#47
バケツが一戦をやり合った事はすぐに精霊の契約主であるレオポルトも探知していた。不思議なことだが、二人で召喚を行なった場合、契約主は当時の魔力量の多い方が自動的にそうなるのだ。二人同時に契約主になる事は無い。
そしてバケツに宿る精霊は雷の精霊。極めて上位の精霊であるので、アイツは自分から魔法を放つ事ができた。
この世界に存在する精霊と呼ばれる存在は、自然現象に魔力が宿り、意志を持ったとされている存在だ。自己を自覚しているかどうかについても配るされる事案であり、一般的に自己の認識ができている精霊を上位精霊と人は区分けしていた。
雷の上位精霊を宿すバケツは、体にミニガンを装備した子供好きな変態的な嗜好の持ち主だが、自作オートマトンという割にはとても人に近い存在に変化していた。
少なくとも、友人がオートマトンなのかと疑うほどには人間臭い。
そしてそんな精霊の宿ったオートマトンに的確に対処できたエリカを誘拐した襲撃者と言うのも注意する必要があった。
「さて…作戦を考えようか」
コンテナハウスの前の道路、そこに車を停めた四人はボンネットに地図アプリを開いたタブレットを取り出してレオポルトが口を開く。
「どうするの?」
「やるなら一つだろ」
四人はそれぞれ武器を持っており、彼らは全員ロッカーからそれらを持ち出していた。
この国の憲法に記された『自己を守るための最低限の武装を行う権利』は、世界で最も銃火器を普及させるきっかけとなっており、特に犯罪歴もない四人は当たり前のように武器を持っていた。
「まさかアンタ、殴り込むつもり?」
「そうじゃ無いのか?」
当然のようにジャクソンは言うと、そこでヴァージニアは苦言する。
「殴り込む場所もわかっていないのよ?そもそもどこにエリカちゃんが行ったのかもわからないのに…」
「そうですよ。それに、こちらもまだ敵の人数すら把握していませんよ?」
ヴァージニアの意見にアニも賛同した。
「…いや、居場所なら分かるぞ?」
しかしレオポルトはすぐに答えた。どう言う事だと首を傾げる三人だったが、彼は手の中から黒いドロッとした影を生み出す。
「えっ?」
「うわっ、何それ?」
「これって…」
すると見たことあるのだろう。アニだけそれを見て感づいた様子だった。
「古代魔法の一種の傀儡魔法だ」
「傀儡魔法って…あの動物の死体を使う奴?」
「それは現代魔法の方ですね」
アニはそこで古代魔法の軽い説明をする。
「現在の傀儡魔法は大朝帝国の錬丹術を基本として作られたものですが、古代魔法のものは純粋な魔力と影を材料に作られます」
「違うのか?」
「はい、原理は全く違うものです。…でもよく魔力消費量が多いはずです」
「その通りだ。まぁこれの詳しい話は後でするとして…」
レオポルトはそこで一旦話を元に戻す。
「こいつをエリカの元に飛ばしていた。だからこの痕跡を辿れば…」
そこで彼はタブレットを操作してある場所にマーカーをつけた。
「多分ここだ」
「「「…」」」
そして示された場所を三人が覗き込んだ。
「ここは…」
「港ですか?」
地図は学園都市の港湾部に面しており、この港は多数のコンテナ船が行き交う比較的大規模な港であり、故に国際規格のコンテナが大量に積まれており、それに関連した施設も多くあった。
「なるほど、隠れるにはうってつけと言うわけか」
「そう言う事だろう」
犯人の目的はエリカの殺害と思われる。故に死体だけでも確認する必要があるだろう。
「正直、エリカが生きている可能性は少ない」
「「っ!!」」
「…」
レオポルトの断言に女子二人は驚き、ジャクソンは一瞬目元を細めた。
「小父の話だが、彼女は誰かから暗殺未遂を何度も受けている。誘拐したのなら、彼らはその後に殺しているだろう」
それが今時点で推測できる最悪の結末だが、エリカは今港にいると言うことは…。
「なんで港にいるのかは分からないが…逆にこれは彼女が生きている可能性もあると言うことだ」
「え?」
「…どう言うことだ?」
その話に一番食いついたジャクソンが聞くと、そこで彼は答えた。
「エリカを誘拐して時間が経った、ならすぐに殺せば良いこと。だが実際は、彼女は港にいる。彼はなぜだと思う?」
「?」
ジャクソンは首を傾げていたが、そこでアニが勘づいた。
「…隠しておくため?」
「恐らくはな」
「っ!じゃあ!!」
途端に表情を少しだけ明るくしたヴァージニアにレオポルトは言う。
「だから、すぐに行く必要があるってことさ。さぁ、遅くならないうちに行こうか」
それに三人は頷くと車に乗り込んだ。
四人が乗り込んだマッスルカーはV型八気筒エンジンの轟音を奏でながら市街地を走る。
時刻は夜、この時間になると繁華街には大勢の人々が街を歩いていた。
「みんな、準備は?」
「オッケー」
「大丈夫です」
「いつでも」
レオポルトが聞くと三人はそれぞれ持っている武器の確認を終えて銃を肩にかける。
「お前こそ大丈夫か?」
助手席でジャクソンが聞くと、聞かれたらレオポルトは懐から機関拳銃をチラリと見せた。
「この通り」
「…」
全員が銃を持っていることを確認すると、そこでレオポルトは言う。
「いいか?作戦はとりあえずこうだ。俺とジャックで前を張って、二人は後ろから退路確認。小父が来るまで積極的に出るな」
「…ねぇ、体力あるし私が前出たほうがいいんじゃ無い?」
レオポルトの作戦にヴァージニアは言うと、そこで彼は返す。
「それも考えたが…正直場所の状況にもよる。場合によっては俺と交代してくれ」
「りょーかい」
ぶちのめしてやると意気込む彼女にやや苦笑しながらレオポルトはアニを見る。
「着いてきてよかったのか?」
「うん。みんながいるなら、私だって出来ることはあるしね」
レオポルトにアニはそう答えると、それに少し苦笑しながらレオポルトはハンドルを握る。
「んじゃあ飛ばすぞ」
「おう」
そこでジャクソンが頷くと車は加速して市街地を抜けていった。
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「あぁそうだ。至急対魔部隊の派遣を頼む。…そうだ、大至急だ」
その時、警察署の電話を借りて連絡を取ったカムチャルは内心毒吐きながら受話器を片付けた。
「やれやれ、まさか本当に引っかかるとは…」
やっぱりあの兄妹は何かしら呪われているんじゃ無いのか?
少なくともカムチャルはそう思わざるを得ない。運命の輪に導かれてあの二人は今まで自分の関わってきた多くの事件に巻き込まれたに違いない。
「…あれ?もしかして俺が悪いのか?」
自分が疫病神なのか?と言う今更ながらな事実に気づいたカムチャルだったが、それは気のせいだろうと自分で結論付けてこの話を無理やり無かったことにした。
「はぁ…」
警察署の禁煙室に入ってカムチャルは煙草に火をつける。
昨今では、禁煙ブームが流行っている影響で喫煙者は気軽に外で吸うこともままならず、こうして狭い部屋に押し込まれている。
「ふぅ…」
かく言う自分も、同級生の友人の子供たちから言われてあの兄妹に会う時は煙草を控えるようになったものだ。
「…」
二回、口から煙を吐き出して紫煙を昇らせた時にカムチャルは思った。
確かにここの治安はいつも悪く、自分が学生時代だった頃も酷いものだったが、今はその時とは違う大きな悪意の塊があるような雰囲気だった。
「(確実に何かが起こっている)」
それもよく無い方向の雰囲気だ。
無論、これは長年刑事として現役で前線を張ってきた自分の経験談だ。根拠は無いに等しい。
しかし、肌で感じる違和感。それは学園都市に戻ってきた時に感じた事だ。
「(そういやぁ、半年前にも同じような事があったっけなぁ…)」
あの時は確か、国内のギャングが反政府勢力と結託して起こった事件だった。逮捕した実行犯を尋問して吐き出させた情報を元に現場に駆けつけた時には、すでにグループそのものが全滅していた。結局は被疑者死亡として処理された事件だ。
「んで、今度は不法移民の少女か…」
今起こっていて、尚且つ誘拐された事がバケツから通報され、レオポルトからはいるであろう港湾地区の通報がされた。
「多分、古代魔法だな…」
すぐにカムチャルはレオポルトがエリカの居場所を見つけた理由をすぐに察した。
元々古代魔法を研究している親の元で育ったのだから当たり前な話だが、二人は幼い頃から古代魔法の事を聞いて育ってきており、二人して古代魔法を扱う事ができた。
「全く…便利な魔法な事だよ」
はるか昔、世界を二分していた超君主国家同士の左右を決した戦いが引き分けで終わった後の革命の混乱で失われたとされる古代魔法と呼ばれる分野の魔法。
正直、その分野に関しては点でダメなので餅は餅屋の理論であの一家に聞くしか方法はない。
「…」
そしてあの兄妹、特に兄の方は古代魔法の展開に関しては圧倒的に優れた能力があると言うのは学校に入る前からわかっていた。
そして今の学会の流行りが古代魔法の復活であることも当然知っている。
現代魔法も元を辿れば古代魔法の亜種であるのだが、何せ中東紛争の際の能力を前に今更になって政府はその技術の能力の高さに恐れ慄いたのだ。
「警部、ここに居たんですか」
「ん?」
すると喫煙室に一人の警察官が入ってきた自分を探しているようだった。彼はここに来てから随分と頼りにしているFSSの協力を仰いでいる地元警察官だった。半年前の事件の時も世話になったので、今では顔見知りとなってしまった。
「あぁ、何かあったか?」
「警部、対魔術師部隊の出動準備が整いました」
「…早いな」
対魔術師部隊とは、文字通りの意味で対魔術師用に編成された魔術師部隊であり、魔法犯罪の取り締まりを行うためのプロフェッショナルだ。
バケツからの通報で、敵は公的機関でしか使用が許されない魔力滞留弾を使用した事を知っての要請だった。
この学園都市には魔法の研究機関があり、その技術を求めるために魔法犯罪が行われており、その対策として首都と同規模の対魔法用の特殊部隊がここには配属されていた。
「すぐに出動できます」
「わかった。すぐに出してくれ」
「はっ!」
その警察官は敬礼をすると、カムチャルは現場指揮官として吸っていた煙草を片付けると喫煙室を後にした。




