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第7話 テンプレ

 鳴き声を聞いたことで、校庭は一瞬で静まり返った。


 誰も喋らない。


 森の奥から響いた咆哮の余韻だけが耳に残っている。


「今の……何?」


 女子生徒の震えた声が聞こえた。


 だけど答えられる人はいない。


 先生達も同じだった。


 村雨先生ですら青い顔をしている。


 ハゲチャビン教頭に至っては、さっきから額の汗をハンカチで拭き続けていた。


「静かにしろ!」


 教頭が叫ぶ。


 少し声が裏返った。


「落ち着け! まだ危険と決まった訳ではない!」


 いや。


 危険だろ。


 みんなそう思ったはずだ。


 僕も思った。


 あんな鳴き声が聞こえておいて安全な訳がない。


 その時だった。


「教頭先生」


 声を上げたのは体育教師のゴリマッチョだった。


「周辺の状況を確認するべきでは?」


「確認ですか?」


「はい。このまま待機していても何も分かりません」


 確かにそうだ。


 校庭の外は森。


 電波は圏外。


 先生達も状況を把握できていない。


 今の僕達が分かっていることは、何も分からないということだけだ。


「ですが危険です」


 天道先輩がすぐに反論した。


「少なくとも周辺の安全確認が終わるまでは、生徒を動かすべきではありません。それと先ほどに鳴き声。体育館に避難すべきかと」


「だからこそ確認が必要なんだ」


 ゴリマッチョは一歩も引かない。


「生徒全員、このおかしな状況のまま待機させ続けるのか?」


「それでも――」


 天道先輩が言葉を続けようとする。


 だが。


「俺が行きます」


 神武だった。


 一年の中心人物である彼が声を出すと、一瞬にして視線が集まる。


「神武君!?」


「危険ならなおさら体力のある人間が行くべきです」


 神武は真っ直ぐ前を見る。


「それに、もし獣が出ても僕なら戦えます」


 おお。


 かっこいい。


 なんだか主人公みたいだ。


 僕には絶対無理だ。


 森へ行けと言われたら全力で断る。


 なんなら土下座してでも断る。


「僕も同行します」


 今度は星先輩だった。


 女子人気が異常に高い人だ。


 今も周囲には女子生徒が集まっている。


 そしてその女子全員が心配そうな顔で星先輩を見つめている。


「三人では危険です」


 天道先輩は少し考えてから言った。


「でしたら、せめて人数を増やしてください」


「仕方ない。私も行こう」


 村雨先生が前へ出る。


「郷里松先生。私も同行します」


 郷里松……ああゴリマッチョのことか。


 さらに別の教師も名乗り出た。


 天道先輩は小さく息を吐いた。


 納得している訳じゃない。


 だけど探索の必要性も理解している。


 そんな表情だった。


「由良殿」


「なに?」


「この展開は完全に異世界でヤンス」


「まだ言うか」


「突然の見知らぬ場所。森。謎の咆哮」


 湊がメガネをクイッと押し上げる。


「テンプレでヤンス」


「普通、テンプレなら目の前に王女とか王様が出てくるだろ」


「確かに」


 湊が真面目な顔でうなずく。


「じゃあこの後出てくるでヤンス」


「適当だな」


 その時。


 ぽん、と肩を叩かれた。


 振り返る。


「はっはっはっ!」


 豪快な笑い声。


 雲水だった。


「どうした雲水」


「あれを見てくれ」


 雲水が森の方を指差す。


「あの木だ」


 言われて視線を向ける。


 確かに大きい。


 大きいけど。


「日本にあんな木はない」


 雲水は真剣な顔で言った。


 僕はもう一度木を見る。


 ……。


 全然わからない。


 木に詳しくないので判断不能だった。


「由良殿」


「なに?」


「異世界確定演出でヤンス」


「木一本で確定するな」


 十分後。


 神武。


 星先輩。


 ゴリマッチョ。


 そして数名の教師達は森へと向かった。


 残った生徒達は教師に誘導され、再び教室へ戻ることになる。


 廊下を歩きながら、ふと校庭を見る。


 森は相変わらず静かだった。


 だからこそ不気味だった。


 そして――。


 一時間後。


 教室で待機していた僕達の元へ、一つの知らせが届いた。

郷里松(ごうりまつ) 調(しらべ)

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