第5話 異世界の可能性
担任の村雨先生ですら、何が起きているのか分かっていない。
教室には重い空気が流れていた。
その時。
ジジッ、とスピーカーからノイズが響く。
『あー、あー。聞こえるか?』
校内放送だった。
聞き慣れた教頭先生の声。
教頭先生だ。
ちなみに僕達の間ではハゲチャビン教頭と呼ばれている。
普段は態度がデカく、嫌味たらしいハゲチャビン教頭だが、今は声が少し震えている。
『全校生徒に連絡する』
教室が静かになる。
みんなスピーカーへと顔を向けた。
『現在、原因不明の事態が発生している』
いや、そんなことは知っている。
誰もが心の中でそう思ったはずだ。
『先生の指示に従い、速やかに校庭へ集合するように』
そこで一度放送が途切れた。
そして。
『繰り返す。全校生徒は校庭へ集合。絶対に単独行動はしないこと』
ブツッ。
放送が切れる。
教室がざわついた。
「校庭? 外出るの怖くね?」
「でも早く確認したいかも」
「先生、どうするんですか?」
生徒達の視線が村雨先生へ集まる。
先生は少しだけ考え込み、
「……とりあえず教頭の指示に従う。行くぞ」
と言った。
「だが慌てるな。押すな。走るな。全員で移動する。俺について来い」
その声には、いつもの余裕がなかった。
僕達は席を立つ。
教室を出ると、廊下は既に大混雑だった。
他のクラスの生徒達も次々に出てきている。
泣いている女子。
騒ぐ男子。
スマホを握りしめたまま立ち尽くしている生徒。
普段は見慣れた校舎なのに、まるで別の場所みたいだった。
「由良」
雲水が窓の外を見ながら言う。
「なに?」
「もし本当に異世界だったらどうする」
「さっきの湊の話か? まだ異世界って決まった訳じゃないだろ」
「しかし」
「ここは絶対異世界でヤンスよ」
「うーん……」
少し考える。
「ないと思うけど。とりあえずゲームの知識を試すかな」
「異世界を認めたでヤンス」
「仮の話だよ」
そんな馬鹿話をしながら階段を降りる。
正直、少しだけ安心していた。
周りには先生がいる。
生徒も大勢いる。
何が起きたのかは分からないけど、きっと何とかなる。
この時の僕は、本気でそう思っていた。




