知ることの大切さ
りょうは考えていた。
リディア王女の瞳に見えた強い光の事を。真剣に王国を、民を、救えるかもしれないと思ってから瞳が変わった。
「リディア王女の手助けが出来たら良いな」
りょうはそう思うようになった。でも何をしたら良いのかがいまいち分からないでいた。
魔物を狩って送る?いや違う。
それで助かるのは村や町レベルまでだ。
りょうはリディア王女に聞いた王国の総人口60万人が1日に食べる量を計算する。
1日に1人が500グラムの肉を必要として、60万人だと単純計算で300トン必要となる。
レッサーウルフ1匹からとれる肉はだいたい20キロなので、1日に必要なレッサーウルフは15000匹必要となる。
「………無理だ」
この計算をした時からりょうは、考え始めた。
リディア王女がアルカディアに欲したのは何だった?
食糧?違う、金?ちがう…そう「知識」、直接的に物資を求めるのではなく「知識」だった。
りょうはこの世界の事をまだ何も知らない。
この世界の人々が当然と思うこと。文化や農業。
食文化、生態系など…
大きな食糧問題を改善する為には、やはりりょうにも「知識」が早急に必要なのだと…
まずは実際に周りをよく観て観察する必要がある。
「明日から色々観てみよう」
その日からりょうはとにかく観た。そして、分からない事は周りの人にちゃんと聞くようになった。知らないことをそのままにしないように…
先ずは迷いの森。強力な多種多様な魔物がうじゃうじゃ出現するのに、なぜかアルカディアに入って来ない。どのような魔物がいるのか?広大な森はどこまで続いて奥地にはどのような魔物がいて、どのような資源があるのか?謎だらけである。
そもそも魔物ってなんだ?ブラックホーンブルなんて見た目は牛なのに魔物に分類されている。
「魔物と動物の違いってなんだろう」
そう呟くりょうにニーニャが何を言っているの?という表情で言ってきた。
「そんなのは魔石があるか無いかよ!」
いきなり答えが出た。やはりちゃんと分からないことは、分からないと聞くことは必要だ。
そう心に刻み込むりょうであった。
魔物だからといって、全ての魔物が凶暴ではなくしかも動物と同じで、肉食の魔物と草食の魔物が
いるようだ。
代表的な魔物で言えば…
■レッサーウルフ
種別:魔物 系統:ウルフ系
ランク:C
味評価:★★
注意文:普通に食べられる
家畜化:×
特記事項:
群れで行動するため危険。毛皮として使える
食性:肉食
りょうは魔物図鑑を開いた。
ウルフ系は肉食のようだ。そして、りょうは気になっていた魔物を調べた。
「ブラックホーンブルは…?」
■ ブラックホーンブル
種別:魔物 系統:ブル系
ランク:B
味評価:★★★★
注意文:非常においしい・高級肉
家畜化:△
特記事項:
角に麻痺毒を持ち、強力な突進力を備える。
黒い毛に被われる為に素材価値が高い。
食性:草食
「…なるほど。あの美味い魔物は草食か」
調べた魔物は多分、魔物図鑑のレベルが上がって見える情報が増えている。
魔物図鑑は本当に便利だ。欲しい情報を正確に思い描いて開けば情報が多く表示されるようだ。
つまりは、草食の魔物には食べられる事はない。
そして、縄張りに入ったり、大きな音で驚かせたり危害を加えなければ襲ってこないようだ。
気性は意外とおとなしい。
しかし安全ではない。基本草食系の魔物は群れで行動する。一旦警戒や戦闘態勢に入ると…何百頭もの凶暴化した魔物が突進してくるのだ。
しかも、角や牙、爪などに毒や魔法を放つ個体も中にはいる………安全な訳がない。
りょうが気になっていた、というよりも願望か。「この美味しい牛みたいな魔物。飼って増やせないかな?」とりょうが考えていた結果が魔物図鑑に答えを出した。
「家畜化:△」
この項目である。
「できるんだ…」
棚からぼた餅であったが、「魔物の家畜化」この希望的な言葉が、願望を計画に変えた瞬間であった。
「もっと探索範囲を拡げて調べてみよう」
迷いの森は広大だ。今探索しているエリアは迷いの森の中では、まだ比較的浅い部分のようだ。
少し進み探索しただけでも魔物の品種が増えた。
そのひとつが森の木の上から襲ってきた。突然の頭上からの衝撃音。一行の警護をしてくれているファルカ率いる第一騎士団と赤き剣たちは、唖然としていた。
縦、横、斜めからの立体的な攻撃がまさに縦横無尽に襲ってくる。
しかしその攻撃はりょうたちには届かなかった。
それを防げたのはりょうの絶対防護結界のお陰であった。引きこもらせたら右に出るものは無いと自負している。
この迷いの森の探索を深めに行うと家族会議で報告した時に、危険だと拒否された。その上で出された条件が…
常に全体をドーム状に絶対防護結界を纏わせていること。そして、護衛としてファルカ率いる第一騎士団と赤き剣を付ける事。
今回はあくまでも探索であり戦闘ではないのだ。
その時に魔物図鑑に登録出来たのが...
■ フォレストリザード
種別:魔物 系統:リザード系
ランク:A
味評価:★★★★
注意文:非常においしい・高級肉
家畜化:✕
特記事項:
森林地帯に生息。
木々を飛び回る、ジャンプする。素早い大トカゲ。戦い方が立体的で頭上、縦横斜めから攻撃してくる。その為に戦闘は困難。
革は柔軟性の有る革の為素材価値は高い。
食性:肉食
であった。
今回はあくまでも探索だったが、ファルカ達が守り、あまりにも防戦が長かった為、疲れたフォレストリザードの隙をみて目を狙い狙撃。
ヘッドショットで1匹討伐して事なく終わった。
「防戦しか出来ませんでした…」
悔しそうに嘆くファルカと比例して嬉しそうな部下たち。防戦だがA級と渡り合え喜んでいる。
「あれを倒せるようになるまでここを新たな訓練場にする。」
と衝撃的なファルカの発言に口を開き唖然とする第一騎士団と赤き剣たちであった
そのうちウォーターリザードみたいに定期的に狩ってくるのだろうな。そうりょうは思うのだった。
しかし、強い魔物だけでなく比較的弱い魔物たちも迷いの森には生息していた。
ウルフ系はもちろんレッサーリザードやリザード
レッサーブルやブル。
探索の最中森を進んでいると、森の中に広くぽっかり開いた空間が現れた。
中心に湖がある幻想的な草原に行き着いた。
「森の中に草原?不思議な場所だな…」
「こらへんは草食の魔物の楽園みたいな?ブルだらけよ」
「うふふ、かもしれないわね」
湖を水場にしているのか草食系の魔物たちの幾つもの群れが草を食み湖で水を飲んでいる。
りょうはそこにいるブルたちの中にいた新種の個体を観察していた。
ひときわ目立つ赤い体躯。
「あれは…赤牛?」
魔物図鑑を使いサーチした。
■ レッドホーンブル
種別:魔物 系統:ブル系
ランク:B
味評価:★★★★
注意文:非常においしい・高級肉
家畜化:△
特記事項:
毒は持たないが、ブラックホーンブルを上回る強大な力を持つ。
固い革に被われる為に素材価値が高い。
食性:草食
「食べてみたい…」
そう思ったりょうがライフル銃を構え
パンッ!
一頭仕留めた…その瞬間…
群れの魔物たちが一斉にりょうを見て突進してくる。何百頭もの魔物の群れが一斉にだ。
ドゴゴゴゴゴゴッ!
凄まじい音が辺りを響かせる。
ガゴンッ!ガゴンッ!ガゴンッ!ガゴンッ!
りょうの絶対防護結界に突進し衝突する音が響き渡る。
「うわぁ!凄まじいな!」
予想以上の事態に驚くりょう。
「大丈夫とわかっていても流石に怖いわね」
「確かにりょう様の結界が無ければと思うと…」
ニーニャとファルカが二人で話している。
一刻ほど凄まじい音と衝撃が続き…
やっと興奮から覚めたのか魔物たちはりょうから距離を取るように草を食む。
りょうの周りにはぶつかった衝撃で絶命した魔物や気を失って倒れている魔物が数頭倒れている。
「ごっ、ごめん…」
りょうが自分の軽率な行動を謝った。
「りょう、トドメさして良い?」
「うん」
謝るりょうに何も気にしていない様子のニーニャが聞いてきた。
良いと返事をするとナイフでトドメを刺して回るニーニャとファルカ。
そのあまりにも気にしていない二人の様子を見てりょうは安堵のため息を漏らした。
そして獲物を回収して回る時だった。ボアたちの中に違う魔物の姿が見える。
「ボア系じゃないよな」
その魔物にりょうは魔物図鑑を使った。
■ワイルドカウ
種別:動物 系統:ウシ系
ランク:D
味評価:★★
注意文:普通に食べられる
家畜化:○
特記事項:
気性が荒く、暴れて突進してくる。
素材価値は普通。
革の使い道は多い。
調教すれば荷馬車や農作業の力仕事に役立つ。
食性:草食
■ ミルクカウ
種別:動物 系統:ウシ系
ランク:D
味評価:★★
注意文:肉としては普通
家畜化:◎
特記事項:
非常におとなしく、乳用に適している。
繁殖力が高い。
一回の出産で6頭程産む。
食性:草食
■ ミートカウ
種別:動物 系統:ウシ系
ランク:D
味評価:★★★
注意文:おいしい
家畜化:◎
特記事項:
おとなしく、肉用に適している。
繁殖力が高い。
一回の出産で6頭程産む。
食性:草食
三種類いた。もうお亡くなりになっているが………
「これだ!」
思わず声が出た。
何百頭もの魔物を狩る必要なんてない。
毎日、一万五千匹の魔物を狩る必要もない。
育てればいい。
増やせばいい。
肉を食べるために狩るのではなく………
肉を生み出すために、飼う。
りょうの頭の中で、これまでバラバラだったものが、一気に繋がった。




