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プロローグ 彼女は自分と読者の方が『普通』と誤解している

「うっひょ~! なに、あの男たち! 半裸で剣を振ってるとか、マジやべ~! 汗が飛び散って、髪が振り乱されて…… しかも胸元を隠そうともしない! マジエロい! 最高じゃんかよ!」



ロココ調に彩られた豪華な廊下の窓から、私『今野幸香いまのさちか』は、地上の稽古場で一心不乱に剣を振っている剣士の男性たちをがっつり覗き込んでいた。


なぜかというと、元の世界で換算すると大学生くらいの男たちが、肌着もつけずに上半身裸で鍛錬にいそしんでるからだ。



「上段に構えた時見えるのあの脇とか最高! ああ、マジ舐めて見てえ……やっぱ『男体』はマッチョに限るよなあ……」


……もし今私がやっている『覗き』がばれたら社会的に抹殺されるに違いない。そんな風に思いながらも私の目は、半裸の剣士たちに釘付けになっていた。




「あの筋肉も、いっかいかぶりつきてえ……こりゃ、今夜のおかずは、あいつで決まりだな……って、やべ、見つかった!」


だが、彼らに夢中になっている隙に、教官と思しき男がこちらに気づいたらしく、視線を向けてきた。


(あ……こりゃ私、転生して早くも人生終わった……)


男性教官にしてみれば『若い女の覗き魔』など、私の元居た世界では不倶戴天の仇敵だった。


当然私は『覗きだあああ!』と叫ばれることを覚悟した。

……だが。


(あれ? ……怒ってない……のか?)


その教官は、私を見て叫ぶどころか、にこやかに手を振ってきたのだ!


「……どういうことだ? つーか正気か? あの教官……」


一瞬私は「男性の体」に転生したものと思い身体をまさぐる。


……だが、今の私の体は……うん、やっぱり『女』だ。

胸も普通にある。窓に映る自分の姿も転生前と大差ない。


一瞬困惑しながらも、私は手を振り返す。すると周りにいた男たちも、逞しい胸筋を隠そうともせず、一様に良い笑顔でこちらに手を振りかえしてくれた。



「すっげー雄っぱい! たまんね~! ……というか、この世界のあいつらは、若い女に半裸を見られて、恥ずかしくないのか……?」

「あの……サチカさん? もうそろそろいいっすか?」

「え? ああ、悪い……」


そんな折に私は、隣にいた青年に声をかけられ、思わず向き直った。




ーーーーーーーーーーー



そうだった、こんなバカなことをしている場合じゃない。状況を整理せねば。

……確か私は昨日お見合いパーティで、30連敗したの腹いせにやけ酒を飲んでいたはずだ、そこまでは覚えている。



(思い出したら腹立ってきた……なんでお見合いパーティって女ばっかり高いんだよ……男性は500円で女が6000円とか、暴利すぎるだろ……)


だが、翌朝目が覚めたらこの中世ファンタジーのような世界に転移しており、この城のベッドで目を覚ましたのだ。そしてその現状をここにいる、この城の使用人『セドナ』に説明を聞いていたのである。



「んで、どこまで話をしやしたか?」

「え? ……うん、この世界が『乙女ゲーム』の世界ってことまでだったよな」

「そうっす。……んであっしは、サチカさんみたいな『転生者』を案内するチュートリアル役ってわけなんすよ」


べらんめえな口調とは裏腹に、このセドナという男もまた、若く美しい身なりをしている。

つい彼の胸元や股間に目がいきそうになるのをこらえながら、私は彼の話を聞きながら尋ねる。



「それで私は、この国のお姫様……違うか。『婚約者候補』として転生したってわけだよな?」

「そうっす。ライバルキャラがもう一人いるんすが、何とかその方よりも気に入られて『ブラス王子』のハートを掴んでつかあさい」

「なるほどな。プリンセスの座を奪い合う戦いってわけか」


ライバルキャラと一人の男を取り合うなんてゲームは、私の世界では珍しい。

そもそも私、前世ではエロ全開の抜きゲーしかしてなかったしなあ。



「それでさ、ブラス王子ってのはどんな奴なんだ?」

「……一言でいえば『ひきこもり』っす。優秀な兄王子への劣等感や、周囲の期待に潰されて……。極めつけにこの間、御前試合で一回戦負けしたせいで、すっかり自信を失ったんす」

「へえ……」


そういうと、セドナが顔を伏せた。


「それで王子様は……今は部屋から出れないんす。なんでまずは、関係を作るところから始めてくだせえ。最初はつっけんどんだと思いやすが、本当は素敵なお方ですから失望しないで欲しいんす」



彼はそういうが、私の感想は真逆だった。

……マジかよ、素敵すぎる。


『ひきこもりの男との巣ごもり恋愛』なんて、最高じゃん。

私はそういうシチュエーションに憧れていたんだ。


セドナは続ける。


「あと、割とこの世界の文明水準は魔法のおかげで高いんで、食事や衛生観念は安心して結構っすよ」


そう言われて私は周囲を見渡した。


一見この世界は中世だが、といれなど水回りは現代のものと大差ない。

そもそも『精巧な窓ガラス』や『ピアノ』が城のあちこちに設置されている時点で、もはや『中世』と呼ぶのは語弊があるのだが。


「魔法かあ……私は覚えれば使えんのか?」


だが、その質問にセドナは首を振った。


「いえ、本作で魔法を使える人はごく一部の人だけなんで。あっしやライバルさんも含め、使えやせん」

「なるほど。つまり純粋にコミュ力勝負ってことなんだな。……それでさ、もしブラス王子に嫌われたりしてバッドエンドになったらどうなんだ?」

「……それは……」


そう一瞬言い淀んだ後、セドナはぽつりと答える。



「婚約者として選ばれないこと、それ自体が罪と扱われるんで断罪エンドになりやす。『嘆きの修道院』ってとこに呼ばれるんすよ」

「なんだそれ?」

「……死ぬより辛い場所っす。ここからは覚悟して聞いてください」

「あ、ああ...」


そういうとセドナはぽつりと呟く。



「……不老の魔法と不妊の魔法、そして性病防止の魔法をかけられて……死ぬことも出来ないまま、お忍びでやってくる若い貴族の男たちの慰み者にされ続けるんす。朝起きてから寝るまでずっと……ああ、口にするだけでも恐ろしいっす……」



「……はい?」

一瞬、私は耳と自分の頭を疑った。


「女が男に」慰み者にされる?

しかも、この世界は乙女ゲームということもあり、どの男性も顔が整っているのに、だ。


歳を取ることも妊娠することもなく男を抱き続けることが出来るってことか?

なんだそりゃ! 罰どころか最高のご褒美じゃんか!


(……まさか……この世界って……!)


そう思って私は尋ねる。



「なあ、セドナ? 質問いいか?」

「何なりと」

「この世界ってさ。もしかして『男性がお金を払って女を買う』なんてこと、あるの?」

「……ええ。全年齢物のゲームっすけど、15歳向けの物語なんすから……」



やっぱりだ!

もう、読者諸君も気づいただろう!


この世界は「※女男の貞操観念が逆」な世界なのだ!

(※もう気づいてると思いますが、貞操観念が逆なのはサチカの方です……)



だから、女が男性に大事にされ、そしてセックスも全部向こうから求めてくるということだ!



ブラーーーーボウ! 何と素晴らしいことだ!


(よし、決めた! 私は『断罪エンド』を目指してやる! ……けどその前に王子のことも思いっきり抱きつぶしてやりてえなあ……ヒヒヒ、楽しみすぎるぜ……)



セドナは申し訳なさそうな表情でこちらを見ているが、私にとっては寧ろプラスでしかない。

そう思いながらも、私はにんまりと微笑んだ。

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