#48
学園都市というのは、国立学校が一度に集っている特別な都市である。
多くの学生や研究者、博士が集っており、それにより、多くの研究資料もここに集約されていた。
そして学園都市には将来の商社マンとなる人材の育成も行われており、そのため多くの物資が港湾地区では出入りされている。
「よっと」
そんな港湾施設の旅客船ターミナルの駐車場に車を停めると、四人は車を降りた。
「全員、行けるか?」
レオポルトが聞くと、車に同乗していたアニ・ジャクソン・ヴァージニア全員が頷く。
彼らは皆、一様に武装をしており、全員がカチコミの準備を終えていた。
「よしっ、じゃあちょっと学生証を貸してくれ」
「え?まあいいけど…」
いきなり学生証を借りるといったレオポルトに少々首を傾げつつも、全員がレオポルトにそれを渡すと、彼はそこで学生証をポケットから取り出した小さな麻袋に入れた。
「え?何それ」
先ほどの傀儡魔法の時のような質問をしてしまう。
「簡単な付加魔法だ」
「付加魔法?」
「強化魔法じゃねえのか?」
「それとは少し意味合いが違うな」
レオポルトは学生証を入れる麻袋を裏返すと、そこには小豆色の魔法陣が印字されていた。
「わっ、何それ?」
「このインクはなんだ?初めて見るぞ」
ジャクソンが初めて見るものに首を傾げた。流石の観察眼と言ったところだろうか。
「それは俺の血だ」
「えっ!?レオの血!?」
まさかの原材料に驚くヴァージニア。ちょっと口を塞ぎたいのは俺だけじゃ無いはず。
「安心しろ、任意で自分の体液を使った魔法使用は許可されている」
「ついでに、他人に危害を加えるような呪術系の魔法も禁止ですね」
そこで古代魔法関連の法律をみっちりと覚えさせられたアニが補足で情報を言う。
さすがだ〜、こっちも父親に昔にやらかしたから派手に怒られたよ。
「そうだ、んでこいつはちょっと前に作った付加魔法という文字通りの魔法だな」
そこでさっきの傀儡魔法と違って軽く説明をする。
「付加魔法は強化魔法とちがって身体的ではなく、魔導に使うための魔法だな」
「ほぉ〜」
「え?こんな魔法あったっけ?」
「えっと…」
初めて聞く魔法にやや困惑気味の他三名。まあ無理もない。
「産業革命以降の技術革新で魔導具の性能が上がりすぎてほぼ使われなくなったし、八年前に教育課程からも外された魔法だからな」
「ああ、なるほど」
「そりゃ知らないわけね」
付加魔法が消えた理由に納得するジャクソン達。
そう、魔導具に必要不可欠なルビーと辰砂、感応石の精錬技術が格段に上がったことでこう言った魔導具を稼働効率を上げさせるための魔法は必要なくなってしまったのだ。
常に八〇%の効率を出せるようになった今では、通常は五〇%で一時的に一〇〇%に効率を上げられる魔法は廃れてしまうものだ。
「まあまだ軽い実験だけで、実証実験は済ませていないから理論崩壊を起こしたらすまん」
「「「え?」」」
語られたとんでもない欠点を聞き、軽く絶句する三名。
「あっ、あの…」
「やっぱ要らないっす」
「あの、危なくないですか?」
そして追加装備を拒否しようとしたが、
「こいつなかったら古代魔法防げんぞ?」
「「「…」」」(・×・)
付加魔法の利点を聞き、三人はほぼ同じ顔を浮かべる。前門の古代魔法、後門の自爆。どっちを取るべきか割と悩む代物だった。
「まあ大丈夫だ。小父が部隊を率いて到着するまでの時間稼ぎ程度にやり合っていこう」
「「「自爆して大怪我したらどうするんですか(だよ)(のよ)!」」」
三人から盛大なツッコミをお見舞いされた。解せぬ。
そして(渋々ではあったが)学生証に追加装甲を貼り付けてから四人はレオポルトの携帯を頼りに旅客ターミナルから歩いて貨物地区に入る。
トラックが多く行き交う場所なので、学生証を見せれば年中お忙しい警備員さん達はすんなりと通してくれた。まあ魔学院の場合は特に荷物を注文して船で運ばせることが多いので、割と簡単に通してくれた。
銃?ここじゃあ見える位置に銃を持っておくのが礼儀だよ。
「んで、エリカちゃんの場所は?」
「この角を曲がった先の倉庫のようだ」
アスファルトで舗装された港湾地区の角を曲がると、
「おっ、当たりだ」
視界の先。夜の明かりの中、街灯に数回照らされて一羽の小鳥がレオポルトの指先に降り立った。
「わぁ、可愛い」
見た目がふわふわモコモコの小鳥にヴァージニアが思わず呟くと、その小鳥は目の前で美しい毛色からカラスも驚くほど黒い液体状のモノに変化した。
「…うん、そうか」
そこで小鳥は数回嘴をパクパクさせると、相槌を打ってレオポルトは小鳥から情報を聞いていた。
「うげっ」
その光景に若干ジャクソンは引き気味に見ていた。
「分かった。報告ありがとう」
「ピッ」
すると小鳥は毛色を再び元の文鳥の毛色に変わると、翼をはためかせて倉庫の方に飛んで行った。
「よしっ、行くぞ」
「おうよ!」
「了解!」
「行きましょう」
そこで全員が銃を構えると、一斉に倉庫の方に走り出した。
港湾地区の倉庫の中で、数名の人影が自動小銃を持って周りを警戒していた。
「状況はどうなっている?」
その中の一人が部下らしき人物に聞く。彼らは顔の全体を布で隠している影響で声も曇り、男か女かもわからなくなっていた。
「はっ、対象は予定通り搬出予定です」
報告の通り、倉庫の出荷用コンテナの中には艤装された生活空間のあるコンテナが混ぜられ、その中に薬と魔法で眠っているエリカがいた。
「分かった。コンテナが出るまで警戒を続けろ」
「了解」
そこで部下は消えると、大きくその人はため息を吐く。
「あの少女を生かしておけとは一体どういうことなのやら…」
そう呟いた直後、倉庫に乾いた音が響いた。
「襲撃だ!」
「武器を取れ!」
部下が叫ぶと、銃声が聞こえて同時に電撃魔法や放水魔法が放たれ、倉庫が戦場と化した。
ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!ッ!
「おらおらおらおらぁ!!」
突入を敢行したジャクソンとヴァージニアは、銃の引き金を引いて部屋にいる不審者全員を攻撃していく。
「かかってきなさい!」
ヴァージニアが叫ぶと、その直後に目の前に電撃魔法が飛んでくるが、二人の展開していた障壁魔法で防がれる。
「ヒュ〜、さっすがレオ謹製」
「暴走させるなよ。俺たちの防弾チョッキだ」
「そっくりそのまま返すわよ!」
そこで二人はデバイスを銃先端のパーツに嵌めると、コスタ撃ちの姿勢で近場の敵に向かって引き金を引く。
「ぎゃあっ!」
「うがっ!」
銃弾が命中した悲鳴が耳に入り、二人はそのまま前進を行う。すると真上から雷鳴が轟く。
「レオ達だな?」
「わぁ、実戦の威力〜」
人を簡単に殺めてしまうことのできる電撃魔法は、通常のデバイスでは使用が非常に厳しく制限されており、授業でも必ず指導者の監督が必要となってくる。
「っ!!」
「はっ!!」
倉庫の上に身体強化魔法で一っ飛びをしたレオポルトとアニの二人は、そのまま倉庫を上から強襲。
「うおっ!」
「うげっ!?」
そして着地と同時にデバイスを起動、電撃魔法と放水魔法を喰らわせて不審者を突き飛ばす。
なお、レオポルトに関しては愛刀であるベリザーナがデバイスとなっているので、通常よりも火力が高かった。
「流石だな」
「ええ、魔法は…頑張って覚えましたから!!」
そこで少し疲れた表情でアニは答えると、片手に拳銃を握る。
「大丈夫か?」
「ええ、平気です」
顔色を見てレオポルトが聞くと、彼女は回復魔法を自分に使って答えた。
「それよりも…」
そこでアニは下で起きてる状況を見下ろす。
「でぇりゃあぁぁあああっ!」
「うぉおのれぇえええええ!!」
下で競い合うように銃撃戦を繰り広げているジャクソンとヴァージニアに、軽く茫然となって見ていた。
「あれ、収拾がつきますか?」
「まぁ…終わったらなんとかなるだろ」
レオポルトはやや不安を覚えたが、分別のつく二人なので大丈夫だろうと軽くたかを括った瞬間、
「っ?!伏せろ!!」
気配を感じ取ったレオポルトが叫び、アニはすぐに頭を下げ、レオポルトは持っていたベリザーナで障壁魔法を展開して抑え込んだ。
「っ!?」
すると暗闇の黒一色の服を身に纏ったその人影は、自分の魔法攻撃の混ざった攻撃を完璧に防いだ事実に驚愕した。
「畜生、魔力滞留付きかよ!」
そこで持っていた機関拳銃の引き金を引くと、その襲撃者は一旦距離を取った。
「これを防ぐとは…」
「生憎、前に似たような戦法で仲間がやられてんでね」
そして対峙する襲撃者とレオポルト達。
一昔前の忍びのような古典的格好をする襲撃者に、レオポルトは後ろに移動させたアニに耳打ちをする。
「アニ、タイミングを合わせるぞ」
「…わかりました」
そこで彼は軽くこめかみに触れて二度叩くと、直後に魔法を発動した。
「オラオラオラオラオラ!!!」
一方、下ではジャクソンとヴァージニアが大暴れしながら倉庫の下層部分を制壓していた。
「うぉっと!」
そこでジャクソンが気配に勘づいて銃を上にやると、そこではある襲撃者が足蹴りで襲撃を試みていた。
「俺ぁ巨人の血族だぞ!力勝負で勝てると思うかぁ!?」
「ちっ!」
そこで彼は太い腕を振るって襲撃者を殴りかかったが、襲撃者はそれを軽々しく避けると、距離を取った。
「チッ、銃身が曲がっちまったぜ」
しかし今の攻撃で持っていた自動小銃の銃身が曲がってしまい、使い物にならなくなった。
「チッ、ちまちま攻撃で洒落臭いわね!!」
投げナイフや投擲武器などで小賢しい攻撃ばかりをしてくる敵に苛立ちを募らせる。
「っ!危ねえ!!」
ジャクソンが叫ぶと、煙の中から一本のガラス製のナイフが飛んできてジャクソンの銃に命中して突き刺さった。
「もう邪魔!まとめて薙ぎ払ってやる!!」
そして腹を立てたヴァージニアはそこでジャクソンに言う。
「ジャック、巻き込まれないでよ!」
「はぁ?!何する気だよ!」
ジャックはこれかヴァージニアのする事に困惑気味に聞くと、彼女は大きく息を吸い込み始める。
それと同時に、彼女の今まで人間的だった肌がだんだんと炎の色に近い赤い鱗のような肌に変わっていき、彼女の額からは一対の立派なツノが生えてきた。
「おいおい…」
それを見たジャクソンは驚いていた。少なくとも、それは世界的に見ても希少な種族であるからだ。
「マジか…!!」
そして直後に起こる事が予想でき、咄嗟に物陰に隠れた。
ーー竜の息吹。
数千度の温度でありとあらゆる物を焼き尽くす、炎系の竜の中で最強の攻撃手段。それが狭い倉庫の中で文字通り火を吹いた。




