熊パーティー
熊肉、熊料理なんて美味しいの?
そう思っていた。りょうが初めて熊を狩った時にさかのぼる。狩猟の師匠にあたる祖父によって、りょうの中の常識は幾度となく覆されてきた。
「じいちゃん、熊肉って臭いんでしょ?」
「はははっ!またりょうの先入観かのー?」
「何かね、父さんや母さんが言うんだよ!獣肉なんて臭いだけだって!」
「困ったやつらじゃなー!お前の父親は小さい頃はうまいうまいと食っていたんじゃがのー?!」
「母さんなんて豚肉と鶏肉と牛肉しか食べたこと無いのに...臭いなんて何で分かるんだろうね」
「りょうや!お前は自分が経験した事だけ口にするんじゃよ」
ニーニャの母親の話を聞いたからだろうか?
祖父の事を思い出していた。
アルカディアの屋敷のバーベキューサイトで熊を解体中のりょうはテキパキと手を動かしながら物思いに耽っていた。
「りょう様この熊とは美味しいのでしょうか?」
りょうの解体をまじまじと見ていたファルカが幼い頃のりょうが祖父に聞いた言葉と被り、りょうは笑って答えた。
「それは食ってのお楽しみだよ」
ぐぬぬっと熊を見つめるファルカにりょうは聞いた。
「ファルカにも見た目が苦手とかあるの?」
「いいえ、最後の時の生命力に尊敬を覚えてしまいまして、この偉大な戦士の味が気になりまして」
斜め四十五度からの意見に驚くりょう。流石は鬼神ファルカと呼ばれる訳だ。思考が見た目の麗しさから離れていて笑えてしまう。
屋敷の庭には、ニーニャがとった大物を一目みようと解体しているりょうの回りはアルカディアの住人が囲んでいる。
「この巨体を奥様が狩ったって本当ですか?」
「オークよりでかい!」
「これで魔物じゃないらしいわよ」
「奥様も強かったんですね」
ニーニャが質問攻めに合っている。しかしニーニャは得意気に
「このヒグマと言う動物はそれは恐ろしく強かったわ!わたしは15メートル先から頭を撃ち抜いたの!でも3メートル先まで止まらず走って来たわ」
「「「おおお!」」」
観客はどよめく
「そこで追撃で頭から身体へ、心臓を目掛けて二射目を撃ち込んだの!でも止まらなくて肝を冷やしたわ!」
ゴクリと観客の喉の音が響く。
「あと1メートルと言うところでやっと止まったの」
ふうっと大袈裟に額の汗を拭うジェスチャーをするニーニャ!
辺りは歓声と拍手で満たされる。娯楽の少ないこの世界ではどんな映画より反応が良い。
実はこのやり取りはもう二回目だった。
「くぅー!何回聞いても痺れるね~!あたしらもついて行けば良かったなぁ!」
うんうんと赤き剣の面々や騎士団が頷く。
「今日はたくさん食べて騒いでね!」
ニーニャは嬉しそうにみんなに伝える。
またもや起こる歓声と拍手の嵐の中で黙々と解体をするりょうであった。
今日のメニューは熊のニンニク味噌鍋とバーベキューである。
シュローとその他の料理人たちとりょうは仕込みを進める横では、バーベキューコンロに炭がいこされている。
「ママ!凄いのじゃ!ママ!お肉ありがとーなのじゃ!」
ニーニャにしがみつきながらルシェが上機嫌でお礼を言っていた。
りょうは熊のあばら骨周りの肉を骨ごと網の上に置いて焼きだした。
もちろん塩コショウとハーブ、ニンニクを刷り込んである。
アブラの多い部位なので滴ったアブラが炭に落ちてジュッと火が上がり香ばしい匂いが辺りを支配する。
火が通ってきたらアバラの骨ごとに切り分けて、そこに酒と醤油、ニンニク、ショウガにハチミツを入れ混ぜたソースをハケで塗って更に焼く。
焼ける肉を前にヨダレを垂らしているルシェがかわいい。焼き上がった肉を切り分けて皆で食べ始める。
「大いなる命とニーニャに感謝して!いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
肉にかぶり付いたみんなは目を丸くさせる。ニーニャもファルカもルシェも全員だ。
「ぬぉおおおおお!何てアブラの味わい、甘いアブラなのじゃ!うまいのじゃ!」
「美味しいわね」
「これほどとは…」
そうなのだ熊のアブラは甘味がある美味しいアブラなのだ。
そこに焼酎の炭酸割りで口内のアブラを流し込む!
「っぷはー!最高だー!」
みんなも果実水のお酒で口内のアブラを流し込んでいる。
「うふふ、美味しいし楽しいわ」
今日はニーニャの笑顔が一段と輝いている。
そこに大鍋が運ばれて来た。味噌ニンニク鍋である。たくさんの野菜と熊肉を小椀によそって各自食べる。
「これまた美味しいですわ」
ファルカは鍋が気に入った様子。赤き剣や騎士団と鍋をつついている。
珍しくセバスとヒルダも鍋をつついて飲んでいる。どうやら気に入ったようだ。
ドワーフたちはバーベキューの肉とソーセージで果実水の炭酸割りで乾杯を繰り返している。
アルカディアの毎日は賑やかでお祭りの様に楽しそうな雰囲気だ。いち早く国中が幸せいっぱいになれば良いなとりょうは思うのであった。




