第6話 鳴き声
校舎を出ると、既に大勢の生徒が集まっていた。
校庭。
いや、今では校庭らしき場所という言葉が相応しいかもしれない。
整えられていたはずのグラウンドは草が大量に生えている。
更には、フェンスの向こうにあった住宅街が消えている。校舎から見えていたのは、見間違えなんかではなかった。
代わりにあるのは森。どこまでも続く森。
校庭だけが無理やり切り取られて置かれているような、そんな違和感があった。
「これが異世界転移でなければ、意味不明でヤンスな」
僕は湊のその言葉に、何も言えなかった。
全校生徒が次々に集まってくる。
先生達も慌ただしく走り回っていた。
誰もが余裕を失っていた。
「静かにしろ!」
怒鳴り声が響く。
振り向く。
ハゲチャビン教頭だった。
さっきまで放送していた張本人だ。
マイクを握りしめながら校庭中央へ歩いていく。
「生徒はクラスごとに整列しろ!」
いつもより声が大きい。
というか半分怒鳴っている。
それでも生徒達のざわめきはなかなか収まらなかった。
当然だと思う。
僕だって落ち着けと言われて落ち着ける気がしない。
「もし異世界だったら、ステータス気になるでヤンス」
「まだ続けるのかその話。まあ……きっと僕らは弱いだろうね」
「夢がないでヤンスね。魔法はどうでヤンス?」
「まあ今のところ魔力みたいなのは感じないな」
「吾輩もでヤンス。残念でヤンス」
そんなことを話していると、
「整列を手伝ってください」
落ち着いた女性の声が聞こえた。
視線を向ける。
そこにいたのは三年生の生徒会長だった。
天道美月。
成績優秀。
運動神経抜群。
容姿端麗。
校内で知らない人はいない。
いわゆる完璧超人だ。
「一年はこっちです!」
別の方向から声が飛ぶ。
今度は神武勇一だった。
実家が有名な剣術道場とかで、体格も良い。
同じ一年とは思えないくらい頼もしく見える。
さらに。
「慌てないでください! 一人ずつ並んで!」
二年生達をまとめているのは星英登だった。
生徒会所属。
顔も良くて頭も良い。
女子人気が異常に高い。
簡単に言うとリア充だ。
「すごいな」
思わず呟く。
こういう時。
自然に前へ出られる人間がいる。
僕には無理だ。
絶対無理。
「由良は後ろが似合うでヤンス」
「うるさい」
自覚はある。
前に出るのは苦手だ。
誰かが引っ張ってくれる方が楽でいい。
無難だし。
その時だった。
――グォオオオオオオオオッ!!
聞いたことのない咆哮が響いた。
空気が震える。
全員が固まった。
森の奥。
かなり遠く。
それなのに。
はっきり聞こえた。
「……今の何?」
誰かが震える声で呟く。
答えられる人間はいなかった。
だけど。
その場にいた全員が同じことを思ったはずだ。
少なくとも。
あんな鳴き声を出す生き物は、僕達の知っている世界にはいない。
天道美月
神武勇一
星英登




