第41話 千里眼
僕はステータスを見る。
取得可能スキル。
・青天ノ霹靂
・千里眼
・建築
・裁縫
・農業
「とりあえず建築かな」
まずは安全そうなものから試してみる。
建築の文字へ意識を向けた。
取得。
そう念じる。
次の瞬間だった。
「うおっ!?」
頭の中に何かが流れ込んできた。見てもいない、知りもしないはずの情報が、映像のように鮮明に、次々と頭の中に蓄積されていく。
建物の構造や仕組み。
使用するのに最適な建材。
強度計算の知識。
「なんだこれ」
気持ち悪い。
でも不快じゃない。
知らないはずの知識が最初から知っていたように頭へ収まっていく。
「取得したでヤンス?」
「ああ」
多分。
本当に取得した。
目の前の洞窟の壁を見る。
すると。
「ここ、その内崩れる」
思わず口に出た。
「え?」
湊が首を傾げる。
「この天井も」
僕は上を指差す。
そこにはヒビも何も入っていないが、見ると一部周りと色が違う。
「そうでヤンスか?」
「すぐじゃないけど雨が続いたら崩れるかもしれない」
自分で言って驚いた。
さっきまで分からなかったことだ。
でも今は分かる。
何となくじゃない。
理由も説明できる。
「おお」
湊が感心した。
「建築でヤンス」
「建築だな」
僕も少し感動した。
これは凄い。
次に視線を落とす。
取得可能スキル。
その中に残る文字。
千里眼。
「次はこれか」
雲水を見る。
「ほう早速取るのか」
雲水が笑った。
「便利そうだし」
見たいものを見る力。
器用貧乏との相性も良い。
僕は千里眼へ意識を向ける。
取得。
そう念じた。
そして、千里眼が僕のステータスのスキル欄へ追加された。
「千里眼」
僕は口に出してスキルを発動しようと試みた。
その瞬間。
視界が揺れた。
「――っ」
一瞬だけ。
世界の輪郭が変わる。
洞窟。
岩壁。
湊。
雲水。
全てが少し違って見えた。
「なんだこれ」
思わず目を擦る。
そして。
雲水を見る。
すると。
視界の端に文字が浮かんだ。
職業 覚者
「おお?」
さらに集中する。
雲水の能力値に固有スキル。
そこまでは見える。
だけど。
いくつかの数値がぼやけている。スキルも千里眼のスキルしか見えていない。教えてもらった悟りと超越のスキルは霞が掛かったようで見ることができなかった。
「なるほど」
僕のその様子を見て、雲水が笑った。
「今、俺のステータスが見えているな」
「ああ」
見えている。
でも。
全部じゃない。
完全ではない。
「これが七割か」
僕は呟く。
器用貧乏で得たスキル。
だから完全再現ではない。
それでも十分だった。
なにせ僕は今、他人の能力値を見ているのだから。
「人のスキルが使えるなんて、便利すぎるでヤンス」
湊が少し引いていた。
僕も同意だった。
そして。
何となく洞窟の外へ視線を向ける。
その瞬間だった。
「――っ!?」
頭に激痛が走った。
同時に。
大量の情報が流れ込んでくる。
木の種類に成長度合い。
草の繊維に水分量。
岩の構成に虫の身体の組織。
鳥の視界に周りに漂っている魔力。
そして、周囲の地形。音と気配。
視界に映る……いや、ここら一帯全ての情報が、一気に頭へ流れ込んできた。
「うっ……!」
頭が割れそうな程の激痛に襲われる。
猛烈な吐き気に、鼻からは血が垂れ出した。
慌てて千里眼を解除する。
その場に膝をついた。
「おい」
雲水が声を掛ける。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫じゃない……」
本気で気持ち悪い。
冷や汗が止まらない。
視界もぐらぐらしていた。
「はっはっはっ」
雲水は笑う。
「笑い事じゃないだろ……」
「当然だ」
何が当然なのか。
「千里眼はその名の通り見る力だ」
雲水が言う。
「器用貧乏のスキルは千里眼のスキルを与えても、見えた情報を処理する力までは与えてくれん」
「……なんで、雲水は大丈夫なんだ」
「俺だからだ」
……なるほど。わからん。
「由良殿」
湊が心配そうに覗き込む。
「大丈夫でヤンスか?」
「多分……」
大丈夫と続けようとして首をふる。
全然大丈夫じゃない。
「ちょっと辛いなこれは」
スキルと相性が良くて、便利だと思った。
だけど、今のままでは使い物にならない。
「見たいものを選ぶ練習が必要だな」
雲水が言う。
「全部を見るな」
「簡単に言うなよ……」
そう返しながら。
僕は洞窟の床へ寝転がった。
頭がぐるぐるする。
どうやら。
やはり取得しただけで、使いこなせる訳ではないらしい。




