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第31話 行き先未定。ただ少し、学校を出る

 その日の夜。


 僕は一人で校舎の屋上にいた。


 空を見上げる。


 異世界の星空は妙に綺麗だった。


「……」


 風が吹く。


 夜の森は静かだった。魔物たちも寝ているのかもしれない。


 今日言われたことを思い返す。 


 考えないようにしていた。


 副会長に言われたことも。


 教頭との話も。


 全部。


 別に気にする必要はないとは思ってる。


 でも、役割が曖昧なのも事実で必須人員じゃないのも事実。


「はぁ」


 ため息が漏れた。


 基本的に深く考えない性格だ。


 嫌なことは流し、面倒なことは避ける。


 今までずっと、無難に生きてきた。


 それが僕だ。


 だから。


 こんな風に考え込むのもらしくない。


 しばらく空を見上げる。


 そして。


 ふと思った。


「別に、ここじゃなくてもいいのか」


 誰に聞かせるでもなく呟く。


 副会長の言葉を思い出す。


『待機していただくのが最も効率的です』


 待機。


 つまり何もしないでいろということだ。


 役割がないのだから当然だ。


 何もしなくていいのは楽でいい。


 でも。


 そんなのつまらなすぎないか?


 せっかく異世界に来たんだ。


 どこか別の場所へ行ってみるのも悪くない気がした。


 湊や雲水と王都を歩いた時も楽しかったし。


 学校組じゃなければ生きていけない訳じゃない。


 王都もある。


 冒険者もいる。


 他の町だってあるはずだ。


「まあ危険なことはしたくないけど」


 小さく呟く。


「せっかくなら自由に生きたいよな。どうせ無職で何にも縛られてないんだし」


 そう思った瞬間。


 妙に気持ちが軽くなった。


 残る理由も特にない。


 出ていかない理由も特にない。


 だったら。


 好きにしてもいいのかもしれない。


 そう考えると、不思議と納得できた。


 どうしてだろう。


 僕は無職なのに。


 一番職業に縛られていたのは僕だったのかもしれない。


 吹き抜ける夜風が妙に心地良かった。


 ◇


 翌朝。


 僕は荷物をまとめていた。


 といっても大した量ではない。


 着替え。


 水筒。


 ナイフ。


 保存食。


 それだけだ。


 リュック一つで収まる。


 部屋を見回す。


 数週間過ごした場所。


 思ったより何も感じなかった。


 布団の上に短い置き手紙を残す。


『少し出掛けてきます』


 それだけだ。


「じゃあな」


 誰もいない部屋にそう呟く。


 そして校舎を出た。


 朝の空気は少し冷たい。


 校門へ向かう。


 途中。


 校庭の端に人影が見えた。


 湊だった。


 木剣を振っている。


 一人で黙々と素振りを続けていた。


 冒険者組の訓練だろうか。


 こちらには気付いていない。


「……」


 少しだけ立ち止まる。


 声を掛けようと思えば掛けられた。


 湊。


 その一言だけでいい。


 だけど。


 まあいいかと思った。


 別に永遠の別れというわけじゃない。


 また会うこともあるだろう。


 多分。


 湊は木剣を振り続けていた。


 僕はその背中を少しだけ眺めた後。


 何も言わずに歩き出した。


 校門を抜ける。


 振り返らない。


 誰にも言わない。


 大袈裟な話じゃないのだから。


 ただ少し。


 学校を離れるだけだ。


 そう自分に言い聞かせながら。


 僕は学校を後にした。


 行き先は決まっていない。


 目的もない。


 ただ。


 足の向くまま歩き続ける。


 その先に何があるのか。


 僕は知らない。


 だけど。


 少しだけ楽しみだった。

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