第34話 友達
偶然にも、洞窟を発見した。
雨の中で見つけたその穴は、思ったより大きい。
大人が二人並んでも余裕で通れそうな入口。
中は暗くてよく見えない。
「……」
少し迷う。
こういう場所って大抵危ない。
漫画とかゲームなら必ず何かしら出てくる。
魔物とか。
モンスターとか。
日本だったらクマがいそう。
「でもなぁ」
空を見る。
灰色の雨雲が空を埋めつくしている。
しばらくは止みそうにない。
服もすでにびしょ濡れだ。
「選択肢ないか」
僕は恐る恐る、洞窟へ入った。
周囲を見渡すが、どうやら魔物は居なそうだ。変な匂いもしないし、骨も転がっていないから、肉食動物もいないと思う。
「助かった……」
岩壁にもたれかかる。
疲れた。
今日は色々ありすぎた。
学校を出て。
森で迷って。
雨に降られて。
気付けば洞窟。
なかなか酷い一日である。
その日は、そのまま入口近くで僕の意識は途切れてしまった。
◇
ガサッ。
「っ!」
その物音で、一瞬にして目が覚めた。
反射的に飛び起きる。
洞窟の外は既に真っ暗だった。
雨音だけが響いている。
今の音は。
確かに聞こえた。
ガサガサ。
何かいる。
「……」
嫌な汗が流れる。
魔物かもしれない。
その可能性が頭をよぎる。
僕は腰のナイフを抜いた。
心臓がうるさい。
ガサッ。
足音が近付く。
暗闇の向こう。
入口付近に人影が見えた。
そして。
「百瀬殿ー!」
「……は?」
聞き慣れた声だった。
「百瀬殿ー!」
人影が洞窟へ飛び込んでくる。
びしょ濡れだった。
「いたでヤンスー!」
「湊?」
思わず目を見開く。
本当に湊だった。
泥だらけで。
髪も服も雨に濡れていて。
肩で息をしている。
明らかに必死で走ってきた顔だった。
「探したでヤンス!」
「なんで……」
思わず言葉が漏れる。
まさか追いかけて来るとは思わなかった。
学校を出たのは僕だ。
勝手にいなくなったのも僕だ。
だから誰も来ないと思っていた。
「追いかけて来たでヤンス」
「なんで」
「心配だったでヤンス」
即答だった。
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
こんな森の中まで。
雨の中を。
わざわざ探しに来たらしい。
正直。
少しだけ嬉しかった。
「……馬鹿だな」
気付けばそんな言葉が漏れていた。
「百瀬殿ほどじゃないでヤンス!」
「そうかもね」
「異世界で、一人で集団から出て行くやつはよっぽどのチート持ちか、よっぽどの馬鹿って相場が決まってるでヤンス!」
思わず笑ってしまう。
さっきまで感じていた不安が、少しだけ軽くなった。
相変わらず変なやつだ。
でも。
一人じゃなくなった。
それだけで十分だった。
「でも失敗だったのが、雨のせいで足取り見失ったでヤンス!」
湊が胸を張る。
何故か誇らしげだった。
「そして結果的に迷ったでヤンス!」
「知ってる」
見れば分かる。
多分かなり苦労したのだろう。
そこへ。
洞窟の奥から声がした。
「はっはっはっ」
「……」
「……」
二人同時に固まった。
今。
確実に聞こえた。
洞窟の奥。
暗闇の中。
誰かいる。
湊が顔を引きつらせた。
「ま、魔物でヤンスか……?」
「知らん」
僕だって知りたい。
恐る恐る奥を見る。
そして。
「よう」
聞き覚えのある声が返ってきた。
「雲水?」
暗闇の中から雲水が出てきた。
いつもの制服姿だった。
濡れてもいない。
むしろ妙にくつろいでいる。
「なんでいるんだよ」
思わず聞く。
雲水は首を傾げた。
「俺にも分からん」
「分からんじゃねぇよ」
「はっはっはっ」
笑って誤魔化した。
誤魔化せていない。
湊も呆れている。
「雲水殿は何をしていたでヤンス?」
「気がついたらここにいて、さっきまで寝てた」
「寝てた?」
「寝てた」
意味が分からない。
「いつからここにいるんだ」
「三日くらい前か?」
「なんでだよ」
「知らん」
駄目だ。
会話が成立しない。
だが。
不思議と安心した。
さっきまで一人だった洞窟に。
気付けば三人いる。
相変わらず意味は分からないが。
少なくとも魔物ではなかった。
「まあいいか」
思わず呟く。
「よくないでヤンス」
湊が突っ込んだ。
確かにその通りだった。
その夜。
僕達は洞窟の入口近くで火もないまま身を寄せ合って眠った。
そして翌朝。
僕達の異世界洞窟生活が始まることになる。




