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クロスワールドーー48歳のサバイバル馬鹿が異世界に放り込まれた結果、まず飯を作り始めるーー  作者: こっちのあっきー


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リディア王女の帰還

アルカディアは、少しずつ、しかし確実にその姿を変え始めていた。


 かつては草原と荒れた大地が広がるばかりだった場所に、木材を組んだ住居が並び、土を踏み固めた道が伸びている。朝になれば家々から煙が立ち上り、畑では人々が声を掛け合いながら働いていた。小さな集落に過ぎなかったアルカディアは、今や多くの人々が暮らし、明日を思い描ける街へと変わりつつあった。


 そして、食糧事情も大きく変わっていた。


 魔物の家畜化に成功したことで、牛、豚、鶏が揃い、卵も安定して手に入るようになった。家畜の鳴き声が響く牧場には、以前なら考えられなかったほどの活気が満ちている。


 さらに魚の供給も確保されていた。水揚げされた魚が市場に並ぶたび、人々の顔には安堵の色が浮かんだ。


 これまでならば、人が増えれば食糧の問題が必ずついて回った。


 だが今のアルカディアには、それを支えるだけの食糧生産が、少しずつ整い始めていた。食卓に並ぶ料理の数が増え、子供たちの笑い声が街のあちこちから聞こえる。


 その光景は、ここが確かに生き延びるための場所から、暮らしを築くための場所へ変わりつつあることを示していた。


 現在、アルカディアには人族がおよそ五百人。


 そしてエルフが五百人。


 新たに移り住んだ猫耳族も五百人。


 合わせて、およそ千五百人。


 種族の異なる人々が同じ道を歩き、同じ市場で買い物をし、同じ未来について語り合っている。


 まだ互いの距離を測るような視線も残っていたが、日々の暮らしを重ねるうちに、その間には少しずつ新しい繋がりが生まれていた。


 だが、アルカディアの人族はこれで終わりではない。


 グリーンゲートから少しずつ移住してくる者たちがおり、今後は人族だけで千人規模まで増えていくことになる。


 その頃、迷いの森に面したグリーンゲートでも、街の姿は大きく変わっていた。


 コランドはノトスからの移民を受け入れ続け、街はすでに千人規模にまで膨れ上がっている。


 かつては迷いの森の入口に近い小さな街に過ぎなかった場所に、今では新しい家々が次々と建ち、道には荷車が行き交い、職人たちの槌音が絶え間なく響いていた。


 さらに五百人ほどの移住も決まっていた。


 そのため、グリーンゲートでは街の拡張が急ピッチで進められていた。


 朝日が昇る前から人々は働き始め、日が沈んだ後も、松明の明かりの下で建設作業が続けられている。


 疲労に顔を曇らせながらも、そこにいる者たちの目には、かつての絶望ではなく、間に合うかもしれないという希望が宿っていた。


 まだ誰も知らない。


 その突貫工事が、後に大きな意味を持つことを。


 そして、ノトスでも同じように、人の流れが始まっていた。


 リディア王女がノトスを出てから、およそ三ヶ月。


 王都からノトスまでの一ヶ月。


 ノトスでの視察に一ヶ月。


 そして、ノトスから王都へ戻るまでの一ヶ月。


 長い旅の中で、リディアはただ帰っているだけではなかった。


 ノトスから提供された食糧を道中の人々へ配給しながら、ノトスで何が起きているのかを伝えていた。


 彼女の一行が村に姿を現すたび、飢えに疲れた人々が集まり、配られる袋を見つめていた。


 疑いと期待が入り混じった視線を受けながら、リディアは一人ひとりに言葉をかけた。


 農地は回復し始めている。


 食糧の供給も安定しつつある。


 そして、ノトスでは移民を受け入れている。


 グリーンゲートという新たな街も存在し、そこでも人を受け入れている。


 最初は誰もが半信半疑だった。


 長く続いた飢えと不安は、人々から簡単に希望を信じる心を奪っていた。


 どれほど立派な話を聞かされても、明日食べるものがなければ、それは夢物語に過ぎない。


 しかし、実際に配給される食糧を目にすれば、話は変わる。


 袋の中にある穀物。


 新鮮な野菜。


 魚や肉。


 それらを手にした人々は、震える指で食糧を抱え、何度も確かめるように見つめた。


 やがて、泣き出す者がいた。


 子供に食べさせることができると、胸を撫で下ろす者もいた。


 食べ物がある。


 人が生きていける場所がある。


 そして、そこで暮らすことができる。


 その噂は、人から人へと伝わっていった。


 ノトスだけではない。


 周辺の街や村にも、少しずつその話が広がっていく。


 安定した暮らしを求める者。


 飢えから逃れたい者。


 新しい土地でやり直したい者。


 家族を守るため、故郷を離れる決意をした者。


 そんな人々が、少しずつノトスとグリーンゲートへ向かい始めた。


 最初は数人だった旅人の列が、やがて十人、百人と増えていく。


 荷物を背負い、幼子の手を引き、わずかな財産を荷車に積んだ人々が、希望だけを頼りに街道を進んでいった。


 そして……


 リディアが王都へ到着する頃には、ノトスとグリーンゲートへ向かう移民は、合わせておよそ一万人にまで膨れ上がっていた。


 ノトスは、およそ四千人規模へ。


 残る六千人は、グリーンゲートとアルカディアへ向かうことになる。


 街道を埋め尽くす人々の列を見れば、その数が決して誇張ではないことが分かる。


 遠くから眺めれば、荷車の列は地平線まで続き、夕暮れの中に無数の灯りが揺れていた。


 グリーンゲートが急ピッチで街を拡張していた理由。


 ノトスが受け入れ態勢を整えていた理由。


 そして、アルカディアが静かに人々を受け入れる準備を進めていた理由。


 それらが、ここで初めて実を結ぶ。


 だが、この時点でリディアはアルカディアの存在をまだ知らない。


 彼女が知っているのは、ノトスとグリーンゲート。


 そして、ノトスを立て直すきっかけとなった農業技術だった。


 やがて……


 リディア王女は王都へと辿り着いた

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