深まる疑問は波に拐われる
翌日、ノトスに向かうりょうは迷いの森で大きな気配を感じた。
「ちょっと待っててね」
「何かあったの?」
今日はニーニャが付いて来た。ニーニャ横ではしがみ付いて寝ているルシェとファルカが座っている。
りょうは車から出て近くの木に飛び乗りライフル銃を構える。
「おっ!久しぶりにでっかいニワトリ発見!」
災害指定魔獣であるコカトリスだ。
集中……狙撃。
銃声とともにコカトリスの頭が撃ち抜かれ倒れる。
「よし!」
るんるん♪とコカトリスを回収しに森の奥に進むりょう。収納したときまた大きな魔力を感じる。
「なんだ?」
遠くを見ると岩のような物体が動いている。ゴーレムである。
「うわ!」
久しぶりに魔物図鑑を発動
ロックゴーレム ランクA 食べれない
魔石を破壊する事で討伐可能。レア鉱石が希に手に入る。とにかく固い。
らしい、そうか…固いのか…相性最悪だな…逃げよ
すぐに踵を返し車へ向かうりょう。しかし予想に反して…ズシン、ズシンと迫るロックゴーレムのスピードが早い。
「マズいな…よし!」
覚悟を決めてライフル銃を構える、魔石を感知、集中…狙撃。しかし岩の塊にライフル銃では簡単に弾かれる。
「うん!無理だ…」
必死にあたふた逃げ出すりょう、ロックゴーレムはもう直ぐそこまで来ている。
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
もはやこれまでかと思った瞬間に
「パパをいじめるなー!」
ドガンッ!とルシェが一撃でロックゴーレムを粉砕したのであった。
抱きついてくるルシェをよしよしと撫でて、
「ありがとうルシェ。危ないところだったよ、本当に助かった」
ぎゅっと抱きしめるとルシェは嬉しそうに。
「パパをいじめるやつは、妾がやっつけてやるぞ!どうじゃ?嬉しいか?」
「うん!ありがとうルシェ」
へへーん!とルシェは満足そうに抱きつく力を強める。いててて、ルシェ少し痛い。
ゴーレムの残骸をとりあえず収納して車に戻った。ルシェの時もそうだったけど固い魔物には要注意と対策を考えないとな……りょうに一つ目的が出来た。
「あっ!そうだった...絶対防御結界のスキル忘れてた…」
狩と戦闘はやはり別物だな…と改めて思うりょうであった。
今日は午前中はノトスの広場でアジの干物とメザシの販売をする予定だ。アジは1枚は銅貨1枚メザシは10匹一括りで小銅貨5枚で販売予定である。
もう少し安く売る事をセバスに相談したら漁師のプライドとせめてこの金額でとお願いされたので仕方なくこの額だ。
アジの干物100枚とメザシ一括りを50個を販売予定である。在庫はまだまだたんまり有るけどとりあえずの予定数だ。
ノトスに到着して店を構える。
「いらっしゃい!いらっしゃい!今日はアジの干物とイワシのメザシを販売するよー!」
実演販売として七輪でアジの干物を焼き小さく切ってお皿に並べつまようじを刺す。よくある試食販売である。
「試食していってねー!試食は無料だよー!」
辺りには魚が焼ける匂いと煙がただよいだす。
「試食しても良いでしょうか?」
りょうが顔を上げるとそこにはリディア王女の姿があった。
「ああ、どうぞ!」
ニーニャがトレーで王女殿下に持って行く。
りょうは上客が来たとすかさずコンロを出して鍋に水を入れ沸かしだす。商品の追加だ。そこに卵を50個入れてゆで卵を作る。
「どうですか?お口に合いましたか?」
ニーニャが可愛く接客してくれている。
「まあ!美味しいですわ!これは保存食としても有用性が有りますわね」
「そうじゃろ?美味いじゃろ?妾も大好きなのじゃ!」
でーん!といつものポーズでルシェがふんぞり返る。不敬にならないか?あはは…
ファルカがメザシを軽くあぶり試食用に小さく切ってお皿に盛る。
「王女殿下、こちらもいかがですか?少し苦味は有りますが癖になるお味ですよ」
やるな!ファルカ!ここぞとばかりに追加営業するとは。凄腕の剣士としてだけではないな!
「まあ!こちらも美味しいですわ!」
そこですかさず、茹で上がった卵を出して一つからを剥く。それを糸を使い4等分に切り分け塩をふる。
「こちらもどうぞ!」
「えー!卵ではないですか!こちらも無料で試食出来ますの?」
「はい!購入の際は一つ小銅貨5枚で販売します」
うっとりとちょうど良い茹で加減の半熟たまごをつまようじでパクリと食べる。
「皆さんもどうぞ!」
騎士団と徴税官にもすすめると
「美味いなこれ!」
「俺はメザシが気に入った」
「茹でたまご最高~」
ざわざわと試食を食べてアルカディアの食に魅了されていく。
「まいどありー!」
全てお買い上げして貰えました。街の住人も欲しいとのことで追加で同じ量を並べるとそれも一瞬で完売した。
「たくさん売れたね!りょう」
「りょう様が出す食材は全部一級品ですもの」
「美味いのじゃ!」
完売を喜ぶ自称第一夫人と第二夫人。そして七輪でメザシを焼いて食べている自称娘のルシェ。
今ではみんな大事な家族だ。
「今日も良い買い物が出来ましたわ」
と満足そうに視察?に戻るリディア王女一同。
今日もノトスの中央広場のマーケットはどこも繁盛しているようだ。
りょう達は領主館に向かい、今日の晩餐の調理を始める。
「こんにちはー!」
「りょう殿昨日はお世話になりました。王女殿下一同は料理の美味しさと高級食材に驚きを隠せない様子でした!」
「そうなんですね!良かったです今日も調理しに来ましたのでご安心を♪」
グレオール男爵は嬉しそうに昨日のお礼を言ってきた。
「しかし…あまりの美味しさと高級食材の出どころを聞かれまして…面倒に成らないように今は濁しておりますが…王族に隠し事も出来ないので困っております」
「あっ、やっぱりそうなりますか…」
面倒事や徴税は避けたいところだな。実際アルカディアはアストリア王国の外に有る。グリーンゲートもギリギリ国外だ。
「アルカディアは地理的に国外からの輸入って形になりますよね?」
「はい、境界線の外未開の土地となっております」
「これだ!良い言い訳出来ましたね!」
「しかしその場合不法入国……」
「むむむ………」
「とりあえず調理しながらで良いですか?」
りょうは考えることを放棄した。
「昨日はコース料理で食べてもらったから今日は米を使った料理にしようか」
王族に定食を出してみよう。
「ボンズさん以前にお渡ししたシャリってまだありますか?」
料理長にりょうは尋ねる。
「はい、まだたくさんございます」
うーん、何が良いかな?あっ!そうだ!揚げ物路線で行ってみよう。
「こっ、これは!」
調理と下ごしらえ、揚げ方、二度揚げなどを教えて味見という名の昼食を食べる。うん!みんなぶっ飛んでました。
りょうはニーニャとファルカ、ルシェに今日は近場でキャンピングカーで泊まろうと提案をした。
そろそろノトスにレッサーウルフをまとめて納品しとこうという腹積もりだ。どうせ明日も調理しないとだし。
少し離れた丘の上に超大型キャンピングカーを出して。ゆったりとお風呂に入って過ごすことにした。
夕方にはファルカと狩に出た。近接はファルカに任せた。直ぐそこにレッサーウルフの群れを発見。鬼神ファルカが殲滅したのでりょうは収納をせっせと行った。鬼神ファルカ…恐ろしい娘。
その後はりょうが遠くの群れを狙撃しまくって討伐完了。二人で200匹も狩れた…その内の50匹はブラックホーンブルという危険な牛の群れだったので黒毛牛GET。魔物図鑑で非常に美味と出たのでこれはキープだな。
同じ頃
「本日の視察はいかがでしたか?」
「広場で昨日食べたアジの干物が売っていたので購入しました。とても美味ですわね。このアジという魚はもしかして海の魚でしょうか?」
「はい、この辺りに住まう商人の方から購入出来ます」
「販売していた殿方、昨日ウォーターリザードを販売していた方の様でしたがあの方の事でしょうか?」
「………はい」
少し探りを入れて来られたので必死にかわすグレオール男爵。
「ささ!夕食の支度が整っておりますので…どうぞ!こちらへ」
バンケットホールに案内し貴賓席に王女は座る。
料理長が出てきて、今日のメニューを説明する。
「本日は揚げ物を主体とした御膳でお出し致しますまずはこちらはオーク肉のカツ手前のゴマをすりソースでお食べ下さいませ。
隣に盛り付けていますはコカトリスの唐揚げで御座います。
味は付いておりますが塩か手前の柑橘を絞りかけたり白いタルタルソースでお召し上がりください。手前のお椀はシャリという穀物を炊いたもので主食でございます。スープは赤だしという海鮮の出汁が効いたスープになります。
副菜はホウレン草という植物のおひたしで御座います。サラダはキャベツというお野菜の千切り。ドレッシングかカツのソースでお食べ下さい」
「ではごゆるりと」
説明を終えボンズは厨房へ下がる。
「今、コカトリスって仰りませんでしたか?」
「「「コカトリス…」」」
「災害指定魔獣ですわよ?!」
バンケットホールに激震が走る。
『りょう殿…やり過ぎです…』
グレオール男爵は頭を抱える…
「どっ、どっ、どっちから食べましょうか」
パニックになりながらも震える手でナイフとフォークを持ち唐揚げに果実を絞ってナイフで切って口に運ぼうとする。ナイフで切ったコカトリスから煌めく肉汁がほとばしる。ゴクリと喉をならし口を開けるリディア王女。
「姫様、いけません!毒味を!」
必死に止めようとする側仕えはヨダレをたらしている。
「要りませんわ!」
「そっ、そんなーー!」
絶望的な顔をする側仕えをみて唐揚げをタルタルソースにつけて渡す。
二人はほぼ同時に口に入れると…
「「はぅ!」」
表面はカリっと、中の肉からは口内に広がる旨味溢れる煌めく肉汁、スッと歯で繊細に切れる繊維
二人は恍惚な顔をして上を向く…咀嚼する度に広がる旨味の波に二人は飲まれたのであった。
「はっ!これは危険ですわ!美味しすぎますわ!」
「たる、たる、たる…」
側仕えはまだ帰って来ない。
リディア王女はシャリを食べ口の中をリセットする。赤だしを飲み別の側仕えがすってくれたゴマにソースをかけ、オーク肉のカツを食べる…
「なんですの!ノトスには美味しいものしか御座いませんの?」
笑顔で上品に克つ、ガツガツと食べすすみコカトリスの唐揚げにタルタルソースをつけてまた波に拐われる。
「たる、たる、たる…はっ!いけませんわ!」
王女だけではなくバンケットホールの中は黙々と食事をする音だけが響いていた。
『結果的に誤魔化せたのか?…』
グレオール男爵は旨味の波に飲まれながら思うのであった。




