【書籍発売記念SS】婚約者からの贈り物は、密入国できるフリーパスでした(前編)
読んでくださった皆さま、ありがとうございます!
フェアリーキス様より、6月29日に書籍を発売していただきました。
発売を記念して、SSを書かせていただいております。
ディーンが予想以上に邪魔をしてきて、一話にまとまらず……SSではありますが、複数話となっております。
「これは……?」
広間の中央に天高く積まれた祝いの品を前に、レティシアは困惑していた。
城内の広間に据えられた長い食卓には、輝くばかりに白い卓布が、皺ひとつなく張られている。
その上には、魔法帝レティシアの専属料理長による珠玉の料理が、所狭しと並べられていた。
香草を詰め、飴色に焼き上げた肉料理。
色鮮やかな果実を溢れんばかりに盛った銀皿。
いずれも祝いの日に相応しい、心尽くしの品ばかり、――なのだが。
問題はその料理に一切手をつけられず、ただ眺めるしかない、という一点に尽きる。
「折しも今日は、レティシア様の誕生日。加えて祝意を表すため、トルティア王国からも使節団が来訪しています」
大変めでたい晴れの日でございます、と告げるなり、クロニクルがパチンと指を鳴らした。
例年の倍はあろうかという祝砲が次々に放たれ、城の空気を震わせる。
「レティシア様、おめでとうございます!」
「皆、ありがとう。ではすぐ食事を……」
一日中トルティア王国からの使節団をもてなし、あまつさえ余興と称し、魔法師団の演習までレティシア自ら披露した。
ロイドの祖国なので大サービス。
今日は我ながらよく働いた。
おかげですっかりお腹ぺこぺこ……誕生日だなんだと騒がれるより、レティシアはとにかく、目の前の肉に齧りつきたかった。
「お食事の前に、お祝いの品がございます」
「……」
だが無情にもクロニクルが示したのは、贈り物の山だった。
トルティア王国から、魔法国アストリアの貴族から、ご丁寧に四方を囲うように積まれている。
――これは長引きそうだ。
飯にありつくまで、あと小一時間はかかると見ていいだろう。
読み上げられる贈り物の数々を見遣り、レティシアは思わず腹のあたりを押さえた。
「魔獣対応により本日は欠席されましたが、セシリオ辺境伯から頂いた贈り物もございます」
「ほぅ、セシリオ辺境伯から?」
視線を移したその先に、手のひらほどの箱がある。
元来、誕生日になどさして興味はないのだが、ロイドからの贈り物となれば話は別。
……今すぐ開けたい。
だが婚約を公表していない以上、公の場で特別扱いするわけにもいかない。
万人の前で頬を緩めようものなら、何を勘繰られるか分かったものではないのだ。
「トルティア王国より参られた使節団の諸君。本日は各所を視察され、さぞ疲れたことだろう」
であれば一刻も早く、この場を閉じればいいだろう。
魔法帝レティシアから放たれた労いの言葉に、使節団が恭しく頭を垂れる。
「本来であれば、このままもてなしの席に加わるべきところだが、急ぎ処理せねばならぬ政務が入った。私はこれで失礼するが、どうかゆるりと身体を休めてほしい」
そう、これは政務の一環なのだ。
ロイドからのプレゼントを早く開けたいだけ、などという理由では断じてない。
クロニクルが物言いたげに見守る中、我ながら完璧な建前を前面に押し出し、レティシアは威風堂々その場をあとにしたのである。
***
「では、早速ロイドのプレゼントから……」
「レティシア様、お待ちください! 気が逸るのはもっともですが、長年の側近であるボクの! このボクのプレゼントから開けてください!」
「ロイドのプレゼントを見たくて退席したのに、なんでお前のを一番に開けねばならんのだ」
しれっと付いてきた挙げ句、自分のプレゼントを一番に開けろと要求する魔法師団長ディーン。
毎年ろくでもない物を嬉々として渡してくるため、開封するなら最後にしたい。
ディーンとクロニクル、そして聖獣ヴェリアル。
なんとか上手く場をまとめ、執務室に大集合した面々の注目を浴びながら、レティシアは渋々ディーンからの……可愛いリボンの巻かれたプレゼントを紐解いた。
「ん、何だこれは?」
中から現れたのは、謎の木箱。
用途が分からず斜めに傾けた途端、ガチャリと不穏な音がする。
「試しに魔力を流してください」
「光った……? ディーン、もしかしてこれは魔道具か?」
「はい! レティシア様のために開発して早一ヶ月。ついに完成しました!」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに破顔するディーン。
胡散臭げな魔道具を見遣り、クロニクルとヴェリアルは静かに距離を取った。
「一体、何に使うんだ?」
「レティシア様、魔力を流したまま中央のボタンを押してください」
示されるまま、箱の中央にあるボタンをぽちりと押す。
すると錆びた歯車が嚙み合うような、ギギ、という音が耳に届いた。
――『ディーン、もしかしてこれは魔道具か?』
――『はい! レティシア様のために開発して早一ヶ月。ついに完成しました!』
まるで時が巻き戻ったかのように、寸分違わぬ会話が木箱の中から流れ出す。
「……私の声だな」
「もとは罪人の自白や尋問内容を記録するために開発を始めたのですが、魔法式の構造上、量産が難しく、泣く泣く実用化を断念しまして。そこで今回は試作品を改良し、レティシア様専用に調整した次第です!」
「……」
貰ったところで、活躍する場面はとんと思い浮かばない。
だが例年の珍品に比べれば、これでもまだ有用な部類と言っていいだろう。
レティシアはその木箱をポケットへと押し込み、念願のロイドからの贈り物へ手を伸ばした。
「通行証と……身分証?」
収められていたのは、精巧な細工の施された通行証と、羊皮紙に記された身分証。
通行証はトルティア王国と魔法国アストリアを、いつでも自由に行き来できる優れもの。
そして身分証は、魔法帝であることを明かさずとも、トルティア王国で不自由なく過ごせるよう用意されたものだった。
これさえあればトルティア王国で幼女となった場合も、堂々と公の場に立てるのだ。
「見ろ、クロニクル。これはなかなか……無用な詮索を受けずに済むのはありがたい」
「『トルティア国内の貴族令嬢』、という肩書きでございますね」
花でもなければ宝石でもない。事務的で、色気の欠片もない。
だがなんとも不器用な、ロイドらしい贈り物だった。
なお、早々に出番を終えたディーンはロイドの贈り物を前にして、不服そうに眉間の皺を深くしている。
「では、こちらもぜひ」
クロニクルが恭しく差し出したのは、子ども用のワンピースと防護布に入った魔石。
そして公務がきれいに調整された、レティシアのスケジュール表だった。
「……休みを取っても、大丈夫なのか?」
「勿論です」
ロイドから貰ったクマのぬいぐるみをレティシアへと手渡し、クロニクルが微笑む。
いつでも行き来できるよう、魔法陣を埋め込んだぬいぐるみに魔石を落とすと、その輪郭が光り出した。
「それに、師団長も説得済です」
「ディーンが? それは珍しいな……」
いつもなら必死の形相で邪魔をするはずなのに。
お前も少しは成長したのだな――と言いかけた瞬間、ディーンがすかさずレティシアの真横に突っ込んできた。
「おひとりで行かせるとでも思いましたか? ボクも護衛として同行します」
「は!? いらん、ついてくるな! ええい、離れろ」
「嫌です!」
「ふ、ふざけ……おいクロニクル……ヴェリアルでもいい! こいつをどうにかしろ!」
なおヴェリアルは我関せずとばかりに、執務室の端でのんびりと欠伸をしている。
「大人しく了承するなんて、おかしいと思ったんだ。くそ、ディーン離せ」
「師団長、分かったって言ってくれたじゃないですか!? ダメです!」
「黙れクロニクル! ボクはともに行くと決めている……ッ!」
揉みあう三人。視界を覆うほどの眩い光が執務室を包み込む。
「ディーン、いい加減に――ッ!」
半ば怒鳴り気味に、レティシアが声を荒げたその直後。
しがみついていたディーン諸共、引き剥がそうとしていたクロニクルもまたレティシアの魔力に弾かれ、執務室の壁際まで吹き飛ばされた。
「ぐはッ!?」
二人がもんどり打って床に転がるのを尻目に、レティシアは光の中でふわりと微笑む。
「……大人しく、私の帰りを待っていろ」
言い終わるが早いか、クマを抱えたレティシアを包む光が強くなり――。
そのまま、執務室から姿を消した。
お読みいただきありがとうございました!
引き続きお楽しみいただけますと幸いです。
【再び、お知らせです】
フェアリーキス様より、書籍発売中です!
読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
書籍限定ストーリーなども追加されていますので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです……!
書店によってはお取り扱いがない場合もございますので、こちらからご注文いただけると確実です▼
ぜひよろしくお願いいたします!
https://www.j-publishing.co.jp/fairykiss/book-36349/






