするような悪意で歪んだのは。


「おやおや、ファーデルラントの聖なる巫女姫殿下、あたしの言ってることわっかりませんかねぇっ 

 協定違反だって申し上げたんですよおおっ 

 『盾』の優先権は、我が国にとの約束でしたよねえ!? 

 こんなにはやくことを推し進めるとは意外でしたが、なーに勝手に始末してくれようとしちゃっているのか、あたしには手ひどい裏切り行為に思えるんですよおおおっ 

 あたしは、このことをもって我が敬愛する女王陛下にお伝えしたってかまやしないんですよお! 

 この弱小、おっと口が過ぎました、この低地の国が、かの野蛮なる獣人の国イスパニアに蹂躙されるのは忍びないですがあっ 我が国の援助を打ち切ってもかまいませんということですよねえ」


 男の激しい語調に、ユリア姫は、私が見ても分かる『愛想笑い』を浮かべた。


「使者殿、お心静めていただきたい。

 我らも本意ではなかったと申し上げました。

 現場における自己防衛です。放置すれば、我が国に損害があると判断し、排除しようとしただけです。異界人をお引渡しすることに問題はありません。

 ただ、貴方がたに、危害が及ばぬとは限りませんのよ。私は、それを心配しているのです」

「はっはあ、いやあ、殿下の誠意、しかと受け取りました! 

 無論、ご心配召されるな。妖精種の薔薇、我が女王陛下に殿下の誠意、しかと伝えましょう! 

 我らとて、貴国はイスパニアやくそったれなブルゴーヌとの防衛の要、ぜひともよき友人関係でありたいものです。

 では、そこの異界人の身柄、我らの保護下にこれより置くということで、異論はございませんなあ?」


 ユリア姫の拳が、白くきつく握り締められているのを、私は、かなりはっきりと見ることができた。


「ええ。どうぞお引取りくださいませ」

「いやはは、では遠慮なく。ああ、そうそう。【養殖】に失敗した以上は、【天然】の対応でお忙しいことでしょうな。

 まあ、残りの異界人も、当初見越した余力はもはや皆無でしょうなあ! いやはや、がんばってください。応援しておりますよ。

 うんうん、やはり、大陸ルサーカの国力は、均等にするべきですな。

 一国が、必要以上にっ 異界の戦力を集中することは望ましくなあいっ と思うんですよお。

 ま、見えざる均衡装置ってやつですな。ははっ これぞ神の思し召しってところですわ」


 まあ、我らの神とお、イスパニアの神は別物かもしれませんがなあっ ははははは!!! と男は身をよじって大笑いする。

 硬く微笑を浮かべるとユリア姫の指先は、恐ろしいまでに白い。

 どれほどの力で握り締めているのか。

 そして、彼らの話題の当事者であるところの私は、完全に置いてけぼりになっていた。

 だが、分からないでは済まされない。

 情報を、とにかく整理して、必死に食らいつかねばならないと、それだけは私にも分かっていた。


 レジーナ? この男が外交官を勤める国? 妖精種の女王?

 このファーデルラントという国とは協定関係? でも、多分、ユリア姫の対応を見ていると、レジーナの方が強い。

 レジーナがファーデルラントを援助している、と先ほど確か聞いた。

 援助を打ち切られることを恐れているの?

 なぜ援助が必要なの? 敵国に対して? イスパニアという国? ブルゴーヌ?

 戦力の一極集中が望ましくないと、男は揶揄した。

 異界人……八王子夜音たちではなく、代わりに私を引き取ると、いやむしろ勝手に殺そうとしたことを責めて、その所有権を主張した?

 分からない。

 分からなくても、覚えておかなければ。

 風向きは変わった。

 それだけは分かる。

 

 

 そう、これは。


 ――潜伏する異界人、ルートなのだから。


  


 




  






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