第38話 見落としていたステータス
雲水に殴られてすっ飛んだゴブリンに近づく。
完全にゴブリンは動かなくなっていた。
ぴくりとも動かない。
「……死んでるのか?」
「死んでるでヤンスね」
湊が恐る恐る近付き、拾った木の棒でツンツンつつく。
正直あまり近付きたくはない。
でも、気になる。
この世界に来て、初めて見る魔物だ。
緑色の肌。
尖った耳。
牙は殴られた衝撃で、折れていた。
「雲水」
「なんだ」
「本当に殴っただけか?」
「殴っただけだ」
納得はできない。
ゴブリンはそこまで弱そうには見えなかった。
少なくとも僕なら勝てる気がしない。
それを一撃だ。
「お前強すぎないか?」
「そうか?」
「そうだよ」
「はっはっはっ」
雲水は笑うだけだった。
その時。
「お?」
湊が何かを拾った。
ゴブリンの腰に付いていたらしい。
錆びた短剣だった。
「ナイフでヤンス」
「使えるか?」
「使えなくはないでヤンス」
かなりボロボロだ。
だが何もないよりはいい。
湊は嬉しそうに眺めている。
宝箱でも見つけたみたいな顔だった。
「そういえば」
僕は雲水を見る。
「お前の職業って何なんだ?」
「覚者」
「それは知ってる」
問題はそこじゃない。
雲水は平然としていた。
「ステータスは?」
「見ればいい」
「見れるのか?」
「見れる」
意味が分からなかった。
「どういうことだ?」
「千里眼。固有スキルだ」
雲水が答える。
「視界の共有。見えない物の視認。見たい物が見える」
そして。
「ほれ」
その瞬間。
視界に半透明の文字が浮かんだ。
「うおっ」
驚いて声が出た。
そこには雲水の情報が表示されていた。
職業 覚者
筋力 100
体力 100
敏捷 100
魔力 50
精神 50
固有スキル
悟り
千里眼
超越
「……」
沈黙した。
「……」
湊も沈黙した。
「四百?」
「四百でヤンス」
「はっはっはっ」
本人だけ笑っていた。
「いや笑い事じゃないだろ」
「そうか?」
「確か、勇者でさえ合計値150だぞ……」
本当に意味が分からない。
「そういえば湊は?」
僕が尋ねる。
「待ってましたでヤンス!」
湊が胸を張る。
そして雲水の千里眼で表示された。
職業 愚者
筋力 20
体力 20
敏捷 50
魔力 10
精神 10
運 40
固有スキル
青天ノ霹靂
無明ノ可能性
滑稽な道化師
ザ・フール
「スキル多くない?」
思わず言った。
「そうでヤンス?」
湊が首を傾げる。
「学校のみんなから聞いた話だと、基本二つ三つらしいけど」
「拙者は四つでヤンス!」
「……凄いな」
「ロマンでヤンス!」
いつも通りだった。
でも、スキルが多い分、基本の能力値は低い。運に振られてるせいもあるだろうけど。
「というか運って何だ」
「運でヤンス!」
「だから何だよ」
「知らないでヤンス!」
本人も分かっていなかった。
「俺もないし、他の奴には無かったな。愚者の職業限定か何かだろう」
雲水が言う。
「そういうものなのか?」
「知らん」
知らんのかい。
「でも敏捷高いよな」
「逃げ足だけは速いでヤンス!」
「自慢になってないぞ」
「そう言う由良殿も見せるでヤンス」
「僕のなんて見ても仕方ないだろ」
「見たいでヤンス」
「俺も見る」
雲水まで言い出した。
断る理由もない。
「分かったよ。雲水お願い」
「ああ。千里眼」
僕のステータスが開かれる。
職業 無職
筋力 5
体力 7
敏捷 6
魔力 4
精神 8
「弱いでヤンスな」
「知ってるから」
合計三十。
下級職と同程度。
特に驚くことでもない。
無職なのだから。
そう思った。
だが。
「由良」
雲水が言った。
「なんだ?」
「よく見ろ」
「何を」
「下だ」
下?
僕は視線を落とす。
そして。
そこで初めて気付いた。
「……あれ?」
能力値のさらに下。
あるはずがないと思っていた場所。
そこに文字があった。
固有スキル
――器用貧乏
「は?」
思わず声が漏れた。
固有スキル。
なんで。
無職なのに?
僕はその文字を見つめたまま固まってしまった。




