アルカディア牧場
群れを率いて森の外まで出た。
今回はグリーンゲートの施設が整うまで、新設したアルカディア側の牛舎に連れてきた。グリーンゲート側は魔物が出るからだ。
この群れは500頭程の群れだった。以前より豚舎と鶏舎を増やす計画が元々あったこともあり、設備が整うのが早かった。
アルカディアの牧場と牛舎は河原の公園跡地を利用して作られた。何よりガードレールが道路との間にはじめから境界を作っていたのを利用して区切ることで、簡単に牧場を作ることが出来たのだった。
計画はこうだった。山から伸びる川沿いに走る道路横の河原を土手から川まで柵で区切って行く。
柵を四本作るだけで広大な牧場を複数個確保出来ると言うことになる。
横幅は川から道路の有る土手まで約2km、縦幅は5km。これを柵で区切る事で、1000万㎡の牧場を三つ確保出来た。三つの牧場の一つを使っている間に、外の二つの牧場を休ませる事で、半年から一年で牧草が再生し、堆肥は肥料になる。循環型牧場である。東京ドーム約214個分の広大な牧場を三つ作る事が出来ていた。
ここには既に豚とニワトリも放牧されている。
流れの早い深い川が有ることで水場も作りやすい。
牧場に到着したりょうたちは、群れの中の種類分けをしっかりとした。群れを率いているのはワイルドカウ100頭だった。ワイルドカウを最初の牛舎に入れた。一番に多かったのがミートカウで約250頭、一番大きな牛舎に入れた。残り150頭がミルクカウだ。
「やったぞ!これで乳製品も作れるぞ!」
りょうは両手を握りしめ喜んだ後、タントの頭をガシガシと撫でて抱き上げ肩に乗せた。肩車である。
放牧にはアルカディアの住人が集まり見学している。
「牧場を作ってくれたみんな!今回の捕獲に関わってくれたみんな!本当にありがとう!これでアルカディアは何歩も先に進める。いやもう一足飛びにかなり先に進んだ。これもここにいるみんなのお陰だ!そして今回の捕獲大作戦を成功に導いたタントに大きな拍手を!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおおお!」」」」」」
大歓声と拍手が一斉にタントに降りかかる。
「お、おれ、そんな、そこまで…」
照れながら困惑するタントを肩車して御披露目しながら歩くりょう。
「今日は河原でバーベキュー大会だ!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおおお!」」」」」」
更に歓声がおこり響き渡る。
前回結界にぶつかって回収したミートカウを2頭、バーベキュー用に出してあげよう。
「ぶもぉーーーーん」
ミルクカウも大きな鳴き声をあげている。
「そうか、そうか、お前も嬉しいのか」
上機嫌なりょうは鳴いているミルクカウの方に振り向く………
そこにはミルクカウの乳を直接ちゅうちゅう吸っているルシェの姿が視界に映っていた。
ちゅうちゅう、ちゅうちゅう!
「うまいのじゃ!うまいのじゃ!」
ちゅうちゅう、ちゅうちゅう!
「ぶもぉーーーーん」
以前ヤギにもしていたな………大きな牛の乳に吸い付いてぶら下がりミルクまみれになっている最強種ホーリードラゴン…ルシェ。
かなりシュールな光景が目に焼き付いた。
「ルシェちゃんまたやってる…」
頭の上でタントがボソッと笑いながら呟いた。
「これからはミルクが飲み放題なのじゃーー!」
「ぶもぉーーーーん」
嬉しそうにちゅうちゅう音を立てながら叫ぶルシェの声とミルクカウの鳴き声が牧場に響き渡る。
少し時間は遡る、
カウの群れを率いているりょうの一向を尾行する影があった。アルカディアに入ったところで影は立ち止まり驚いていた。
『なんだここは?楽園なのか?』
森の切れ目から空気が変わった。霧が晴れ辺りを漂っていた濃い魔力が霧散した。
澄みきった空気と整地された道路、先進的な建物。明るい住人の声。群れを見逃さないように尾行する。
『位置的には森の中腹から深部…森の中にこのような町があったのか...』
そう…尾行していたのは先ほど出会った森のエルフたち20名。もちろんりょうは気付いている。
むしろ、何でこそこそしてるんだ?ってくらいの感覚しかない。
群れを牧場に連れてきた。その後をこそこそと隠れながらついてくる森のエルフたち。
『何と豊かな土地なのだ!おい!アレを見ろ!あんなにも透き通った大きな川が…綺麗な水が…』
『それよりもさっきの町の建物を見たか?透明な壁で中が透けて見えた高い建物があったぞ!』
『もしかしたら…ここは…神々の住まう都…』
『何なのだこの人間たちは?何故こんな魔物たちを連れて歩いているのだ?こんな危険で食えもしない魔物なんかを…バカなのか…』
『何か大歓声がおこったぞ!何だ?かがり火?火をつけて人があの男に集まりだしたぞ!何か儀式が始まるのか?』
エルフたちは人混みに紛れ、中の様子を見る。
『何だ?何かの肉を焼き始めたぞ!………凄まじく良い匂いだ…』
『ぐぅ~!』
『くっ!私は近頃魔物が多くてウサギが獲れなかったからしばらく肉を食べていないんだ』
『何だと?!お前もか…私もだ』
香ばしい匂いが辺りを支配する。
『なんという残酷な儀式なのだ!ツラすぎる…』
『おい!アレをみろ!肉を配っているぞ!何て事だ!おい!アレはうちの村のタレスじゃないか!紛れて肉を貰っているぞ!』
『くそ!私も貰いに行くぞ!この匂いは凶悪だ』
バーベキューコンロに群がるエルフたちに、
「はい、どうぞ!いっぱい食べてね」
ニーニャがエルフたちに肉と酒を配っていた。
『なんという事だ肉だけでなく……酒までくれたぞ』
『くっ!シルフィの娘が肉と酒を配っているぞ!バレたか?!いや、大丈夫だ、この街にもエルフはいっぱい居るみたいだ。きっとバレていない!はずだ!』
肉と酒を受け取ったエルフたちは一ヵ所に集まり話す。
『もう、我慢できないわ!』
ガブリと肉にかぶり付いたエルフたち。
『ぬぉおおおおお!何て美味しい肉なんだ!』
『ぬぉおおおおお!この酒は飲んだか?最高だぞ?!』
『ぬぉおおおおお!上品なアブラとこのソース!これは至高の味だわ』
『『『『ぬぉおおおおお!』』』』
人混みの一角で感動している森のエルフたちを見ながら、りょうとニーニャは笑っていた。
そこへトンガたちがやって来た。
「りょう様、少しよろしいでしょうか?」
「ん?どうした?」
「今後の家畜の増加について、現在の状況と予測を報告しておきたいのですが」
「ああ、そうだったな。聞こうか」
トンガが持っていた資料を開く。
「まず牛ですが、今回捕獲した群れは全部で500頭です。ワイルドカウが100頭、ミートカウが250頭、ミルクカウが150頭です」
「うん」
「今回の牛たちは、もともと自然の中で群れを作って暮らしていました。そのため、すでに妊娠している雌もかなりの数がいると考えられます」
「じゃあ春には子牛が生まれるのか」
「はい。正確な数は分かりませんが、三月頃にはかなりの数の子牛が生まれていると思われます」
「それは楽しみだな」
りょうが嬉しそうに笑う。
「続いて豚です。現在、放牧されている豚は約2000頭です」
「2000頭か。これも増えるんだよな?」
「はい。もともと養豚場で商品にしきれないほど増えてしまった豚たちです。繁殖能力のある雌も多く、間引きもされていません。そして現在も自然に繁殖を続けています」
「なるほど」
「豚の妊娠期間は約四か月です。すでに妊娠している個体もいるため、三月頃には最初の出産が始まります。その後も繁殖は続きますので、春には5000頭を超えている可能性があります」
「5000……」
りょうが少し驚いた顔をする。
「条件次第では、それ以上になる可能性もあります」
「増えるなぁ……」
「はい」
今度はコルドが口を開いた。
「ニワトリは現在約一万羽です」
「こっちも増えてるんだよな」
「はい。養鶏場でも卵を産み続け、孵化した雛も間引かずに増え続けた結果が現在の一万羽です」
「じゃあ、ここでも卵を孵化させ続けるのか?」
「はい。卵も雛も、基本的には間引きません」
「三月には?」
コリナが答える。
「ニワトリの卵は約三週間で孵化します。孵化もこちらで管理していけば、三か月あれば何度も繁殖できます。すべてが無事に育つわけではありませんが、雛だけで数万羽規模になる可能性があります」
「数万……」
りょうは目を丸くした。
「つまり、春には牛は子牛が増えて、豚は5000頭以上、ニワトリは雛を含めて二万、三万……場合によってはそれ以上になる可能性があるってことか」
「はい」
「すげぇな……」
りょうは牧場の方を見る。
その広大な河原には、牛や豚、ニワトリが思い思いに動き回っている。
「でも、これだけ増えたら餌は大丈夫なのか?」
りょうが尋ねると、トンガは笑った。
「それについては、通常の畜産場ほど心配はいらないと思います」
「そうなのか?」
「はい。ここはあまりにも広大ですから」
トンガが牧場を見渡す。
「川沿いにはイネ科の植物をはじめ、多くの草が自生しています。牛はそれを食べますし、豚は草だけでなく地面を掘り返して根や木の実、虫やミミズなども食べています」
コルドも続ける。
「ニワトリも同じです。草や種だけでなく、昆虫やミミズを自分たちで探して食べています」
「なるほどな……」
「もちろん冬場の不足分や、成長の早い家畜には補助飼料が必要になるでしょう。ただ、ここでは自然から得られる食料がかなり多いです」
「それに牧場は三つある」
りょうが言う。
「一つを使っている間に、残り二つを休ませる。そうすれば草もまた生えてくる」
「はい。糞もそのまま土地に戻ります。草が育ち、それを家畜が食べ、糞が土に戻る。かなり効率の良い循環になります」
りょうは満足そうに頷いた。
「じゃあ、餌を全部人間が用意する必要はないんだな」
「はい。補助は必要ですが、通常の畜産場とはまったく違います」
「だったら……」
りょうはニヤリと笑った。
「餌の心配より、増えすぎる心配をした方がいいな」
「……その通りです」
コルドたちが揃って頷いた。
「はははっ!」
りょうは大笑いした。
アルカディアの牧場では、まだ始まったばかりだというのに、すでに新しい命が増え始めている。
そして三月。
雪が解け、春が来る頃には、この広大な河原は今とはまったく違う光景になっているのかもしれない。
人混みの一角では、そんな話などまったく知らない森のエルフたちが、肉と酒に夢中になっていた。
『ぬぉおおおおお!』
『この肉、いくらでも食えるぞ!』
『酒も最高だ!』
りょうとニーニャは顔を見合わせて笑う。
「あはは、話は食べた後で良いかな」
「うふふ、そうね」
全然隠れられていない森のエルフたちを、生暖かな目で見るりょうとニーニャであった。




