#42
俺があの兄妹に協力を仰ぐようになったのはいつからだっただろうか。
初めは魔学院時代からの旧友が産んだ子供で、奴と嫁さんが結婚した時の仲介役をした時もあった。
「そろそろかな?」
空港の出口でカムチャルは時計と案内板の到着案内を確認していた。
学生時代は散々煮湯を飲まされた身ではあったが、魔学院時代とその後の大学時代で自分と奴とは大きく違う道を歩いたものだ。
奴は魔学院のエスカレーターを登らず、そのまま旧大陸の遺跡調査団に加入してアンサルドの大学に入学。そのまま卒業証書と博士号を引っ下げて帰国し、その後は魔導具の製造会社関連の研究所に所属。そこの受付嬢と結婚していた。
「はぁ…この先の事が容易に想像できるな」
ただ、カムチャルとしてはこれは最後の手段だった。
対して自分は卒業後はFSSアカデミーに進学し、そのまま連邦保安局に就職した。
就職後は内部での出世争いよりも現場を優先した生活をしており、今では警部という階級を貰っている。
ただし、仕事に熱中しすぎて婚期を逃した事は今でも同僚から揶揄われる事がある。
「まぁ、暴走しない事を祈るか」
大勢の乗客を見ながらその目立つ服装を見つけた。
そして警察の仕事をしている時も時たま遊びに来ては問題を残して行った旧友は、ある時俺の実家にある自作のオートマトンを置いて行ってしまった。
その自作の生活補助人形は確かに彼の生活に関する補助をしっかりしてくれるオートマトンであり、ある意味でカムチャルが結婚できなかった理由の一つになってしまった。
そして蛙の子は蛙、奴の子がそんな父親自作のオートマトンにとある大改造を施してしまい、そこから一つの実験の産物が生まれてしまった。今でも思い返すと色々と文句を言いたいところだ。
『随分と忙しいようですね。カムチャル』
「はっ、相変わらずだな”バケツ”」
ヴィクトリアンメイド服を身に纏い、その名前の通り頭は逆さまにした金属バケツに二つの穴を開けたような見た目の明らかに特異な様相のオートマトンが律儀にカムチャルに言葉を交わした。
『それで、噂のかわい子ちゃんは今どこに?』
実に人間らしく興奮した機械音で問いかけるとカムチャルは無人タクシーに案内をしていた。
====
「んじゃあ、今日の授業はここまでだ」
魔法学の授業を終え、教壇に立った教師が部屋を出ていくと生徒達も授業を終えて腕や背中を鳴らしながら伸びの姿勢を作っていた。
「終わったぁ」
「お疲れ様です」
そして席が隣のレオポルトとアニは授業が終わった事実に息を吐いていると、そこでジャクソン達が顔を覗かせてきた。
「よう、しけたツラだな」
「そうかい、夜中にメール流してきた奴がよく言う」
軽く嫌味で返しながらレオポルトはパソコンを閉じると、そこでヴァージニアが聞いてきた。
「ねえねえ、レオの友人に警部さんがいるんでしょ?」
「ああ」
いきなり何を聞くかと思えば彼女はカムチャルの話をしてきた。聞けば二人はエリカの様子を見に行きたいのだという。
「今更会いたいのか?」
「いやぁ、よくよく考えるとあんな子供が一人であんなゴミ捨て場にいるなんておかしいじゃん」
「それでコイツが会いたいんだと」
少し呆れた目線でヴァージニアを見るジャクソンに少し納得しながらもレオポルトは言った。
「ぶちゃけると、彼女は不法移民だ。不法移民に関する法律を知らないわけじゃないだろう?」
この国において不法移民が逮捕されると、そのまま不法移民を一カ所に集めている不法移民キャンプに移送され。その後は強制送還か、難民申請が通るまで留め置かれる事になる。
また不法移民は安い労働力として移民キャンプにて奴隷に近い状態で工場で働く事になる。
「いやぁ、それはそうだけどさ。どうやってあの子がこの国に来たのか気になっちゃってさ」
「「あぁ…」」
そこでジャクソンとアニの二人が納得していた。
見つけた時のあの身なりで、お金がないと言うのは一目瞭然だ。おまけに子供ともなれば尚更渡航能力はない。
我が国は大陸国家故に不法移民は必ず海外から船に乗って訪れてくる。陸続きに国境が存在している旧大陸の国々とは違い、不法移民を抑え込むには全ての港で監視を強化すればなんとかなる。
「ほら、それに色々とお話とかしてあげた方が負担も減るかなって」
「そう言うのは慈善団体に任せりゃ良いんじゃねえの?」
「いやぁ、大人ばかりに囲まれて怖いってこともあるじゃない」
「確かに、そう言う不安は確かにあるかもしれませんね」
アニが納得した様子を見せるとレオポルトは意外な表情を浮かべた。
「分かるのか」
「いえ、想像するしかありませんけど。でも知らない大人ばかりの人に囲まれて過ごすのはちょっと怖いって感じるかもしれませんね」
「…」
なるほど、確かに想像の範疇でしかないが。いきなり一人で知らない土地に投げ出されてそこで大勢の警察官に囲まれて生活する。確かに精神的な負担は大きいのかもしれない。
「だからさ、色々お土産とか持ってってね」
「聞いてもいいが、会えるかどうかわからんぞ?」
「良いよ〜」
二つ返事で了承を貰ったレオポルトは早速カムチャルに電話をかけた。
「ああ、もしもし?あの女の子に会いたいんだけどさ…」
そして少し話をした後にレオポルトは電話を切るとヴァージニア達を見た。
「来ても良いけど、電車で来いってさ」
「オッケー」
電話の時間はそれほど長く無かったが、すぐに許可が出たことにジャクソンはやや驚いていた。
「よく許可してくれたな」
「まぁ、向こうも色々あって忙しいんじゃないのか?」
「単純に私たちが発見者だからじゃないのでしょうか…」
そんな四者四様の反応を示すと彼らは放課後にエリカに会うために軽い土産を買いに街に繰り出していた。
そして街に出た四人はそこで近場のコンビニに入ってエリカに手渡す土産を選ぶ。
「でもなんで電車じゃないとダメなんだ?」
「なんでもあの女の子が移送されたからだとよ」
コンビニの棚でジャクソンが疑問に思うと、それに詳しい話を聞いていたレオポルトが答えた。
「そもそもなんでこんな長い期間留め置いているの?」
「不法移民が西大洋の都市に現れたから、新たな不法移民のルートの可能性があるからだとさ」
「不法移民はこっちに来る事は無いのですか?」
「殆どないな。基本的に難民が出る旧大陸に近い東側が多い」
そして三人はコンビニでドーナツやらクッキーやらを買った後に店を出る。
「移送先は国が管理しているホームレス用のアパートだそうだ」
学園都市の郊外にはホームレスが集団で暮らすために、政府から提供されている安価なアパートが存在している。
そのような場所の一角を特例で借りて暮らしていると事前にカムチャルから聞いていた。
「へぇ、そんな場所にあの女の子がいるんだ」
「珍しいですね。そんな場所で暮らすなんて」
「証拠を得られるからじゃないのか?」
「正直子供一人から得られる情報なんて高が知れている気がするがな」
まぁ、彼女が留め置かれている理由は今まであった二度の暗殺未遂に加えて、現在捜査が進められている違法魔導技師の獄中殺害事件に関わりがある可能性があるとして彼女はFSSの監視保護対象となっているのだ。
なにせ警察機関の面子を潰すかの如く警察官に変装しての殺害だ。おまけに違法魔導具を制作していた為にその背後にいる犯罪組織の全容を聴取する直前での殺害。
そんな犯人がわざわざ向こうから出てくれると言うのであれば、少女を囮に使ってでも警察の面子を復活させる必要があった。
「まぁ、色々と事情があるんだろ?」
傀儡魔法で色々とエリカに近づいて見ているが故に知っている内部の情報を脳内で再生しながら流すように答えると四人は郊外に向かう市電を待っていた。
人ってのは時に残酷になるなぁ、とレオポルトはそこに不変さを感じていた。
「けっ、郊外に行くのに市電かよ」
「仕方ないじゃないの。モノレールは中心部しかないんだから」
学園都市郊外は一般的には旧市街地と呼ばれており、近未来的な景色が広がっている自分たちの学校がある地区に対し、ここら辺は過去より変わらない長閑な風景が広がっており、この地域は俗に言う新大陸開拓最後の地。
ここで新大陸開拓を終えたかつての先人達は海に出た先で世界で最も古い極東の国に達した。
「おぉ、すげぇ。まだPCCカーって動いていたのかよ」
そしてやって来たバズのような見た目の古めかしい路面電車がやってくると、四人は列車に乗り込んで目的地に移動する。
「可愛らしい見た目でしたね」
「古き良きアルメリアの設計が残っているな」
郊外を走っている車も無人タクシーが走っている中心部とは異なり、農作物やコンテナを積んだ有人トラックが走っていた。
「でも郊外ってこんな雰囲気なのね」
何気に初めてくる郊外に自分も含め少し興味津々だった。
やはり学生が多い中心部と違い、郊外はホームレスや貧困層が集まる場所のためか町全体がやや暗い雰囲気の部分もあった。
「制服で来たのは間違いだったかもな」
学校から直で来たために魔学院の白衣の制服は遠目からでも一目瞭然であった。
「きっと大丈夫ですよ」
「だといいんだがな」
前後に分かれて座るレオポルト達はそのまま列車の移動する中で話していると、目的地の駅で降りた。
「さて、ここから少し歩くんだが…」
携帯で地図を確認した後にレオポルト達は歩くととある古いアパートにたどり着いた。
流石はホームレスが使うだけあって所々で近寄ってはならない雰囲気が漂っていた。
「…行くか」
「おう」
一応の警戒をしながらアパートに入った瞬間、目の前で大声が聞こえた。
そしてそこで強烈な光景をいきなり目にすることになった。
「畜生!離しやがれ!」
『あらぁ、元気いっぱいでお可愛い事』
そこでは首根っこを掴まれて空中で暴れているエリカと、彼女を捕まえているヴィクトリアメイド服を着た一人のバケツ頭のオートマトンが居た。




