王女の名前は
翌朝、村人たちに亡くなった人々へのお祈りと何も出来なかったことを詫びる第三王女。そしてお礼を言いノトスへと向かった。
「素敵な人々でしたね」
リディアは明るく微笑んだ。
「そうでございますね、しかも昨日のウォーターリザードのお肉は美味しゅうございました」
「私も初めて食べましたが素晴らしいお肉でしたね」
実はリディアもウォーターリザードを食べるのは初めてだったらしく、あまりの美味しさに本気で驚いたようだ。
外からも騎士たちが昨日のウォーターリザードの話で盛り上がっているようだ。
「ウォーターリザードって一匹金貨500枚は軽く越えるれしいぜ!」
「え?マジか!!!」
「なんせB級モンスターだもんな!我々王国騎士団でも3部隊は必要だと思うよ!」
「団長!本気でありますか?」
「ああ、やつらは水辺を素早く動く」
「ひえー!すごい肉を食べたのですね!!!」
「お前たち!後少し1日の距離でノトスに着くから気を引き締めろ!」
騎士団の鋭気は昨日のウォーターリザードでかなり回復したようだ。
「姫さま!らしいです!かなり高級肉だったみたいです」
側仕えも興奮を隠せない。
実は村を出るときに少しだけウォーターリザードの肉をお裾分けしてもらえたらしい。
「今日の夜営は賑やかになりそうね」
夜営までの道中はここ最近ではみられなかった笑顔で進むことができた。
しかし、配給するための物資を積んでは来たのだけど…主に塩と砂糖と穀物。砂糖は贅沢品なので喜ばれるだろうけど…今のノトスに必要か?と疑問は尽きない。
私の謝罪を受け取って貰えるのだろうか…
夜営での食事は携帯食とウォーターリザードの焼肉である。王女の絶えない悩みに比例したようにみんなの笑顔が絶えない。
明日、ノトスに到着する。
王女は期待と不安を胸に眠りについた。
翌朝、無事にノトスへと到着した。
入り口では騎士が門番をし、人々が行き交っている。王家の紋章を確認した門番が急いで街に入って行った。
中からグレオール男爵が家族や臣下を連れて出てくると跪いて挨拶をしてきた。
「ようこそ。ノトスへ遠いところ僻地まで足を運んでくださり、光栄に思います」
騎士が名乗りを上げる
「こちらはアストリア王国第三王女リディア・アストリア王女殿下にあらせられる」
グレオール男爵は更に深く頭を下げる。
「お顔をお上げください」
臣下の礼が終わり街を案内する。
中央広場でリディアは足を止める。凄く賑やかな街の広場にはバザーや露店がびっしりと並んでいた。そこの一角からとてつもなく良い香りがするではないか。
「グレオール卿、あのお店は何を売っているのでしょうか?」
「ああ!なんとお目が高い。あそこの店こそノトスの名物。ウルフ肉の串焼きとウルフ肉も入ったミネストローネという具だくさんなスープの店舗でございます」
グレオール男爵は説明をしながら家臣に買って来るように伝える。
「ウルフ肉?レッサーウルフではなく?ウルフと申されましたか?」
護衛騎士団長が驚きのあまり聞いて来た。
「さようでございます。食べてみられますか?」
「まあ!宜しいのですか?」
リディアは嬉しそうに答え、側仕えが毒味をした物を受け取る。側仕えはまるで毒を受けたほどの反応を示すが、さすがは宮廷側仕えである。何とか耐えたようだ。
「それではいただきましょう」
串焼きから外された肉を上品に口に入れるリディア
「まあまあ!あらあら!美味しゅうございますね」
とミネストローネをスプーンで上品に食べる。
「………」
王女殿下御一行はそこから無言で食べ始めた。
「我々ノトスを救ったきっかけがこの一杯のミネストローネだったのです。まさに明日にでも飢え死にするかと思われたその日に、ここの店主がスープと肉の串焼きを小銅貨5枚で販売してくれたのです。その一杯が死んでいた我々の瞳に生きる火を灯してくれました。今も店主はこのミネストローネとウルフ肉の串焼きを同じ値段で売って下さって居るのです」
リディアは涙を流しながらミネストローネを完食し、広場の住人に向かい頭を下げた。
「皆様…4年間もの苦しい時に我々王家から何の手も指し伸ばすことができなくて、本当に申し訳ございませんでした」
深々と涙ながらに頭を下げるリディア王女に対して、住人たちは驚きを隠せないでいた。
王女が王家を代表し平民に頭を下げているのだ。
貴族からすれば、我々平民など同じ人間ではないと教育されてきた者ばかりには衝撃が大きすぎる。グレオール男爵も「お止め下さい」と必死にあたふたしている。
そこに、
「あれー?グレオール男爵女の子泣かしたら駄目だよー!」
「るんたった♪るんたった♪でーん!でーん、」
気の抜けたルシェの歌とともに、りょうが声を掛けてきた。
「君も元気出してね、美味しい者食べると笑顔になれるよ」
リディアにチョコレートの小袋を渡して食べるように薦めた。
「ありがとう存じます」
チョコレートを食べようとするリディアに、側仕えが「毒味も無しに、なりませぬ!」と声を掛けるがリディアはパクリと食べてしまった。
「美味いであろう!」
とルシェ、
「美味しゅうございます」
リディアは満面の笑顔になる。
「男爵ー!良いところで会いましたね。ウォーターリザード格安で買いませんか?今なら8割引きの金貨100枚でどうです?」
「「買った!」」
同時にリディアも声を上げた。
恥ずかしそうに頬を染めながら
「余裕がある分だけで良いですので…」
「金貨100枚ならば我々も買いたい…」
と騎士団まで参加して来た。
男爵も驚きを隠せない様子。
「宜しいのですか?りょう殿そのような値段で」
「ええ!大丈夫ですよ!最近ファルカと騎士団と赤き剣の訓練で狩すぎて困っているんですよね~あはは」
とちょっと魚が釣れすぎてみたいに言うりょう。
護衛騎士団は全員口を開けたまま目が点になってしまっている。
「……狩りすぎて?」
騎士団長は思わず聞き返した。
「ええ」
「金貨五百枚を超える魔物を?」
「はい」
「……何匹ほど?」
「さあ? 数えてないですね」
「…………」
騎士たちは、もう何も言えなかった。
「肉は良いぞ~妾も大好きじゃ!ウォーターリザードはうちのワンコたちも好物じゃもんな!パパ」
「ああ、そうだな!あはは」
とルシェとりょうは笑いあっている。
上品で穏やかな顔を少し引きつらせながら3匹購入したのであった。
「男爵!それじゃまた!」
「るんたった♪るんたった♪でーん!でーん!」
とりょうとルシェは去って行った。
そこでも隅の方で女はメモに情報を書き込む
『ノトスでは食糧が有り余っている可能性大、ウォーターリザードは格安の金貨100枚で売買されていた………なお、ウォーターリザードは一匹金貨500枚を超える高級魔物。にもかかわらず、売り手は「狩りすぎて困っている」と発言。
ノトスの食料事情について、再調査の必要あり』
リディアと騎士団はガッツポーズでりょうたちを見送った。




