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【書籍化・コミカライズ進行中】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


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33/46

33. ――この結婚は、無効だ。


 しん、と静寂が落ちた。

 白い霧が大広間に満ち、しゅうしゅうと音をたてている。

 無数の氷の刃は、見る間に溶けて水になり、そして熱を持って白い湯気となって消えていく。


 全部受け止め、すべてを消した。

 特大の攻撃魔法を、小さな身体で。それも片手で、跡形もなく。


 侵入者が初めて動きを止めた。焦ったように目が泳ぐ。


「ディーン」


 幼女レティシアが、ゆっくりと前へ進み出た。

 うっそりと微笑みながら、その目がディーンを真っ直ぐに見据える。


「……お前、この私に刃を向けたな?」

「は!?」


 ……幼女のふりは、もう終わり。

 小首を傾げる姿は可愛らしく、だが凝縮されたレティシアの魔力が大広間を満たしていく。

 魔法師達がひとり、またひとりと崩れ落ちた。


「ち、ちが……違うんです、レティシア様! 魔法国に帰りましょう。ボクが迎えに来ました」


 その言葉に、国王の顔がますます色を失くしていく。


「ん? 何が違うんだ? ……困ったな、おかげで髪が乱れてしまった」

「い、いえいえ、あの程度、挨拶です。攻撃のうちには――」

「そうか」


 レティシアはまた一歩、前に踏み出した。

 借りてきたネコのように大人しくなった侵入者……ディーンが、レティシアに気圧され、反射的に半歩退く。


「では私も久しぶりに、特大の挨拶をお見舞いしてやろう」


 にっこりと微笑みながら、幼女レティシアは続けた。


「覚悟しろ」


 直後、ディーンの身体が何かに押しつぶされるようにして、ぐしゃりと地に伏す。


「ぐは……ッ」


 重力魔法。音もなく、予備動作もなく、ただ一言で地に這わせる。

 レティシアはゆっくりと歩み寄り、這いつくばるディーンを静かに見下ろした。


「私は『待て』と言ったはずだ」


 幼女の口から、低く、静かで、冷たい音が零れ落ちる。

 レティシアは屈み込み、身体を起こせないディーンへと、そっと手を伸ばした。


「……待てもできない()()には、相応の仕置きが必要だと思わないか?」


 小さな指先が、ディーンの顎を持ち上げる。

 いつもの無垢な笑顔は消え、影のある微笑みをたたえてそう告げる。

 その場にいた者は圧倒され、誰一人として言葉を発することができなかった。


「し、仕置き……?」


 この体制で、一体何をされるのか。

 ちょっぴり期待をして、ドキドキした顔でレティシアを見つめる。


 次の瞬間。


「ぎょえええええええッ!?」


 身の毛もよだつような雄叫びが、大広間に響き渡った。

 レティシアが触れた場所から、ディーンの魔力がごっそりと抜き取られていく。


「ま、魔力が……! 抜かれ……!」

「ほお」


 レティシアは微笑みを絶やさない。


「驚いたな。この犬は、人の言葉を話すらしい」

「ちょ、レティシア様、もしかしてめちゃくちゃ怒って……それ以上は死にま――」

「黙れ」

「はいぃぃぃ……」


 糸の切れた人形のように、ガクンとディーンが崩れ落ちた。


 完全な魔力切れ。

 レティシアはゆっくりと立ち上がった。


 奪った魔力は体内に滞り、芯から熱を持ち始める。

 ぶさねこヴェリアルが舞い降り、口に咥えていた物をパサリとレティシアの足元に落とした。


 それは、大人物のワンピース。

 すぐに脱ぎ着できるようにと、アリエッタが準備してくれたものだった。


(……随分と気が利くじゃないか)

《これ以上は、面倒なことになりそうだからな》


 次の瞬間、ヴェリアルの周囲に風が巻き起こる。

 竜巻状の風の壁が、レティシアをすっぽりと覆い隠した。

 誰も動けない。息をするのも忘れたように、ただその光を見つめている。


 ふと風が止み、そこに立っていたのは、見たこともないような絶世の美女だった。

 白いワンピースが、光の残滓をまとってわずかに輝いている。


 ロイドは大人になったレティシアの姿を見遣り、身動ぐことすらできなかった。


「レティ……レティシア・アルヴェーヌ?」


 大切にしていた幼女と、目の前から消えた美女が同一人物だったと、ロイドはやっと気付いた。

 そして敵国の魔法帝と同名なのが、偶然ではないことも。


 視線を落とし、何を言うべきかレティシアは思案する。

 大人の姿で言葉を交わすことは、あれが最後だと思っていたが、図らずもまた会うことになってしまった。


「……幼女を妻になどと、よく受け入れたものだ」


 結局出てきたのは、自嘲めいた言葉だった。


「世話になったな。言っただろう? ……お前を開放してやると」


 一ヶ月しか過ごしていないのに、ずっと昔から一緒にいたような気がする。


「さぁ、ヴェリアル。帰るか」


 セシリオ辺境伯邸の飼い猫が、まさかの聖獣ヴェリアル。

 もはや言葉も出ない国王を鼻で笑い、レティシアは満面の笑みで宣った。


「――この結婚は、無効だ」


 誰一人として逆らうことは許されない、魔法帝としての言葉。

 揺るぎない眼差しで、残酷な言葉を平然とロイドに言い放つ。


 ロイドが何かを言いかけた次の瞬間、そこには誰もいなかった。

 ぶさねこヴェリアルも、這いつくばるディーンも、魔法帝レティシアも、すべてが夢だったかのように消えている。


 大広間に残されたのは、終わらない静寂だけ。

 ロイドは誰もいなくなった場所を、ただ見つめていた。







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― 新着の感想 ―
すごいかっこいい強いすき! もうレティシアがかっこよすぎて、語彙力を無くしました。どっかに置いてきた。
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