【書籍発売記念SS】婚約者からの贈り物は、密入国できるフリーパスでした(中編)
レティシアを包む光が強くなり、召喚の魔法陣へと引き込まれる。
服がビリビリに破けようが、手に持つ魔石がしゅわっと溶けようが、幾度もの召喚を繰り返してきたレティシアにとっては、もはや慣れた光景だった。
「ロイドは魔獣討伐に出向いているようだが、さしたる問題はない」
レティシアは機嫌よく頬を緩ませると、わずかに残った魔力で、風圧を遮る。
かろうじて守りきった子ども用ワンピースを手に取り、召喚の出口間近でひらりと身に纏った。
『上手く使えば、魔法攻撃を防ぐ盾にもなる』
そんな方便で言いくるめ、ロイドの剣を勝手に取り上げたのは一ヶ月も前のこと。
『いつ魔石が必要になるとも限らん。私がやっておいてやる』
素直なロイドを丸め込み、レティシアは慣れた手つきで、剣柄に魔石を埋め込んでみせた。
骨ごと貫くことも可能な、魔法帝オリジナル……世界に一つの優れものだが、それだけでは終わらない。
実はレティシアが召喚の魔法陣をこっそり刻んだことを、ロイドは知らなかった。
――つまり今回の召喚先は、ロイドの愛剣に埋め込んだ魔法陣。
いついかなる時も腰に下げているその剣は、ロイドの居場所を示す目印として、この上なく都合がよいのだ。
「魔獣討伐などさっさと終わらせて、辺境伯領でのんびりと羽を伸ばしてやる」
準備は万端。
威厳ある魔法帝の姿からは想像もつかないほど、可愛らしい幼女になったレティシア。
満を持して、光あふれる出口へと吸い込まれていったのである――。
***
「隊列を維持しろ。深追いはするな!」
「ですがロイド将軍、森へと逃げた魔獣はどうされますか?」
「抜けた先は、魔法国アストリアだ。国境を侵せば、いらぬ諍いの火種になる」
武装した兵を率いて越境などすれば、せっかくの友好にひびが入りかねない。
隊列を崩して追おうとする兵士を制止、ロイドは粛々と剣を振るう。
「それにしても、すごい剣ですね。魔導具ですか?」
「まぁ、そのようなものだ」
正直、ここまでとは思わなかった。
剣柄に埋め込まれた魔石が赤々と輝き、その切っ先は、振るうたびに淡い光を散らしていく。
魔剣のごときその剣を薙ぐと、触れたところから魔獣の肉が裂けていった。
「魔法攻撃を防ぐ盾になるから、とレティは言っていたが……」
押し寄せた魔獣の群れはあらかた片付き、だが殲滅の網をかいくぐった最後の一匹が地を這い、若い兵士に牙を剥く。
「……ッ、まずい」
どう足掻いても、剣の届く間合いではない。
舌打ちをし、ロイドは迷いなく剣を投げ放った。
魔力を纏った切っ先はゴッと唸りを上げ、寸分の狂いもなく飛んでいく。
――はず、だったのに。
次の瞬間、目を灼くほどの光が、辺りを白く染め上げた。
何事かと訝しむ間もなく、ぽこんと軽快な音がして、ロイドは我が目を疑った。
飛び出てきたのは、まさかの幼女。
その重さで、ぐん、と剣の軌道が下に向かって逸れていく。
「はッ!? レティ!?」
「……ぬおおおおおッ!」
「な、なぜそこから!?」
剣は失速することなく、幼女ひとりぶら下げたまま、なおも突き進んでいく。
「ロ、ロイド! なぜ剣を投げたッ!?」
「……」
状況が呑み込めず、ただ茫然と佇むロイド。
そもそもロイドは、剣柄から幼女が飛び出てくるなど夢にも思っていない。
そんなことを言われても……思わず答えに窮するが、問答している場合ではなかった。
お読みいただき、ありがとうございました!
もう少しだけ続きます……!






