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【6/29書籍発売!】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


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32/49

32. 我が愛しの姫『奪還イベント』


 先だっての魔獣討伐につき、改めて確認したいことがある。

 そんな国王の呼び出しを受け、ロイドとレティシアは王宮へと出向く。


 ……本当なら、もうここにはいないはずだったのに。

 三才児姿で世話になった手前、突然消えるのも憚られ……去るタイミングを決めあぐねてしまう。


 相変わらずこちらを値踏みするように、国王は注意深く視線を送ってくる。

 それなりに認めてはいるが、腹に一物ありそうで、正直苦手なタイプだった。


「手に持っているのはなんだ?」

「れてぃの、ねこ」

「見れば分かる。何故連れてきた」


 小太りのネコは、ふん、と鼻を鳴らし、レティシアの腕の中から国王を一瞥する。

 本来であれば王宮に獣を連れ込むなど……謁見の場に同席するなど、許されるものではない。


 だがレティシアが珍しく我儘を言ったところ、なぜか国王から異例の許可が下りた。


「……さいきん、だれかにみられてるきがする」


 レティシアは、ヴェリアルをぎゅっと抱き直す。


 別に魔力反応があるわけではない。

 かといって誰かに覗かれているわけでもない。

 ただうまく言えないけれど、何となく見られているような嫌な感じだった。


「このこがいると、あんしんする」


 国王は少し考えるが、それ以上は何も言わなかった。

 ヴェリアルは薄目を開けて、レティシアを見上げる。

 一番に相談したのはヴェリアルだったが、彼もまた同様に、覗かれているような気配を感じていた。

 魔力も戻っているため大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。


「では先日の一件ですが――」


 すっかり顔なじみの魔法師が読み上げたところで、ドン、と衝撃音が響いた。


「て、敵襲です――!!」


 大広間の外から、騎士が血相を変えて飛び込んでくる。

 言い終わる前に、二度目の衝撃が来た。


 今度は一度目の比ではなく、王宮がぐらりと揺れる。

 そして三度目。ドォン、という轟音とともに、王宮の外壁が蜘蛛の巣状にひび割れ、砕けた破片がバラバラと床に散らばった。


 王宮の騎士たちが、一斉に剣を抜く。

 ロイドもまたすらりと剣を抜き、レティシアとヴェリアルをそっと背後に押しやった。


 どこかで感じたことのある、濃密な魔力の気配。

 ……知っている魔力だ。レティシアとヴェリアルは、思わず顔を見合わせる。

 怒声が飛び交い、崩れ落ちた外壁の向こうに人影が見えた。


 侵入者はたった一人。

 太陽を背に、ローブをはためかせながら、まるで魔王さながらに降りてくる。


「その娘を寄こせ」


 呆然と見つめる騎士達を嘲笑うかのように、侵入者はレティシア達のいる大広間へと足を踏み入れた。


「ネコもだ」


 なぜか太ったネコも一緒に所望し、広間に静寂が落ちる。

 最近夜更かししすぎて寝不足気味のヴェリアルが、そろりと薄目を開けた。


 排除しようと侵入者に切りかかった騎士達が、一瞬で弾き飛ばされる。

 続いて剣を構えて突っ込むが、侵入者は一瞥すらせず、指先をスッと滑らせた。


 風の刃が横薙ぎに走り、剣ごとまとめて吹き飛んでいく。

 衝撃で床石が砕け、両脇の壁がひび割れる。


「すべての魔法師を呼んできてもいいぞ? 五分、待ってやろう」


 王宮付きの魔法師が三人、魔法を展開しながら前に出る。

 侵入者はそちらをちらりと見て、小さな虫を払うように手を振った。

 次の瞬間、三人分の魔力が霧散する。魔法式を起動する前に、外側から圧壊させられたのだ。


 魔力を根こそぎ押さえ込まれた魔法師たちは膝をつき、肩で息をしている。

 単純な魔力量が、桁違い。圧倒的だった。


「この盗人め!!」


 そしてロイドを見咎め、侵入者は高らかに叫んだ。

 続けて、ロイドの背に隠れていたレティシアに目を留める。


「我が愛しの姫をお返しいただく!」


 我が愛しの姫!?


 突如始まった侵入者の『奪還イベント』に早くも飽きて、持参した革袋にのんびりと口を付けていたレティシアは、ぶっと水を吹き出した。


 何を言ってるんだ、アイツは!?


 侵入者のローブは防護布。貴重な布をこんなふんだんに使っている国は他にない。

 圧倒的な魔力に、愛しの姫宣言。

 見る者が見れば、魔法国に所属する魔法師だと一目で分かってしまう。


「我が愛しの姫……あの幼女が?」


 国王の眉がひくりと動いた。侵入者の視線の先にはレティシアがいる。

 それもこの状況で、のんびり水など飲んでいる。


 魔法帝に娘はいないはず。

 ただの娘ではないと気付いていたはずの国王の顔に、じわりと汗が滲んだ。


「……レティを返せだと?」

「レティ!? 愛称で呼んでいるのか……!?」


 ロイドが切っ先を侵入者へ向け、真っ直ぐに対峙する。


「お前ごときが呼び捨てにしていいお方ではない!!」


 ゴォッ、と風が巻き起こった。

 収束した魔力が光の塊となって襲い掛かる。

 ロイドは剣を一閃し、火花を散らせながら真っ二つに切り裂いた。


「ロイドだったか? こんな弱小王国の将軍ごときが、ボクに勝てるとでも? お前、気に食わないんだよ」

「レティは俺の妻だ」


 ロイドの言葉に、侵入者の形相が変わる。

 侵入者が腕を振るうたびに、火球が、風の刃が、次々と形を変えて襲い掛かった。

 流れを読みにくい。しかも一発一発が重い。剣で弾くたびに、ロイドの腕が押し戻される。


「……すごいな。剣で魔法を弾くのか」


 レティシアは目の前で繰り広げられる光景に、ほうと感嘆の息を吐いた。


 ロイドは強い。それは認める。

 判断も早く、魔法の動きを読む目も確かだ。

 接近すれば互角以上に渡り合えるだろう。


 だがいくら何でも、――相手が悪い。


 距離を詰めようとしてロイドが踏み込んだ瞬間、足元の床石がパァンと爆ぜた。

 飛び退いた隙に、氷の刃が飛んでくる。弾くと、次は上から火球が。

 躱しても躱しても、侵入者の魔力は尽きることなく、ロイドはじわじわと追い詰められていく。


「くそ……お前、魔法国の人間だな?」


 剣が届く間合いまで、どうあがいても入れない。

 ロイドは歯を食いしばり、真正面から踏み込むが躱される。

 魔法師達が集まり、再度攻撃をしようとしたところで、ロイドは片手を上げて制した。


「潔いな。英断だ」


 侵入者は肩をすくめ、ゆっくりと右手を持ち上げた。

 渦巻く魔力が、一点に収束していく。


「これで終わりだ。ロイド、消えろ……!!」


 巨大な魔力が無数の氷となって、轟音とともに放たれた。

 縦横無尽に伸びる氷の刃は、ロイドだけでなく、その周囲一帯を薙ぎ払うように広がっていく。

 その進行方向に、――レティシアがいた。


「レティシア、隠れていろ!!」


 ロイドが叫んだ。彼女を護ろうと後ろへ飛びすさりながら、小さな身体に向かって手を伸ばす。

 ――その時。

 レティシアが、ふっと微笑んだ。


「……あんずるな」


 小さな胸を張り、ロイドと身体を入れ替えるようにしてふわりと、前に立つ。


「わたしが、おまえをまもってやろう」


 氷の刃が容赦なく、レティシアへと襲いかかった。





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