話せばわかる!はず…
グレオール男爵邸の執務室では、暖かな湯気が立つティーカップを手に、リディア王女がりょうたちの発言を待っている。
正面の席には蛇に睨まれた蛙のように縮こまったグレオール男爵。
そして、何処まで話せば良いのか、話した事でアルカディアの立ち位置がどう変わるのか分からず沈黙を続けるりょうがいる。
『出来ることなら王家や貴族にかき回されたくないな…でもいずれは…』
『兎に角、王女の意図が分からないうちはこちらから余計なことを明かすことは危険だ…』
りょうは紅茶を一口飲み、覚悟を決め王女を見る
「あの、王女殿下は何を知りたくて、その後どうなされたいのでしょうか?」
りょうは質問に質問を返す。
王女に対する不敬と取られてもおかしくない問いだったが、それをあえて実行した。
ここで、妙にはぐらかすような人なら、アルカディアのことは話せない。
「まずは先日からりょう様がノトスに提供していた食糧や魔物肉はどの様に入手していらっしゃるのかと…」
リディアは一度言葉を切り、先ほど聞いた話を思い出す。
「それと、先ほどの殿方が仰っていたグリーンゲートとは?」
「この真冬の雪の中で野菜の収穫が出来ているとのことです。この大飢饉の最中にです。王国の為に教えて頂きたいのです」
静かな執務室に鈴のような声が響く。
落ちついた声だった。
しかし、話すその言葉の一つ一つから真剣さが伝わってくる。
『こちらも真剣に答えないと』
暖炉の薪がパチッと鳴る。
「まず聞いておかないといけないのですが…」
りょうは王女の目を見る
「もしも食糧が豊富な街が実際に有ったならば…女王殿下はどうなさるおつもりですか?」
一瞬だけ間を置く。
「権力で奪いますか?それとも…」
大事な事だ。
腹を割って話せる人物か。
権力を振りかざす人物なのか。
この国の王女である彼女の人となりが分からない以上は話せない。
リディアはすぐには答えなかった。
手にしたティーカップを静かに置き、真っ直ぐにりょうを見つめた。
「もしもそのような素晴らしい街が有るのであれば…」
「……」
「知恵をお借りしたいのです」
りょうの眉が動いた
「知恵、ですか?」
「はい」
リディアは静かに頷いた。
「今、この国では飢饉によって田畑は痩せ細り、食糧が足らず餓死者が多くでてしまっているのです……王家の備蓄を配っても全てには行き渡りませんし一時凌ぎです。王命で食糧を集めようにも余力のある領地が無いのです……」
王女の脳裏に、道中で見た村の悲しい記憶がよみがえり顔をしかめる。
「豊かな街が有っても、そこから権力で奪えばその街が駄目になってしまいます…ですからこの飢饉の中でどう工夫をして豊かさを守っているのかを教えて貰えれば、他の領地でも同じようになるかもしれません」
王女はそこで一度息をはいた。
「私は奪う為に知りたいとは思っておりません」
その言葉に、りょうは黙って王女を見つめる。
「この国の民を守るために知りたいのです」
暖炉の炎が揺れる。
その言葉を聞いてもなお、りょうはしばらく何も話さなかった。
『……今のところは…嘘をついているようには見えない…』
だが、それだけで信用するわけにはいかない。
アルカディアにはりょうだけではなく、リディアやファルカたち家族が居る。
そして、やっとの思いで平穏に暮らせた多くの仲間である住人たちがいるのだ。
簡単にはいかない。
「……なるほど」
りょうは紅茶を置いた。
「あと一つ聞いておきたいことがあります」
りょうはリディア王女の目を見ながらゆっくりと言った。
「何でしょう?」
「その知恵を借りた結果、王家はその街をどうあつかうのでしょうか?」
「王国に報告して奪えと言われたら?」
「その街は必ず私が守ります」
リディア王女殿下は真っ直ぐな目で言いきった。
「必ずですか?」
「はい!必ずです!」
リディア王女の真剣な眼差しをりょうは見つめていた。
………そして、少しだけ警戒を解いた。
気合いを入れて誠心誠意話したのだろう。
話し終えてもリディア王女殿下は
『ふんす!』
となったままで、少し可愛いと思ってしまった。
隣で縮こまったグレオール男爵とのギャップがシュールである。
「理由は分かりました。真剣な話し合いは頭が疲れますね、甘いお菓子でも食べながらお話しましょう。」
りょうは立ち上がり、収納からアフターヌーンティーの時のケーキスタンドに日本製のブル○ンシリーズのケーキっぽいお菓子を取り出し並べた、下のお皿には作り置きのサンドイッチを小さく切って並べる。
「男爵も食べながらお茶しましょう」
「はい…助かります」
「では、王女殿下。グリーンゲートにご招待致しましょう」
「本当ですか!」
リディア王女の表情が花が咲いたように明るくなった。
色々考えたけど、実際に見て貰うのが一番早い。アルカディアについてはとりあえず黙っておこう。
「最初に言っておかなければいけないことが御座いまして…」
「なっ、何でしょうか?」
ケーキを食べようとしていたリディア王女がこちらを見た。
「じつは...グリーンゲートはここから馬車で3日の場所に御座いまして…」
「え?」
「王国の境界線の外にございます」
リディア王女は予想外の事に「え?」のままで固まっている。
「ですので移動があります。がしかし、おいそれと大人数にグリーンゲートを見せる訳にはいきません。リディア王女とあと一人か二人でお願いします」
「わっ、分かりました。側仕えと護衛騎士団の団長でお願いします」
さすがは王女様だ、すぐにいつもの穏やかな美しい顔に戻っている。
さあ、この後はグリーンゲートに出発だ。




