森の捕獲大作戦
捕獲作戦を組み立てる縄や網などで捕まえる案もでたがつい先日の集団突進を思い出して却下と成った。はぐれているワイルドカウを数頭捕らえるのが一番手っとり早いのではないかと言う意見が採用されたが、もっと良い手段が有る気がする。
「ルシェに命令して貰うとか?」
強者による命令はどうかとルシェに聞いてみたところ
「妾には牛の言葉はわからん!そもそもあやつらに言葉が通じるのか?」
と言われ納得してしまった。
「とりあえず一度だけ試してくれ」
「パパが言うから仕方ないのじゃ」
と今回の捕り物には同行してくれるようだ。
今回の捕獲作戦のメンバーはりょう一家と第一騎士団、赤き剣。モコモコにシリウス、ルナ、レオ、ソルとグリーンゲートのベルクである。
ベルクは今後グリーンゲートでの畜産の責任者として参加して貰っている。
森に入りあの不思議な草原にやって来た。
「うわぁ森にこんな草原が…」
今回初めて来たメンバーが驚嘆の声をあげる。
「ボアがこんなにも…あのボアに似た大人しい魔物がカウですか?」
「ああ、そうなんだけど刺激は絶対にしないでくれ!前回は凄いことになったからな」
りょうはみんなに前回の経緯と結果を告げた。
「あの群れの中にいる大きな個体が群れの長でしょうか?」
今回ついてきたタントが聞いた。
「あの一頭を移動させれたらついてくるのでは?」
タントが続ける。
「山の家畜のヤギたちを移動させるのに犬たちが群れの長を追い込むのです。そうすると後の群れはついてきます」
「なるほど...試してみるか…何かあっても俺が結界を張るから大丈夫だから」
なんと、最年少のタントからの意見が一番現実的であった。
タントが口笛を吹くと、モコモコたちはスーっと魔物の足元を移動して群れの長の回りを走り回る
犬たちは馴れた様に鳴いて刺激しないようにクルクルと追い込みたい方向の逆を走っている。
鬱陶しそうに長は移動して追い込まれていくと、その後を群れがついて移動しだす。
「え?こんなにもあっさりと?」
「このまま森の外まで連れていこう」
ゆっくりと移動を開始しだした。騎士団や赤き剣は道中の魔物から群れを護るのが今回の任務だ。
犬たちは慣れた様子で吠えながらも、決して群れの中へ飛び込まない。
刺激しすぎないよう、一定の距離を保ちながら、ゆっくりと群れの長を追い込んでいく。
鬱陶しそうに顔を上げた群れの長が、一歩動いた。
もう一歩。
犬たちが回り込み、進んでほしい方向とは逆側を塞ぐ。
群れの長が、ゆっくりと歩き始めた。
そして、その後ろから他のワイルドカウたちもぞろぞろとついてくる。
タントが得意そうに笑う。
「犬たちが上手なんです」
「……そういうことか」
りょうは苦笑した。
群れはゆっくりと移動を始める。
牛を驚かせないよう、一定の距離を保ちながら周囲を警戒する。
しばらく進んだ、その時だった。
森の奥から、ガサッと音がした。
数体の小型魔物が姿を現す。
「魔物!」
騎士たちが反応する。
「待て!」
りょうが手を上げた。
「群れを刺激するな!」
ワイルドカウたちがこちらを気にしている。
ここで大きく動けば、また集団突進が起こるかもしれない。
騎士たちが足を止める。
そのその時
「私がやるわ」
ニーニャが一歩前へ出た。
「ニーニャ?」
ニーニャはボウガンを構える。狙いを絞り、魔力を込める。
次の瞬間。
シュッ!
魔力を帯びた矢が放たれた。
一体の魔物の足元を射抜く。
続けて二射。三射。
ほとんど間を置かず、魔法の矢が飛んでいく。
カウに当たらない障害物を避ける矢が魔物たちにうねりながら吸い込まれていく。
魔物たちは何が起きたのか理解する間もなく倒れていった。
「……」
誰も声を出さなかった。
あまりにも鮮やかな手際だった。
「……ニーニャ」
りょうが思わず呟く。
以前とは違う。
ボウガンを構える姿も、魔力の扱いも、ずっと安定している。
「もう、大丈夫よ」
ニーニャはボウガンを下ろした。
その時だった。
「……今の魔法は?」
森の奥から声がした。
全員が一斉に振り返る。
「誰だ!」
騎士たちが身構える。
だが、りょうは手を上げて制止した。
「待て」
敵意は感じない。
それでも、森の奥には確かに誰かがいる。
木々の隙間。そこから、一人のエルフが姿を現した。
長い耳。森に溶け込むような服。そして、鋭い視線。
そのエルフは、まっすぐニーニャを見ていた。
「……その弓魔法」
エルフが呟く。
「その魔力の流れ……」
ニーニャも不思議そうにエルフを見る。
「私の魔法が、何か?」
エルフは答えず、しばらくニーニャを見つめていた。やがて、その表情がわずかに変わる。
「……その魔法を、誰から教わった?」
「おかあさんです」
「……母親の名は?」
ニーニャが母親の名を告げる。
「シルフィ…」
その瞬間、エルフの目が大きく見開かれた。
「……そうか」
小さく呟く。
「知っているんですか?」
「……ああ」
エルフは少しだけ視線を伏せた。
「その方は、この森と縁のある一族の出身だ」
「この森の……?」
「我らは、古きエルフの血を継ぐ者たちだ」
ニーニャが息を呑む。りょうも黙ってエルフを見つめた。
母親がどこから来たのか。ニーニャ自身も、詳しいことを知らない。
ただ、母親が普通のエルフとは少し違うことだけは、以前から聞いていた。
「では……お母さんは……」
「詳しい話は、ここではできぬ」
エルフはそう言って、ワイルドカウの群れへ視線を向けた。
「まずは、あの牛たちを安全に森の外へ出すのだろ?」
その言葉に、りょうが頷く。
「そうだな。話はその後だ」
再び群れが動き始める。モコモコたちが先導し、犬たちが群れの長を追い込む。
騎士団と赤き剣が周囲を警戒する。
そして、りょうたちの後ろを歩くニーニャは、先ほどのエルフの言葉を考えていた。
古きエルフの血。…母親の故郷。
知らなかった自分の過去が、この森のどこかにある。その事実だけが、ニーニャの胸に残った。
森の奥では、先ほどのエルフがその一行を静かに見送っていた。
「……あの娘が、あの方の娘か」
そしてエルフは、深い森の中へ姿を消した。




