眠りの森の眠り姫
姫様………暖かくてふわふわな眠りの中微かに声が聞こえる…姫様!………うるさいわね………私はもう少しこの暖かくてふわふわな世界でゆっくりしたいの……ああ気持ちが良い………柔らかい…………
「姫様!朝で御座いますよ、もう半刻ほど寝かせてとおっしゃるので半刻は過ぎました。さあ起きて下さいませ!」
側仕えのベティは不機嫌そうに王女殿下を揺する。一時間前にあと一時間だけ!と言われ再度姫様起こしに挑戦中だ。
「ベティ…私はこのまま眠り姫になろうかと存じます…zzz」
「んまー!姫様が小さい頃よりお仕えしてきましたが…そうおっしゃって何度昼過ぎまで寝ていた事ですか」
ベティは毎朝思うのだ。姫様は眉目秀麗で非の打ち所も無いご令嬢にお育ちしました。
しかし、この睡眠に対する貪欲な姿勢さえなければ…完璧でしたのに………。
この後、壁に掛かっている時間を示す魔道具の数字が「11」の数字に短い針が重なるまで、姫様は起きませんでした。起こし始めたのが「8」の数字の時でした。一刻半もの時間が掛かりました。お疲れなので御座いましょう。
「姫様!いい加減起きて下さいまし。本日は昼から畑の見学に連れていって頂けるのでしょう?」
そう言われやっとリディアは布団をめくり起き上がった。
「そうでしたわ!………にしてもこのベッドとお布団………危険でしてよ!永遠の眠りにつきそうでした」
はあはあと額の汗を拭うポーズをするリディア。
「はい、今日は大変でしたよ。いっこうに起きようとしませんもの、ささ!お顔を拭かせて頂きますね」
さささっとお着替えとヘアセットを終わらせ紅を薄く引く。ベティは一流の側仕えである。
「朝食の時間は過ぎて、お昼の時間になりましたね姫様…」
「おほほ、あのベッドとお布団が悪いのですよ」
ベティはやっと安心な顔をした。姫様は起きれば完璧なのです。
バンケットホールに降りると
「おはようございます。良く眠れましたか?」
りょう様が出迎えて下さいました。
「ええ、とてもぐっすり(・・・・)と眠れましたわ。本当に素晴らしい寝具でした」
りょうはくすりと笑う。
『やはりこの方は私や他の人たちが喜ぶと本当に嬉しそうに笑いますわね。王家や貴族には余りみかけないタイプの方ですわね…あっ!たまにお父様が私を見て笑う感じに似ているかもですわね』
「昼食に食べたいものは御座いますか?」
「そうですわね」
んー!とリディアは考える
『お昼と言うよりは寝起きですので』
「軽めのパンとスープを頂けますでしょうか?」
「分かりました」
とりょうは厨房へと歩いて行った。
リディアは席につく
厨房では…
「シュロー!リディア王女殿下は軽めのパン食をお求めらしいですからコーンポタージュスープとたまごサンドとハムサンドにふんわりオムレツとコールスローでお願いします」
今日はシュローもグリーンゲートに来ている。
「かしこまりました」
「それじゃ頼んだよ、あっ!あと昨日リディア王女はトウモロコシがお気に召したようだ」
それだけ伝えるとりょうはバンケットホールに戻った。
給仕にリディアへハーブティーを出すように伝え席につく。
「リディア王女殿下。他の領地で作物がなぜ育たないとお思いですか?王国で把握している現状もお教え下さい」
「ええ、分かりました。まず、この寒さが原因で麦やじゃがいもなど王国の主食である穀物が育たないと言われております」
「では、他の作物はどうでしょうか?」
「麦農家は麦が育たず、芋農家も豆農家も各葉物農家も全てが不作と言うよりは育たないと報告されています」
「農家は他の作物は育てていないと?」
「この王国では専門農家が主流ですわ」
「ノトスの時と同じですね………」
しばらくりょうは考え
「原因がわかったかもしれません。ノトスと同じです」
驚きを隠せないリディアは食いつくように聞いて来た。
その時食事が運ばれて来た。
「ひとまず食べましょう」
たまごサンドとハムサンドにふんわりオムレツにコーンポタージュスープにキャベツとコーンのコールスロー。結構なボリュームで出てきたが大丈夫だろう。リディア王女には毒味役のあの側仕えがいるのだから。
あっ、側仕えがサンドイッチを毒味と言いながら一枚丸々食べて大丈夫ですと別の一枚をリディア王女に差し出してる…
「ミント………新しい別のサンドイッチを渡したら毒味の意味が…まあ良いですわ。ノトスとグリーンゲート以外ではこんな風にはしませんもの。一緒に食べましょう」
「姫様!一生お仕え致します」
「はいはい」
うふふとコーンポタージュスープをスプーンで綺麗に食べるリディア王女。
涙目でサンドイッチを頬張る側仕えのミント。
そして、りょうの隣では、ふんわりオムレツに感動しながら満面の笑みで、
「ふんわり、とろとろ…ふんわり、とろとろ」
と言いながら食べるニーニャと
「りょう様、稽古を増やすのでサンドイッチの追加をお願いします」
と言うファルカ
「やはり肉は正義なのじゃ!」
と別でステーキをシュローに焼かせて、上機嫌なルシェ。
案の定リディア王女もペロリと完食した。
食後のデザートはプリンだった。
女性陣は歓喜のおかわりを何度もしていた。
バンケットホールにやっと静けさが戻りハーブティーの爽やかな香りが漂い出す。
「それで、原因は何なのでしょうか?」
「多分ですが連作障害による土壌の栄養バランスが崩れたり、センチュウや土壌病害虫の増加が原因かと思われます」
「連作障害とは何なのでしょうか?」
「同じ土地で同じ種類の作物ばかりを育てていると土の栄養バランスが崩れて簡単に言うと今みたいな状態になるのです」
「………!」
やっと理解できたのかまたりょうの目を見つめて
「どうすれば良いのでしょうか?」
「麦畑には豆類やキャベツ等のアブラナ系を育てると良いですよ」
「じゃがいもの畑でしたら水田にして稲か普通に麦でも大丈夫です。」
「ノトスでは既に結果が出ているみたいですよ」
「ありがとうございます」
「あと、家畜を育てて食べるようにしないと計画的なたんぱく質がとれませんよ!」
「家畜ですか…これもどうすれば...」
「分からないことばかりでしょう!グリーンゲートにも養豚場と養鶏場が有りますからこの後案内させますよ」
「ありがとうございます」
涙目で両手を握られた。
「むぅ!りょう!浮気はダメよ!」
ニーニャがむっと声を出した。
ニーニャセンサーガードセキュリティ
脳裏にこんな言葉が浮かんだのであった。
そして、
「農場にご案内致します」
コランドが迎えに来た。農場までは車で移動するようだ。コランドがいれば運転は任せることが出きるので後ろの席にゆっくり座った。
農地に着くと畑には雪が積もっている。
「何も有りませんですね」
リディア王女は素直に質問していた。
農家の夫婦は笑顔で答えた。
「実はこの雪の下に野菜が有るのですよ」
「え?お野菜は凍ってしまいませんの?」
「ほっほっほ!不思議ですよね!実は私たちもりょう様に教えられて試したら実際に美味しく保っていられたのです移住が秋でしたので間に合いました秋に作った白菜やキャベツ、ニンジン、大根、ネギがこの雪の下にあります」
雪を掘り実際に白菜とネギを収穫してくれた。
今日は鍋にしよう。
出てきた野菜に驚くリディア王女。
「秋に収穫した時より甘くて美味しいのですよ。雪の下で栄養を蓄えて美味しくなるようです」
「冬に新鮮な野菜が本当に採れた!素晴らしいですわ!」
これで来年こそはと燃える王女殿下。
「リディア王女殿下にとっておきの施設をご紹介しましょう」
りょうは何事にも一生懸命なリディア王女を温室に連れて行く事にした。
「こっ、これは!ガラスでおおわれた畑?」
りょうもグリーンゲートの温室には初めて来たのだが思っていたより大きい。
温室に入るとしっとりとした暖かい気温に包まれ中には女性が待っていた。25歳の色っぽい魔女服の女性が。
「あっ!ローズマリー先生」
りょうはアルカディアに居ると思っていた女性がグリーンゲートに居たので驚いている。
「りょう様こんにちは」
「りょう様こちらの方は?」
「私の錬金術の先生でローズマリー先生です」
「はじめまして、王女殿下。錬金術師のローズマリーでございます。本日はこちらの温室を作った時の話しをするようにと呼ばれました」
「ああ!なるほどです。セバスですね」
「はい」
先ずは温室とは何であるかをリディア王女に説明する。
「年中夏の野菜が作れるですって!そんな事ができるのですね!」
「温室の農家の人がトマトとナスときゅうりを持って来てくれましたよ」
トマトをリディアに渡す。
「本当です!トマトです!夏野菜が本当に真冬に収穫できるなんて!」
ローズマリー先生がりょうに錬金術を教えた途端にこの温室の強化ガラスとステンレスを錬成した事でこの施設の材料ができた事。温室と雪対策で火の魔石をここでも使っている事を説明をした。
リディアはできる限りの情報をメモしていた。
温室で、フルーツをご馳走になってから、次は
養豚場と養鶏場を案内した。グリーンゲートには今豚が100匹ほどアルカディアから移動させたのだとこの時心で思っていた。
リディア王女はすぐに畜産の凄さを思い知ったようだ。豚はまだアルカディアでも頭数が少ないので今はどんどん増やして行っている。
養鶏場は3ヶ月でもう1000羽ほどいる。主にブロイラーとボリスブラウンだが100羽程は烏骨鶏をいれている。卵を温めて孵してくれるからである。
グリーンゲートを見学した王女の瞳には強い光が宿っていた。
「希望を見いだしました」
そう呟き養鶏場を後にした。
帰りにブロイラーを二羽絞めてもらいお土産にした。
さっきも言ったが今晩は鍋だ。




