冒険者ギルドの酒場にて
ある日、りょうは食べ物での感動に対して、この世界の酒に対する皆の反応について考えていた。
特に気になるのは、薄めの焼酎の水割りが好まれることだ。
皆の反応と酔っ払い方がおかしいのだ。
そして共通して言う。
「こんなに強い酒は、はじめてだ」
皆が口を揃えてそう言う。
気になったりょうは、赤き剣のメンバーと一緒にノトスの冒険者ギルドの酒場へやって来た。
「みんな、一杯奢るよ! 好きなもの呑んでくれ」
「おっ! 旦那様! 嬉しいねぇ」
「好きなものって言っても、酒はエールしか無いじゃない」
「そうだよ。エール以外の酒なんて、旦那様が出してくれる物以外は飲んだことが無いよ」
赤き剣のメンバーたちは、
――何を言ってるんだ?
とでも言いたげな顔で返してきた。
「おまっとうさん!」
ドンッ!
テーブルに置かれたのは、木のジョッキに入った、白く濁った見慣れない液体だった。
「「「かんぱーい!」」」
皆はグビッと飲み、
「プハーッ!」
と嬉しそうに息を吐く。
周りを見ても、冒険者たちは皆同じようにエールを飲んでいる。
りょうは恐る恐る口を付けた。
ゴクリ。
「……ん?」
なんだ、これ?
アルコールをほとんど感じない。
どぶろくやマッコリに近いが、それよりもさらに薄い。
微炭酸ではある。
だが、これは酒なのか?
りょうの感覚では、アルコール度数一~二%程度の、酸っぱいお粥のような飲み物だった。
それを、この世界の人間はエールと呼んで飲んでいる。
「なぁ、みんな」
「んー? どうしました?」
「……これで酔えるの?」
「じゅうぶんさね!」
「旦那様が出す酒がおかしいんだよ! あはは!」
なるほど。
りょうは少し考える。
それなら、これくらいならどうだ?
試しに果実水を注文すると、収納から焼酎のボトルを取り出した。
キャップに一杯。
これなら……果実水で割れば、アルコール度数は五%くらいになるだろう。
「なあ、これ呑んでみてくれないか?」
ほろ酔い状態のロンダに薦めてみる。
「へへっ! 果実水かい?」
「まあ、そんなところだ」
ロンダは疑いもせず、グビッと飲んだ。
「ん!」
そして――
「プハーッ!」
目を見開いた。
「これはなんだい?!」
「え?」
「こんな酒精の強い酒は、旦那様が出してくれる物以外では初めてだ!」
ロンダは驚きながらも、嬉しそうに杯を見つめる。
「果実水の甘い酒? ウマイ!」
「ロンダ、悪酔いするかもだから一気に呑まないでな!」
「ロンダ! ちょっと私にも呑ませて!」
ミランダがロンダから杯を奪い、グビッと飲む。
「まあ! すごく美味しいじゃない」
「「私たちも!」」
リーゼとターリャも杯を回し、口を付ける。
「……呑みやすくて強い」
「こんなお酒、初めて……」
「甘くて美味しいわね」
初めて呑む甘い酒に、四人は驚いていた。
その様子を眺めながら、りょうは納得する。
「なんとなく、この世界のお酒がわかったよ」
どうやら、この世界の酒造りは中世前期くらいの技術水準で止まっているようだ。
発酵によって作られる酒はあっても、蒸留酒のような高アルコールの酒は一般的ではない。
だからこそ、りょうが持ち込んだ酒は、この世界の人間にとって異常なほど強い。
「なるほどな……」
りょうが一人で納得していると、その時だった。
隣の席から声が掛かった。
「あの~……」
「ん?」
「私たちにも、その酒を呑ませちゃくれないか?」
「不躾ですまぬが……」
声を掛けてきたのは、背の低い男女二人。
男はずんぐりむっくり。
女性も太っているわけではないが、身体つきががっしりとしている。
二人とも、人間にしては妙に小柄だ。
りょうは二人をじっと見つめた。
そして――
「……ドワーフ?!」
その瞬間、りょうの目が輝いた。
この世界に来て初めてのドワーフとの遭遇であった。
ファンタジー!!!ドワーフと言えば酒!ドワーフと言えば…鍛冶!!
内心そんな事を考えながら、果実水をもう二杯注文し焼酎と混ぜ合わせドワーフたちに渡した。
「グビッ!………ぬぉぉぉお!」
「「うまい!」」
二人は目を見開きグビグビと一気に飲み干してしまった。
「プハー!」
目を閉じ余韻に浸る二人。
すると目のはしから涙が溢れ二人は見つめ合う。
うんうんと頷きあった後に
「わしらはドワーフの親子でモルツとホップと言います。どうかこの酒をわしらに売ってはくれまいか?」
「おいおい!いきなりだね!」
リーゼは間に入り、俺を守ろうとしてくれている。
「「「そーだよ!私らの分が減る」」」
赤き剣の総意が漏れた…
「別に構わないけど果実水と樽は自分たちで用意してくれよ」
「あい、わかった」
モルツがだいたいジョッキ20杯分の果実水の小樽を、カウンターで購入してきて戻って来た。そこに焼酎をキャップに20杯入れて混ぜる。
モルツの目線は俺の手のボトルに釘付けである。
「はい、どうぞ」
「…ああ、すまない」
とテーブルに金貨1枚を置いてスタスタと出ていってしまった。
「金貨…10万円相当…1000円くらいの焼酎のボトルのキャップに20杯が10万円…」
ぼったくってしまった?いや、金額はモルツが勝手に決めて置いて行ったからぼったくってはいない…はず。
「なんだったんだ?いったい…」
そこでりょうの隣で大人しく果実水を飲んでいたニーニャが
「ねぇ、りょう!お腹減ったわ」
「ごめんごめん、何か食べ物も注文してみよう」
カウンターに書いているメニューを遠目で見ると
黒パン 小銅貨2枚
芋の煮込み 小銅貨3枚
豆のスープ 小銅貨3枚
塩漬け肉 小銅貨5枚
焼き野菜 小銅貨3枚
と書いていたのでとりあえず全部頼んでみた。
「だいぶ物価も下がって来たみたいだな」
「やっと芋も腹一杯食えるようになってきたみたいだよ」
「旦那様がグリーンゲートにも畑を作ってくれたからだよ」
「はいはい!おまっとうさん!たくさん食べとくれ」
お料理が運ばれて来た。意外とうまそうだなと口を付けると…
芋の煮込みは塩味、豆のスープはまだましでトマトと豆を塩味でスープにしていた。ミネストローネを見習ってかな?
肉の塩漬けはホーンラビットとレッサーウルフだろうか?
「りょうのご飯と比べたら駄目ね」
ニーニャは残念そうに呟く。
でも芋1つを家族でスープにして食べる水準からみると、かなりの前進だよねと
りょうはにこやかに料理を食べた。
初めて見たドワーフと何となくわかったこの世界の酒造のレベルに満足した1日となった。




