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第30話 副会長の力

湊と久しぶりに会ったその日の夕方。


「百瀬」


 作業を終え、倉庫の片付けをしているとハゲチャビン教頭に呼び止められた。


「少しいいか」


「はい」


 珍しい。


 教頭から直接呼ばれることなどほとんどない。


 僕は手を止めて後をついていく。


 案内されたのは校舎の空き教室だった。


 中へ入る。


 そこには教頭の他にもう一人いた。


「失礼します」


 生徒会副会長だった。


 職業は占星術師。


 人の能力値を確認し、未来へ至る可能性を観測できる希少職だ。


 天道先輩の補佐役として学校組の運営にも深く関わっている人物だった。


「座れ」


 教頭に促され、向かいの席へ腰を下ろす。


 一瞬の沈黙。


 妙に居心地が悪い。


 副会長は僕を見ていた。


 能力値でも見ているのだろうか。


 便利なスキルだとは思うが、見られる側としてはあまり気分のいいものではない。


「百瀬」


 教頭が口を開く。


「まず先に言っておく」


「はい」


「お前はよく働いている」


 予想外の言葉だった。


「文句はない。むしろ助かっているくらいだ」


 教頭は腕を組む。


「建築班も農業班も物資管理班も、お前には世話になっている」


「ありがとうございます」


 とりあえず頭を下げた。


 だが。


 教頭の表情は晴れない。


「ただな……」


 そこで言葉が止まる。


 代わりに副会長が口を開いた。


「問題もあります」


「問題?」


「はい」


 副会長は迷いなく続ける。


「百瀬君は現在、雑務班ですよね」


「そうですね」


「ですが実質的には所属先がありません」


 まあそうだ。


 雑務班なんて僕しかいない。


「単独で動かれている分、管理が非常に面倒なんですよ」


 さらりと言われた。


「建築班に貸し出したと思ったら農業班へ移動。農業班が終われば物資管理班。毎回居場所を確認しなければならない」


「はあ」


「この世界には魔物がいます」


 副会長は淡々と続ける。


「今は学校周辺の安全が確保されていますが、それでも絶対ではありません」


 確かにそうだ。


 だからこそ教頭や先生達は安全管理を徹底している。


 誰がどこで何をしているのか。


 常に把握できる体制を作っていた。


「生徒が一人いなくなった。気付けば魔物に襲われていた。そんな事態は避けなければなりません」


 副会長は机の上で指を組む。


「現状、その可能性が最も高いのは百瀬君です」


 言いたいことは理解できた。


 雑務班は自由度が高い。


 だから管理しにくい。


「さらに私は占星術師です」


 副会長は静かに言った。


「能力値だけでなく、その先にある可能性も観測できます」


「可能性?」


「ええ。未来そのものではありません」


 一度言葉を区切る。


「ですが、未来へ至る流れならある程度見ることができます」


 便利すぎるだろ。


「私は定期的に生徒達を観測しています」


 副会長は続ける。


「どの職業の生徒や、先生達も日々成長を続けています」


 淡々とした口調だった。


「ですが」


 そこで僕を見る。


「百瀬君には、その流れが見えません」


 教室が静かになる。


「見えない?」


「はい」


 副会長は頷く。


「やはり無職だからなのか、能力値は下級職程度、成長率も低く、突出した適性もありません」


 ぐさぐさ刺さる。そんなことはわかっている。


 否定できない。


 何一つ。


「正直に申し上げます」


 副会長は真っ直ぐ僕を見た。


 そこに悪意はない。


 だからこそ厄介だった。


「学校組の運営において百瀬君は必須人員ではありません」


 静かな声だった。


「それどころか、人員管理という観点では不確定要素です」


 容赦がない。


「私の観測では、この先もその傾向は大きく変わりません」


 副会長は続ける。


「ですので、今後は待機班として校内待機をお願いしたいと思います」


 一呼吸置く。


 そして。


「簡単に言えば、効率のために何もしないでいただけますか?」


 言葉が静かに落ちた。


 不思議だった。


 怒りは湧かなかった。


 だって。


 知っていたから。


 そんなことは最初から分かっていた。


 分かっていたはずだった。


 だから傷付く理由なんてない。


「おい」


 教頭が低い声を出す。


「失礼しました」


 副会長は全く悪びれない。


「ですが悪い提案ではないと思うのです」


 そして教頭へ向き直る。


「私の観測では、学校組は今後さらに大きくなります」


「……」


「役割も増え、管理も複雑になるでしょう」


 副会長は淡々と続ける。


「だからこそ役割を明確にするべきです」


 もう十分だった。


 教頭と副会長の考えは理解した。


 でも途中から話は頭に入ってこなかった。


 ぼんやりと窓の外を見る。


 夕日が差し込んでいた。


 異世界の夕日も日本と変わらない。


 どこか寂しさを感じさせる色だった。


 その後もしばらく話し合いは続き。


 やがて終了した。


 ◇


「今日はもう戻っていい」


 教頭が言う。


「はい」


 僕は立ち上がった。


 教室を出る。


 廊下を歩く。


 足は勝手に進んでいた。


 別に傷付いてはいない。


 事実を言われただけだ。


 副会長は嫌な奴だが、スキルで観測した結果も含めて話していたのだろう。


 だから気にする必要はない。


 そう思う。


 思うのだが。


 なぜだろう。


 少しだけ胸の奥が重かった。


 夕焼けに染まる校庭では、まだ何人かの生徒が作業を続けていた。


 農業班。


 建築班。


 鍛冶班。


 みんな忙しそうだった。


 それぞれの役割を持って。


 それぞれの居場所で。


 働いている。


 僕はしばらくその光景を眺めた。


 そして誰にも気付かれないよう、小さく息を吐く。


「……なんだかなぁ」


 呟いて歩き出す。


 何事もなかったかのように。


 いつも通りの顔で。

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