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第39話 無職も職業。無職の可能性

 固有スキル。


 ――器用貧乏。


「……」


 僕はしばらく固まっていた。


「なんであるんだ?」


 無職だぞ。


 職業がないんだぞ。


 なのに固有スキルだけある。


 意味が分からない。


「知らなかったでヤンス?」


 湊が覗き込む。


「知らなかった」


 というか見ていなかった。


 能力値だけ見て閉じていた。


 無職だったから。


 それ以上見る意味がないと思っていた。


「説明は?」


 雲水が言う。


「説明?」


「スキルだ」


 そうか。


 スキルなら説明があるかもしれない。


 僕は器用貧乏の文字へ意識を向けた。


 すると文字が広がる。


⸻


器用貧乏


あらゆる技術と技能を修得する可能性を持つ。


職業や系統の垣根を越え、多種多様なスキルの習得が可能。


あらゆる技能は専門職の領域に一歩及ばず、その力は本来の七割程度に制限される。


また、特殊固有職が有する固有スキルについては、一部を除き習得することはできない。


取得条件

* スキルを視認する

* スキルの説明を受ける

* 理解する


⸻


「おお」


 思わず声が漏れた。


 何だか凄そうだ。


 あらゆる技術と技能。


 職業を問わず習得可能。


 そこだけ聞けばかなり当たり能力に見える。


「凄いでヤンスな」


 湊も感心している。


 だけど。


「どうしたでヤンス?」


「いや」


 僕は説明文を指差した。


「専門職より弱いらしい」


「本当でヤンス」


 湊も読む。


「七割でヤンス」


「七割だね」


 つまり。


 剣士より弱い剣士。


 魔法使いより弱い魔法使い。


 鍛冶職人より下手な鍛冶職人。


 何でも出来る。


 でも一番にはなれない。


「器用貧乏でヤンスな」


「名前そのままだな」


 妙に納得してしまった。


 期待した分だけ少し残念だった。


 その時だった。


「由良」


 雲水が口を開く。


「なに?」


「その説明、よく考えろ」


「どゆこと?」


 意味が分からない。


 僕と湊は顔を見合わせた。


「例えば剣士は剣術関連のスキルを身につけてる」


 雲水が言う。


「魔法使いなら魔法関連」


「まあそうだろ」


「鍛冶師なら鍛冶のみ」


「そうでヤンスな。吾輩もそう言った職業スキルは何一つ無いでヤンス」


 当たり前の話だった。


「誰しも職業以外のスキルは覚えられんのだ」


 そこで僕は少し考える。


 職業によって出来ることが決まる。


 だから職業が重要なのだ。


 つまり……何が言いたんだ?


「なあ雲水。何が言いたいかわからないけど」


 いやほんとさっぱり。


「僕はスキルを得ても七割しか発揮出来ないんだよ?」


「そうだな」


「じゃあ微妙じゃないか?」


「そうか?」


 雲水が首を傾げた。


「剣術スキルじゃ剣士には勝てん」


「うん」


「魔法スキルじゃ魔法使いにも勝てん」


「うん」


「鍛治の技術じゃ鍛冶師にも勝てん」


「ほら、何にも勝てないじゃん」


 すると雲水は笑った。


「だが、由良はどの職業にも縛られないだろ」


「……」


「剣士に剣術スキルで勝てないなら弓術スキルも使えばいい。それでも勝てないなら武術スキルだ。鍛治師に劣るなら、装飾スキルを加え、付与なんてスキルもあるならそれさえ加えてしまえばいい」


 その言葉に。


 少しだけ鼓動が早くなる。


 剣も。


 魔法も。


 鍛冶も。


 料理も。


 農業も。


 それらを全部掛け合わせる。


「確かに」


 それは少し面白いかもしれない。


 今まで無職だった。


 何もないと思っていた。


 だけど。


 もしかしたら。


 何にでもなれるのかもしれない。


「当たりでヤンスな!」


 湊が急に叫んだ。


「ロマンの塊でヤンス!出来ることが増えるのは良いことでヤンス!」


 それはそうだった。


 異世界だ。


 出来ることは多い方がいい。


 少なくとも無職よりは。


 僕はもう一度スキル説明を見る。


 器用貧乏。


 名前は格好良くない。


 むしろかなり格好悪い。


 だけど。


 思っていたより悪くない気がした。


「でもどうして職業が無いのに固有スキルがあるんだろ」


「はっはっはっ」


 雲水が笑う。


「なんだよ」


「前も言っただろう」


 雲水は笑い続ける。


 そして。


「無職も職業だと」


 そう告げた。


「……」


 一瞬。


 言葉の意味が分からなかった。


 だけど、すぐに気付く。


 勇者にも賢者にも聖女にも愚者にも覚者にも。


 そして。


 僕にもある。


 固有スキル――器用貧乏。


 この世界で固有スキルを持つのは固有職か特殊固有職だけだと神官は言っていた。


 つまり。


「……もしかして」


 思わず呟く。


「僕の無職も職業なのか?」


「そうだ」


 雲水が頷いた。


「職業が無いわけじゃない」


 ややこしいなほんとに。


 だけど。


 少しだけ分かった気がした。


 僕は何も持っていないと思っていた。


 能力値も低い。


 戦う力もない。


 職業すらない。


 でも違うと、雲水は言う。


 職業が無いんじゃない。


 無職という名の職業だったのだ。


「……ほんとわかりにくすぎるって」


 思わず苦笑する。


 勇者。


 賢者。


 聖女。


 どれも格好良い。


 なのに僕だけ無職だ。


 締まらないにも程がある。


 だけど。


 無職な器用貧乏。


 その二つを見ていると、不思議と悪い気はしなかった。


 少しだけ。


 これからが楽しみになった。


やっと無職の器用貧乏について触れられました。本当はもっと早く触れたかったんですけど 笑

長かった……。

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