5.
もしも、昨日のうちに婚約解消の書面の通達を確認していれば、今の状況は起きなかっただろう。それは顔を真っ赤にしている第二王子も同じであった。
「オルフェーノ! お前はそんな大事なことを知っていて私達に黙っていたのだな! なんという陰湿な女なんだ! 王族に対する不敬罪で追放どころか死刑にしてやる!」
(いましたね~。真面目じゃない貴族がここにも!)
ムーワの発言にオルフェーノは思わず吹き出してしまった。それをつられて他の貴族たちの中にもクスクスと笑い始める声も。
「な、何がおかしい!?」
「殿下、一応お伝えしておきますが、たとえ妹を苛めたとしても国外追放にはできません。そして、私が殿下に対して不敬を犯しても死刑になどなりません。そういうことは小説の中の話……ただの王子にはそのような権限はありませんの」
「なっ……!」
「そもそも、私は妹を虐めてもいなければ殿下に不敬を犯したこともありません。学園で婚約者をほったらかしにして私の妹と一緒にいた殿下なら分かりそうなものですが?」
分かりやすく、それでいて嫌味を込めたオルフェーノの説明にムーワは顔を真っ赤に染める。羞恥と怒りからオルフェーノに向かって叫ぶ。
「う、うるさ―い! お前の話なんか聞くもんか!」
「そ、そうよ! お姉様のくせに!」
ファンカイアも一緒に叫ぶ。どうやら、見下していた姉が余裕そうに自分たちを笑っていることが気に入らなかったようだ。
しかし、後になって自分たちの首を絞める発言をしてしまった。
「ムーワ様は次期国王になられるお方なのよ! 権限とか小難しいことは簡単じゃない!」
「「「……え?」」」
「……?」
……ファンカイアが何を口にしたのか意味不明だった。両親も肝心のムーワも。オルフェーノも言葉すら浮かばない。ムーワが次期国王などありえないはずだ。周りの貴族も困惑するか嗤うしかない。
何言ってんだ、こいつ? 誰もが思った。
ただ、苛立ちを覚える者もいた。それは白髪が混じった黒髪と青い瞳でやや強面の顔立ちの壮年の男だった。
「ほぉ、随分なことを口にするものだな」
突如、パーティー会場に威厳に満ちた声が響き渡る。その声の主は呆然としているムーワの父であり、今の国王だった。
「ち、父上っ!?」
「ムーワ、お前が次期国王だと? どういうことなんだ……?」
国王はゴミを見るような冷たい目で、こめかみに青筋を立てて、侮蔑に満ちた顔でムーワに近づいていった。
「そ、それは、その……!」
国王はかなり怒っていると誰が見ても分かる。それと同じくらいムーワの顔色も悪くなっていた。




