歓迎は星の下で
代官屋敷はファルカの第一騎士団が主に使っている。代官が正式に任命されるまでコランドに駐在して貰っている。
主にグリーンゲートの代官代理としてアルカディアからセバスの指示でグリーンゲートは回っている。よって視察に来なくともセバスに聞けば知りたいことは分かる。しかし、りょうがアルカディアの屋敷に戻るのはたまにでセバスからの報告書も山積みになっているらしい。
結果がこの、ここは何処?である。
コランドと第一騎士団が集まり、王女殿下に跪き配下の礼を取る。
「ようこそグリーンゲートへ王女殿下」
りょうも列の先頭に移動し、皆と同じように跪く。
「表を上げてください」
形式上では、あったけど様にはなったと思う。
「リディア王女殿下、ここグリーンゲートの代官代理としてついて貰っているコランドです。今朝広場でお会いしましたよね?」
「はい、おかげ様でグリーンゲートの事を知ることが出来ました」
女王陛下に情報をぶちまけたのが自分だとコランドが申し訳ない目で見てくる。
「今、王女殿下が一番知りたい田畑の事はこのコランドに聞けば大半は答えてもらえるはずです。コランド責任を持ってご対応するように」
「かしこまりました旦那様」
「王女殿下は他の領地が今の飢饉を脱する知識を望まれているので出来る限りの協力を皆頼む!」
「コランド、今日は広場で宴を開きたい。その時に有識者を集めて食事をしながら知恵を借りよう」
「王女殿下は客室で食事ができるまでお休みになっていて下さい」
りょうは広場に移動した。宴会場の下見と準備だ。以前にもグリーンゲートの広場で宴をした。キャンプファイアをしながら住人皆で飲んで食ったのを今も覚えている。
しかし広場は手が加わってデフォルトで真ん中に大きなトーチ台がおしゃれに石組みで丸く作られていてその周りには木で編み上げたソファーとテーブルが来れまたおしゃれに並んで配置され要所要所に明かりを取るための細いトーチ台が立っている。なんか意識高めのグランピング会場のようだ。
「住人からの要望で、あの時の旦那様との宴を忘れないようにと常設することになりました。」
有識者や職人たちが既に集まっていてりょうに報告してくれる。
「我々、土木職人や大工職人、石職人。鍛冶職人。家具職人。繊維職人などが錬金術師のローズマリー先生とまとまって知恵と工夫で作り上げました」
「すごいじゃないか!皆良く頑張ったね!ありがとう!今日は良い肉とお酒も出しちゃおうかな!あはは」
「「「わぁ!」」」
「「「やったぞ!」」」
歓声が沸き上がった。
りょうは広場の屋根付きの調理場に移動し水場でブラックホーンブルを一匹出し、素早く解体をする。
ブラックホーンブルは兎に角でかい、丸々と肥えて600キロは有る巨体にナイフを入れ皮を剥ぐ。
骨や内臓、スジを取っても肉500キロは取れる。
美しい肉が現れてりょうは驚く骨を外すのに切り分けると………
「A5ランク並みの綺麗なサシが入ってるじゃん…かなりヤバそうだな。美味しく無いわけが無い。この世界に来てどうしても手に入らなかった牛肉が、まさかのA5ランクとは…」
感動しながら目をつぶり上を向くりょうの目にはキラリと光るものがあった。
街の料理人たちが30人程集まってりょうの指示で切り分けていく。
内臓は水にさらしてからザルに取り、塩でもみ洗う。その時に生活魔法のクリーンをかけると一気に綺麗になった。
500キロの肉1000人で食べて1人500グラム…今のグリーンゲートが何人居てるか把握してないけど十分だ。しかも高級地鶏に近いウォーターリザードと豚肉にイノシシ肉とウルフ肉も出す予定だ。
お野菜もたくさん有るので贅沢すぎる。
トウモロコシにナスに玉ねぎ、ピーマン。
広場のソファーに設置しているテーブルは真ん中にテーブルトーチが用意されその周りが網になっている。そこで各自焼きながら食べる設計だ。
グランピング会場じゃん!とりょうは笑う。
おしゃれに仕上げたな~みんな。
そこでりょうは200リットルの樽を取り出した。そこにはレモンとみかんの輪切りとリンゴのスライスをドライ加工した物と同じように干したドライマンゴーのスライスをハーブと氷砂糖が漬けられたりょうの手作り果実水である。これを100リットルの中樽に移して2リットルボトルのアルコール25%の焼酎を混ぜる。アルコール度数5%の果実水割りが100リットル出来た。今日はこの樽1つまでだ。
この世界のエールのアルコール度数は1~3%のようだからこれで凄い酒精だと言われる。
テーブルにボールを置き生活魔法のアイスで氷を精製。酒をデキャンタに移してそれに錬金術で空気中から二酸化炭素を圧入する。酒に気泡が入る。トーチの光りが反射して綺麗だ。炭酸入りになったデキャンタを氷に刺す。
良し!準備は整った。
その頃…
代官屋敷の客間のソファーでリディア王女は休みながら物思いにふけっていた。
『魔物が多くとれる理由はここの人たちが強すぎるからだとはわかった。あれは真似出来ない…では、このグリーンゲートではこの真冬の大飢饉の中でどの様にして農業で収穫を得ているのか…
今王国では長く続く冬と麦畑で麦が育たなくなり、土が痩せて困っている。気候と土壌がおかしくなってしまったのだ…解決策を…知恵を…』
『それより、りょう様の規格外のあの力とあの魔道具は何なのかしら…ズルいわ!全く参考にならないじゃない。そして、あの第二夫人のファルカという方………強すぎて怖かったですわ!戦っている時の動きが見えなくて……でっ、出来るだけ仲良くしておきましょう!』
「ねえ!マジェスタ!」
王女は入り口で扉を護っている護衛騎士団副団長に声を掛けた。
「はっ!」
「マジェスタはあのファルカ様と立ち会ったら勝てますの?」
「……いいえ…、数秒で首と体が分かれるかと…多分ですが、護衛騎士団と魔法師団総掛かりでも勝てるイメージが湧きません………あれは、化け物の類いかと…申し訳ございません。姫様」
額から一筋の汗が流れた。
「そ、そうなのですわね…いいえ、答えてくれてありがとう」
「ねえ!マジェスタ!そこのソファーに座ってみて」
マジェスタは一人掛けのソファーに座って驚く。
「!!!」
姫様の周りの家臣たちはほとんどが中級から上級貴族の家の出である。マジェスタ自身も伯爵家の出自だ、良いものに囲まれて育って来ているのだ。
「でしょう?!私も驚きましたの!そして、立てなくなりました。これは人を駄目にするソファーですわ」
「はい、私も立ち上がりたく無くなっております」
二人で「はぅ!」と言いながらソファーを堪能している。
「ソファーひとつ取ってもこれですもの…」
色々と驚かせられ、思い知らされたリディアであった。
すると扉がコンコンとノックされた。
「王女殿下、食事のご用意が出来ました」
「はぅ!頑張って立ち上がります」
結局、側仕えにてを引いて起こしてもらったリディアであった。
広場に移動する道中、石畳の平坦さと雪が道にだけ積もっていない事に気付き驚いたリディア、
「どうしてでしょう?道に雪が積もっていないのです」
案内するコランドに尋ねると
「道のいたる所にこのように火の魔石が設置していまして、この力が道に流れる造りになっております。ここでは魔物肉を大量にさばく際に取れますから、そして定期的に魔法使いたちが魔力を補充しているのです」
「素晴らしい技術ですわね!はっ!もしやこの技術と農業も関係しているのでは?」
「さすがで御座いますね。明日農地へご案内しますのでお楽しみに」
ゆっくりと優雅に歩く王女は嬉しそうに歩くのであった。
広場が見えた時
「まぁ!素敵!」
と目に入って来た景色は、トーチがそこら中に煌めき一つの大きなトーチの周りに規則正しく美しく並ぶソファーとテーブルトーチが、まるで一枚の絵画のように見える。
暖かい光りに揺らぎ照らされる広場の景色であった。一番中心のトーチに近い他と反対の向きに設置されたひときわ大きく贅沢なソファーに座るりょうの元に案内された。テーブルにはたくさんのお肉やお料理が既に並んでいた。凄いご馳走だ。王宮でも見たことの無いものだらけだ。
りょう様は立ち上がり
「こんばんは、王女殿下。少しはお休みになれましたか?どうぞ!こちらへお掛け下さい」
と声を掛けて下さり、席にエスコートしてくれた。ソファーは二つ用意されていてりょう様の隣にはニーニャ様とファルカ様そして、ルシェちゃんが座っている。
「「こんばんは、王女殿下」」
と二人は笑顔で迎えてくれる。ルシェちゃんは並んだお肉に夢中のご様子。
「パパ!早く焼くのだ!」
と少しご立腹の様子ね。可愛いわ。ほっぺたにすりすりしたい。
でも、人前で素の私を見せるわけにはございません。
『ぐぅ~っ!』
はっ!お腹がなってしまいましたわ!恥ずかしい。りょう様に聞こえましたでしょうか。
少し間をあけてから、りょう様はくすりと笑い
「では!歓迎の宴を始めます!」
広場の人は杯を手に取り立ち上がって杯を、私たちにかざしてくれています。
数百名でしょうか?迫力があります。
私も杯を手に取りました。果実の良い香りがします。
「では、王女殿下に!杯を捧げて!」
「乾杯!」
「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
広場に声が響き渡りみんな一気に飲み干す。
「まあ!甘くてしゅわしゅわと酒精の強い美味しいお酒ですわ」
私と同じように皆さんも歓喜の声をあげています。
続けてりょう様はお料理の説明を始めました。
「テーブルに有る肉はブラックホーンブルとウォーターリザードとウルフ、豚にイノシシです!テーブルのトーチの周りの網でお焼き下さい。鶏はテーブルにつき一羽丸焼きにしています。野菜は玉ねぎ、ピーマン、ナス、トウモロコシです。焼いて食べて下さい。余った食材は各自持って帰って構いません。では、ご自由に楽しんで下さい」
「「「「「「わーーー!りょう様最高ー!」」」」」」
凄い歓喜です。人気がおありですのね。
側仕えたちが嬉しそうに鶏の丸焼きを切り分けたり、お肉と野菜を焼いています。私のためにいつもありがとうですわ。
鶏をナイフとフォークで切り分け口にすると。じゅわっと美味しい肉汁があふれて来ました。
柔らかく皮はパリッと中はジューシー。
りょう様に向かい
「とても美味しいですわ」
「ブラックホーンブルは凄いですよ!是非食べてみて下さい」
私はりょう様から渡された焼肉のタレにホーンブルをつけて食べてみます。
口に入れて噛むと何の抵抗もなくじゅわっと溶けて無くなりました……良質のアブラが口に広がって素晴らしく美味しいですわ。
「まあ!一瞬で無くなりましたわ」
美味しい……王宮でも食べたことの無いお肉ばかり
ルシェちゃんもニーニャ様もファルカ様もとろけた表情で食べてらっしゃいます。
素晴らしいお肉を色々と堪能をし、次はお野菜が焼き上がってお皿に盛って頂きました。
ナスは表面は香ばしく中はとろとろで美味しいなんてものではないですわ。玉ねぎは甘くて美味しい。ピーマンもほろ苦さと甘さがちょうど良い感じですわ。
目の前ではルシェちゃんがニーニャ様に怒られている。ご様子。
「ルシェ!ピーマンも食べなさい!」
「嫌なのじゃ!」
「身体に良いから食べなさい!」
「何でじゃ?肉が欲しいのじゃ!」
「食べるまで肉はお預けですよ!」
「食べるのじゃ!」
うふふ、可愛いですわ。グリーンゲートのお野菜はとても美味しいですからね。
ファルカ様はトウモロコシがお気に入りのご様子ですわね。先ほど私も頂きましたがとても甘くて美味しゅうございました。
お酒を口にすると、甘味とフルーツの香り、それにハーブの香りが一気に広がりました。酒精と一緒に香りが鼻へ抜け、喉ではしゅわしゅわと泡が弾けます。
美味しい……。こんなお酒まであるなんて。
りょう様は食事を食べている人々をみて本当に嬉しそうに笑う。この方は何よりも、他の人が喜んでいるのを見るのが好きなのでしょうね。
「とても素敵な夜ですわ。ここは本当に同じ世界なのでしょうか?まるで楽園のようですわ」
視点はもどり、
広場にはキラキラと人の笑顔がトーチの火に照らされ揺らめいていた。
幸せな民とそれをみて喜ぶりょう。
初めての肉や料理に舌鼓をうつ王女殿下御一行。
アストリアには無い光景が今ここに広がっていた。トーチの温度と人の体温が真冬の広場を温かくしている。




