9話 イベント発生
「みんな落ち着いて!」
天道美月。
彼女のその声に、自然と周囲が静まり返った。
大声を出したわけじゃない。
それなのに、不思議と声がよく通る。
ざわついていた空気が一瞬で収まり、生徒も教師も彼女へ視線を向けていた。
「まず現状を整理しましょう」
天道先輩は落ち着いた声で言う。
「神武君達の報告が正しければ、この周辺には危険な生物が存在しています」
誰も反論しない。
実際に見てきた人間が言っているのだ。
「ですので、やはりまずは安全確保を優先するべきです」
そして教師達へ向き直る。
「学校内の生徒と教師の人数確認。それと校舎の安全確認。食糧や飲水の確認。その後、改めて周囲の探索を行いましょう」
教師達が顔を見合わせる。
ゴリマッチョの怪我もあり、探索組の証言には説得力があった。
そして何より。
天道先輩の意見は理にかなっている。
ここに何人いるのか。
誰が無事なのか。
それすらまだ分かっていないのだ。
「天道君の意見に賛成だ」
先生の一人がそう言った。
すると他の教師達も次々とうなずく。
気付けば場の主導権は完全に天道先輩が握っていた。
初めて見た。
カリスマってこういうやつなのかな。
将来総理大臣とかになりそう。
今のうちにコネを作っておきたい。
「由良殿」
「なに?」
「今やましいこと考えたでヤンスね」
「考えてない」
「気持ち悪い顔してたでヤンス」
「失礼なやつだな」
その時だった。
バタバタと駆けてくる足音が聞こえた。
若い男性教師が息を切らしながら体育館へ飛び込んでくる。
「教頭先生!」
ハゲチャビン教頭が振り返った。
「どうした!?」
「裏門に人がいます!」
一瞬。
その場が静まり返る。
「……人?」
「はい!」
教師は呼吸を整えながら大きくうなずいた。
「武器を持っています! 代表の者を呼んで来いと!」
ざわっ、と空気が揺れた。
武器?
今、武器と言ったか?
平和な日本じゃニュースでしか聞かない言葉だ。
「由良殿」
「なに?」
「イベント発生でヤンス」
無視する。
でも確かに間違っていないかもしれない。
なんだか胸騒ぎがした。
「どういうことだ!?」
「わかりません……ただ、すぐに襲ってくるような気配はありませんでした」
教師は続ける。
「あ、あと! 馬に乗って鎧を着ています!」
「なんだそれは……」
教頭も理解できないというように眉をひそめた。
信じたくない。
でも、これはもうほぼ確定だろう。
「は? 鎧?」
「コスプレかよ」
「やっぱドッキリとかの撮影じゃね?」
ここまで来ても信じない奴がいるのかと思って視線を向ける。
三馬。
香取。
里桜。
不良グループだった。
ああ、なら仕方ない。
神武も。
星先輩も。
ゴリマッチョも。
探索に出ていた連中は全員真剣な顔をしている。
実際にゴブリンを見たのだ。
もう理解しているのだろう。
普通じゃないことが起きていると。
「まずは確認しましょう」
天道先輩の声が響く。
その一言だけで周囲のざわめきが少し収まった。
「私が行きます」
そして教師達へ向き直る。
「先生達は生徒達を一度体育館へ避難させて人数の把握を。郷里松先生は至急保健室へ」
「いや、私も同行しよう」
ゴリマッチョが痛む腕を抑えながら一歩前に出る。
「いえ。まずはその怪我を治療してください」
天道先輩は穏やかに首を振った。
「羽毛田教頭先生と村雨先生。着いて来ていただけますか。あと申し訳ありませんが、神武君もお願いできますか」
「わかりました」
神武がうなずく。
続いて嫌そうな顔をしながらハゲチャビン教頭もうなずいた。
そういえばあの人、一応教頭だったな。
天道先輩が歩き出そうとした瞬間。
「天道会長! 僕も行きます!」
星先輩が慌てて前へ出た。
「星君。君は残ってみんなを安心させてくれませんか」
「でも!」
「お願いします」
「……分かりました」
悔しそうに拳を握る星先輩。
天道先輩は小さくうなずき、神武達へ視線を向けた。
「相手がどう出るか分かりません。危険な可能性もあります」
その表情は真剣そのものだった。
「全員、自分の安全を最優先で行動してください」
三人がうなずく。
「他の生徒は待機していてください!」
今度は生徒達へ向かって声を上げた。
「先生の指示に従い、決して体育館から出ないように!」
そう言い残し。
天道先輩、ハゲチャビン教頭、村雨先生、神武の四人は裏門へ向かっていった。
残された僕達は顔を見合わせる。
そして。
「絶対、こっそり見に行く奴出るよな」
僕がそう言うと。
「行くでヤンス!」
湊が即答した。
「お前は言うと思ったよ……」
「当たり前でヤンス!」
「危ないから行くなって」
「異世界イベントを見逃すオタクはいないでヤンス!」
駄目だこいつ。
そう思っていると。
「はっはっはっ! 面白そうではないか!」
すぐ後ろから聞き慣れた豪快な笑い声が響いた。
「雲水まで来たのかよ」
「もちろんだ!」
なぜか雲水まで乗り気だった。
「はっはっはっ! よし行くぞ由良! 湊!」
「なんで僕も入ってるんだよ!」
「連れションならぬ、連れントでヤンス!」
「その単語初めて聞いたんだけど!?」
気付けば両腕を掴まれていた。
身動きが取れない。
「ちょっ――待て! 本当に行く気か!?」
「当然でヤンス!」
「はっはっはっ!」
「やめろぉぉぉぉぉっ!」
ずるずると引きずられながら。
僕はこいつらと友達であることを、本気で後悔した。
羽毛田輝教頭
三馬貴司
香取雲雀
里桜都生




